第5話 49日

文字数 1,317文字

――49日経っちゃったよ。

なんで誰も迎えに来ないんだ?
私が死んだのは確か…11月の18日で・・・今日は1月15日だから、もうとっくに過ぎてるわな。
ママ貧乏だけど、あのくそオヤジに金出させて街なかにあるお寺に納骨したんだけど、一緒に帰ってきちゃったよ。
あの寺雰囲気悪かったんで、あそこで暮らすのも嫌だったからまあいいんだけど、なんの変化もないのも困ったもんだな。
仏教の教えはどうなってんだ?

そういや、私が死ぬ前には”死神”も来なかったしね。
私ほんとうに死んだのかな?
ママは毎日般若心経っていうの?あれ唱えてくれるから、やっぱり死んだんだろうな。
よく分かんねえや!

あとそれと、最近へんなもの見るんだよね。

このあいだ、あんまりヒマだから散歩にでも行こうと外に出たら、うちの団地の同じ階から男が飛び降りたの!
うちは団地の8階にあって、部屋を出たら長い廊下になってる。
その廊下にはフェンスがあるんだけど、それを飛び越えて飛び降りた!

私、ビックリして大声出して、そのまま動けなくなった。
そしたら、飛び降りたはずの男がいつの間にかまた、フェンスにいて、何回も何回も飛び降りるわけよ。
その男がさ、飛び降りる前に真っ青で狂ったみたいな顔してこちらをギロって見るのよ~
ほんと気味悪い…。

私、あれが誰だか知っているの。
私とママがここに引っ越して来る前、同じ階の生活保護受けてた男がアルコール依存症でさ、おかしくなってついに飛び降り自殺したんだって、下の階のちょっと仲が良かったオバサンが言ってた。

でも、それ多分10年くらい前の話だよ。
あいつ10年間もずっと飛び降り続けているのかって思うと、気味悪いわ!

今じゃ私も他人事じゃないしね。
もしかしたら、私も10年くらいここにいるのかな……わぁぁぁっ!それが一番怖い!!
気持ち悪くて、あの日から外に出るのも嫌になっちゃったよ。

私が死んでから一番最初に見た幽霊ってわけね。
でも”幽霊”って感じじゃなかったな。
なんか、映像を見ているみたいで、肉体はもちろんだけど、霊すらあそこに存在しない感じがするんだ。
でも見えちゃうんだよね。
”あの目”を思い出しただけでも、ゾッとするわ。


――時々高橋が祈ってくれてるの。
それすごく嬉しくてさ。
みんな私が死ぬ前の元の生活に戻りつつあるから。
別にそれはそれでいいし、いつまでも私のことが引っかかって暗い顔されてるより、そのほうがいいんだ。
これは本心。

でも、高橋はほんと弱いんだね。
あいつ、私が死んでから飯食えなくなって入院しちゃった。
なんか可愛そうになってきた。

私、何度かあいつのところに行って話しかけてるんだけど、あいつまったく気づいてくれない。
「もう心配いらないから元気だしてよ」っていう私の言葉も聞こえていない。
あいつは薬の副作用で見る幻覚を私だと思いこんで、そこで見る恐ろしい女が私だと勘違いしてるんだよね。

「真奈、ごめん!ごめん!」

ってもういいよ…。
私ここで、けっこう楽しくやってるからさ。
あんたのほうがよっぽど辛そうじゃん。

でもうれしいよ、ほんとに。
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