第10話 すらいどしょー

文字数 950文字

最近私は絵を書いている。
やっぱり上達はしないけどね。

酒もタバコも薬も欲しくなくなったし、男なんて吐き気がするわ。
だから毎日朝起きてから眠るまで絵を描いてるの。
うまくならなくても楽しいよ。

昔から使っている、ピンク色のスケッチブックに描いてる。
不思議なんだけど、描いても描いても生きているときに描いた分より増えないのよね。
でも楽しくてたまらない。
生きてるうちにもっと描いておけばよかった。

もう死んでからどれくらい経ったのか覚えていないわ。
たぶん半年くらいかな。
今じゃお坊さんか修道女みたいな生活してるよ。
この姿みんなに見てもらいたいな。

あれ?
”みんな”って誰だっけ?

え~と…。
私に睡眠薬くれたのは……タカ……

ダメだ。
思い出せない!

それと、私の親友の……。
これもダメだな、名前が出てこないよ、顔もなんだか思い出せない。


――私、死ぬとき「アレ」を経験したんだよね。
そう、”走馬灯”みたいなやつ。

睡眠薬で眠ってたけど、どこか意識が起きてて、それで突然目の前に大きな画面が現れて、子供の頃からの思い出がパラパラって出てくるやつ。
あれほんとうにあるんだね、スライドショーみたいに次々と映像が現れるんだよ。


それで、今も私の前にまたあの「スライドショー」が出てきてるの。


ただ、今度は死んだときよりもっとゆっくりで、あのときとは逆に映像が消えていくの。
消えていくのって気持ちいいわよ!


――私もう一回死ぬのかな――。

へんな感じ。

人間ってそんな何度も死ぬものなの?

とにかく消えるスライドショーは、パラパラ今も動いている。


???あの人誰だっけ???
仏壇の前で手を合わせている女の人。
なんか見覚えあるんだけど。

あれ?
私裸になってるな。
なんでここにいるのかな?

私、何も持ってないや。
何だか少し泣きたい気分。

あ!このスケッチブックはあるんだな??
どれどれ…。

うん、たしかに私の描いた絵だよ!間違いない!

なんだか泣き叫びたい気分になってきた。

なんでだろ?ぜんぜん悲しくないのにな。
ワクワクしてるのに、涙だけが出てくるんだよね、へんなの。


スライドショー終わったみたい、真っ白だよ…。

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