第4話 不安
文字数 2,036文字
葬式には高橋と孝太郎と真島も来てくれた、その他にも大勢のバンドマン。
みんな見たこともない神妙な顔してお焼香してくれた。
ちゃんと葬式の作法知ってるんだね。
ママはだいぶ無理してるな。
「あの子はにぎやかなのが好きだったから、しんみりせずに楽しくやってね!」
なんて、うれしいこと言ってくれちゃって。
でもみんなそんなことできるわけないよね?ハハッ!
サヤも少し元気な顔してくれるようになったから少し安心した。
心配なのは高橋。
あと孝太郎も。
こいつらかなり図太い人間だと思ってたのに、めちゃくちゃ弱い。
睡眠薬のこともあるから責任感じるのも分かるけど、高橋の落ち込みかたエグいからなんとかしたいな。
昨日から高橋に呼びかけてるんだけど、私の声は聞こえてないみたい。
コイツ飯もずっと食ってないし、大丈夫かな?
たぶん、私のあとを追うようなことはしないと思うけど、体壊しちゃうよ。
ほっんとにお前のこと恨んでないから!
とにかく、お通夜と葬式にたくさんの人が来てくれて(なかには”付き合い”だけの心のこもっていないヤツもいるけど)晴れやかな気分だった。
――通夜、火葬、葬式と終わって私は母と住み慣れた家に戻った。
私が睡眠薬を飲んで倒れたのは、バーで知り合った男、古川のマンションだった。
もちろん古川とは肉体関係があったし、私は気持ちのどこかで「自分の彼氏」だと思っていた。
古川の部屋に転がり込んで3週間くらいだったけど、私が死ぬ前にはヤツはすでに冷めていたようだった。
夜になるとフラフラと出歩き、ワガママ放題の私に嫌気が指していたのか、会話もなく「もう潮時だな」と感じていた。
私が高橋に電話をして睡眠薬を大量に仕入れたのも、古川の気を引くためだった。
高橋は私がいつものように睡眠薬で遊ぼうとしているのだろうと、気軽に睡眠薬100錠と、安定剤、抗うつ剤などをくれた。
私が「死ぬつもりはなかった」と確実に言えるのは、高橋が過去に同じ睡眠薬を100錠近く飲んで、24時間ぶっ通しで眠ったというエピソードを聞いていたからだ。
高橋はその日、自分のライブに穴を開けて、えらい騒動になっていたのではっきりと覚えている。
そのとき高橋は、体を心配するバンドメンバーに「今の睡眠薬は安全だから自殺になんて使えないんだよ!」と豪語していたのだ。
だから、私は”安全に”古川の気を引けるとふんで大量に飲んだ…。
その結果がコレだよ。
家は私が古川と住み始める前とまったく同じ様子で、ママはいつも通り掃除をしてくれていた。
なんだかものすごく懐かしい気持ちになった。
嫁に行って実家に帰ったときのように、すがすがしい気分だ。
(やっぱりうちがいいな!)
なんて絨毯の上に寝転がっていた。
私はそのとき”自分が死んでいる”こともすっかり忘れていた。
――ところで、人が死ぬと三途の川を渡ったり閻魔様の法廷に立ったり、地獄や天国に送致されるなんてこと、子供の頃から聞いてきた。
私は宗教もしていなかったし、人間死んだら魂もクソもなく全部消滅するもんだと思っていた。
いや、思っていたように思う。
でも、こうして”晴れて”死んでから、まだ自分の意識があることで、いわゆる「霊の世界はあるもんだ」ということを知った。
これならちょっとくらい、死んでからのことを教えてくれる宗教でもやってらよかったと思う。
がっちり宗教なんてする気はないから、「死んでからマニュアル」みたいなものをちょろっとでも聞いておけばよかった。
だって今、メチャクチャ不安なんだもん!
何が不安かって、このままずっとこの生活が続くのか、それともどっかに連れて行かれることがあるのか……。
なんの”お知らせ”もないんだよね!
ずっとこのままなら、私もそのつもりで何かおっ始められるんだけど、天国やら地獄やら閻魔さんやら、そんな予定があるなら告知してもらいたいもんだ。
今?
困っていることは何もないよ。
こうしてタバコは吸えるし、酒を飲もうと思えば飲めるし、エッチも不自由なく。
だけど不安で不安でたまらない。
それにかなり暇なんだ。
お金の心配もする必要もないし、人間関係で嫌な思いすることもない。
私が求めていた「天国」ってこれなのかな?
だけどやっぱり不安だな。
やっぱり死んでからのこと、ちょっとだけでも勉強しておいたほうがよかったわ。
10分くらいで覚えられそうなことだったのにね。
ああ!そうだ!”49日”だ!!
仏教で49日ってのがあったの思い出した!
たしか……死んでから49日経ったら、骨を墓にいれて…それで仏壇用意して…それで生きている人は喪に服すんだっけ?
たしかそうだったと思う!
じゃあ、私はそれまではここにいられるってわけだ!
それが分かっただけでもちょっと気分が楽になったよ~~
ああ、また酒飲んでエッチしたくなってきた。ヘヘッ。
みんな見たこともない神妙な顔してお焼香してくれた。
ちゃんと葬式の作法知ってるんだね。
ママはだいぶ無理してるな。
「あの子はにぎやかなのが好きだったから、しんみりせずに楽しくやってね!」
なんて、うれしいこと言ってくれちゃって。
でもみんなそんなことできるわけないよね?ハハッ!
サヤも少し元気な顔してくれるようになったから少し安心した。
心配なのは高橋。
あと孝太郎も。
こいつらかなり図太い人間だと思ってたのに、めちゃくちゃ弱い。
睡眠薬のこともあるから責任感じるのも分かるけど、高橋の落ち込みかたエグいからなんとかしたいな。
昨日から高橋に呼びかけてるんだけど、私の声は聞こえてないみたい。
コイツ飯もずっと食ってないし、大丈夫かな?
たぶん、私のあとを追うようなことはしないと思うけど、体壊しちゃうよ。
ほっんとにお前のこと恨んでないから!
とにかく、お通夜と葬式にたくさんの人が来てくれて(なかには”付き合い”だけの心のこもっていないヤツもいるけど)晴れやかな気分だった。
――通夜、火葬、葬式と終わって私は母と住み慣れた家に戻った。
私が睡眠薬を飲んで倒れたのは、バーで知り合った男、古川のマンションだった。
もちろん古川とは肉体関係があったし、私は気持ちのどこかで「自分の彼氏」だと思っていた。
古川の部屋に転がり込んで3週間くらいだったけど、私が死ぬ前にはヤツはすでに冷めていたようだった。
夜になるとフラフラと出歩き、ワガママ放題の私に嫌気が指していたのか、会話もなく「もう潮時だな」と感じていた。
私が高橋に電話をして睡眠薬を大量に仕入れたのも、古川の気を引くためだった。
高橋は私がいつものように睡眠薬で遊ぼうとしているのだろうと、気軽に睡眠薬100錠と、安定剤、抗うつ剤などをくれた。
私が「死ぬつもりはなかった」と確実に言えるのは、高橋が過去に同じ睡眠薬を100錠近く飲んで、24時間ぶっ通しで眠ったというエピソードを聞いていたからだ。
高橋はその日、自分のライブに穴を開けて、えらい騒動になっていたのではっきりと覚えている。
そのとき高橋は、体を心配するバンドメンバーに「今の睡眠薬は安全だから自殺になんて使えないんだよ!」と豪語していたのだ。
だから、私は”安全に”古川の気を引けるとふんで大量に飲んだ…。
その結果がコレだよ。
家は私が古川と住み始める前とまったく同じ様子で、ママはいつも通り掃除をしてくれていた。
なんだかものすごく懐かしい気持ちになった。
嫁に行って実家に帰ったときのように、すがすがしい気分だ。
(やっぱりうちがいいな!)
なんて絨毯の上に寝転がっていた。
私はそのとき”自分が死んでいる”こともすっかり忘れていた。
――ところで、人が死ぬと三途の川を渡ったり閻魔様の法廷に立ったり、地獄や天国に送致されるなんてこと、子供の頃から聞いてきた。
私は宗教もしていなかったし、人間死んだら魂もクソもなく全部消滅するもんだと思っていた。
いや、思っていたように思う。
でも、こうして”晴れて”死んでから、まだ自分の意識があることで、いわゆる「霊の世界はあるもんだ」ということを知った。
これならちょっとくらい、死んでからのことを教えてくれる宗教でもやってらよかったと思う。
がっちり宗教なんてする気はないから、「死んでからマニュアル」みたいなものをちょろっとでも聞いておけばよかった。
だって今、メチャクチャ不安なんだもん!
何が不安かって、このままずっとこの生活が続くのか、それともどっかに連れて行かれることがあるのか……。
なんの”お知らせ”もないんだよね!
ずっとこのままなら、私もそのつもりで何かおっ始められるんだけど、天国やら地獄やら閻魔さんやら、そんな予定があるなら告知してもらいたいもんだ。
今?
困っていることは何もないよ。
こうしてタバコは吸えるし、酒を飲もうと思えば飲めるし、エッチも不自由なく。
だけど不安で不安でたまらない。
それにかなり暇なんだ。
お金の心配もする必要もないし、人間関係で嫌な思いすることもない。
私が求めていた「天国」ってこれなのかな?
だけどやっぱり不安だな。
やっぱり死んでからのこと、ちょっとだけでも勉強しておいたほうがよかったわ。
10分くらいで覚えられそうなことだったのにね。
ああ!そうだ!”49日”だ!!
仏教で49日ってのがあったの思い出した!
たしか……死んでから49日経ったら、骨を墓にいれて…それで仏壇用意して…それで生きている人は喪に服すんだっけ?
たしかそうだったと思う!
じゃあ、私はそれまではここにいられるってわけだ!
それが分かっただけでもちょっと気分が楽になったよ~~
ああ、また酒飲んでエッチしたくなってきた。ヘヘッ。