第6話 後悔

文字数 1,634文字

もう死んでから3ヶ月経つ……。
それで、なんの音沙汰もなく、まだ家にいるよ。
ママは私に話しかけてくれるけど、言葉は通じないんだよね。

昔のお化け映画みたいに枕元に立ったりしたんだけど、いびきかいて起きないわ。ハハハッ!
でも、眠ってくれてうれしい。

死んだばかりのときは一晩中泣きあかしてたもんね。
私のことは、朝と夕方の仏壇の世話をするとき以外は忘れてくれていいからね。
ママの気持ちは十分に分かってるつもりだから。

――最近性欲がふつうじゃないんだよね。
ここ数週間は毎日朝から晩まで男とヤッてる。
あと、パーティーもできるんだよね、そんで薬も。

酒飲んで、薬やってそれでも寂しいから誰か呼んで毎晩大騒ぎ!
”誰”って私にも誰か分からないんだけど、寂しい気分になると、どこからともなく見たこともないパーティー野郎たちがやって来て一晩中付き合ってくれるのよ!

あんまり騒ぐと霊でもうるさいのかして、時々ママが目覚めて不思議そうな顔してこっちを見てたり、隣の家から悲鳴が聞こえたりするけど、そんなの関係ないよね!パーティーなんだから!

私生きてるときもセックスもパーティーも薬も大好きだった。
毎日繁華街に出てパーティーできる相手探してたよ。
仕事してなかったけど、男なんてヤラせれば言うこと聞くから寝泊まりする場所なんてどうにでもなった。

そういや、死ぬ前の数ヶ月はあんなに好きだったバンドの連中からも遠ざかってたな。
バンドなんかよりもっと刺激のある生活してるって自分でも思ってた。

でもね……。
やっぱり音楽できるヤツらは羨ましいよ。
私も本当はステージで注目浴びたかった。
高橋も孝太郎も真島も、他のバンドの連中にも嫉妬するくらい尊敬してたんだよね。

私、口がうまいからさ、コミュ力はあるんだ。
だから、遊びに行ったいろんな連中のライブの打ち上げにも誘ってもらった。
打ち上げじゃ口からデマカセで、知っているアーティストの話なんかで盛り上がれるの。

でも、私楽器も歌もダメだから。
それがなにかのときにみんなに知られると、ちょっと雰囲気変わるんだよね。
見下されているって感じじゃないんだけど、ちょっと引かれちゃうみたいな。
その瞬間、私たまらない気持ちになるんだよね。

ちょっとだけギター弾いたりパーカッション練習したりもしたよ。
でもダメなんだ、才能ないんだよね。

そういや、高橋の家で2人で遊んでたとき、私が楽器が何もできないことバレたことがあった。
でもあいつ、「俺も楽器なんて大してできないよ!お前も練習したすぐにライブくらいできるから、本気でやってみなよ!」って言ってくれた。

あんなリアクションは初めてだったな。
あいつ、まったく引くこともなかったし、バカにもしてなかった。
あのとき気持ちを入れ替えて練習してたら、こんなことになってなかったかもしれなかったのに。

死んだ今でもその気になれば、ギターでもピアノでも目の前にして練習できるんだけど、どれだけやってもうまくならないの。
ずっと死んだときのレベルのまま。
何日練習してもね。

死んだら何でも手に入りそうだけど、”上達”しないんだよね。
不思議なもんだ。

あと、私はイラストもよく描いてた。
高橋も絵を描くから、そこでも気が合ったな。

あいつ、私の絵を見たとき「やるじゃん!お前才能あるよ!」って本気で喜んでくれた。
ずっと忘れてたけど、今思い出したよ!

あのときもあいつ「やっぱりお前は音楽じゃなくて絵だな!本気でやれよ!いいとこイケるかもよ!」
って言ってくれたっけ……。

あのとき私、本気で嬉しかったんだけど、その後飲み屋通い初めて酒と薬と男におぼれちゃって、絵を褒められた喜びなんて小さく思えてさ。
私、2つもチャンスを逃したかもしれないね。

死んでからも暇つぶしに絵を描くけど、やっぱり上手くはならないんだよね。

本当に後悔してるよ。
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