妄想:雨音と異世界ゆる生活

文字数 3,016文字

 異世界に召喚されて、どれ程経ったのだろう。途中から、日数を数えるのも面倒になってしまい、部屋にカレンダーは無いのでチェックしようもない。
 ただ、特に困ってはいない。なんなら、流されるままに生きるタイプの人間は、予定を自ら組み立てる方が難しい。
 さて、ちまちまと稼いだ異世界側の通貨で、魔力を溜めておく装置を購入した。持ち運び易いサイズで、モバイルバッテリーより密度が低い。
 それから、術を刻み込めるプレート。これに、魔力を電力に変換する術を刻み込む。その理屈は、異世界側が魔力を光エネルギー等に変換する技術書から応用した。

 後は、変換された電力を、どうやって交流にさせるかである。プラグとコンセントなら、初回Bの呪いで、何に使うかも分からないまま、無駄に買ったものがある。
 それを使えば、差し込み口は確保出来る。うん、あれもまた無駄な買い物では無かった。
 魔力を電力に変換し、そのアンペア数を設定する術を追加。そうして、電池の代わりならば、既に実験は成功している。だが、こちらは直流である。
 小学校の理科でも習う直流。直列に並列に電池を繋ぎ、電球が光るかどうか、光り方はどうかを実験で確かめる授業が、小学校であった。つまり、そこまでなら小学生の知識でも出来る。
 抵抗を加えた計算は、中学でやったと思うが、電池の向きと繋ぎ方辺りまでは小学校でやったと思う。だからこそ、実験も気軽にやれた。材料が、百均のライトと、異世界側の実験セットなのも気軽にやれた要因だった。

 ともあれ、次の課題は交流への変換。いや、そもそも交流ってなんだ?
 確か、東西で50Hzか60Hzの差が……いや、そもそもACアダプターって、交流を直流にするものではないか。つまり、元が直流なら、むしろアダプター変換無しで使用出来ると言うことか。
 分かり易くACアダプターと書いてあるものであれば、ACからDCへ変換せずに電気を流せば良いと言うことか。これは、電池でも使え、電源に繋いでも使えるプレーヤーで試すのが楽だ。プレーヤーを電源に繋ぐパーツ、交流を直流に変換するゴッツいACアダプターだし。
 そうと決まれば、本来ならACアダプターを本体へ繋ぐ穴に……いや、電池と違ってプラマイ無いからな。むしろ、電池の代わりに、魔力から変換した電力で動いたな。

 ともあれ、実験だ。鳴り響け、雨音から始まる曲よ。そして、雨続きで鬱々した気持を萌えに変換するのだ。
 結果、なる様になった。アンペア数を設定してやれば、ACアダプター接続のものは、多分使える。ただ、使用アンペア数が大きなものは、装置が耐えられるか分からないし、そもそも魔力が元の電力でどれ位機器が使用可能かも謎である。
 うむ、次は音源を保存しておける魔法道具の調査だ。この世界にだって、何かしらの録音道具はある筈だ。

 異世界側にも、雨の続く時期があるらしく、十日程じめじめした日が続いている。そして、太陽光からエネルギーを得られないせいか、魔力供給の頻度が増えた。だが、その代わりにと、得られる異世界側の通貨も増えた。
 雨模様だと、学校周辺の露店は減る。屋根を作って、或いは魔法で雨を弾いて営業している店もある。だが、この世界でも雨の中の買い物は億劫であるらしく、客足も遠のいている様だ。
 私も、雨の日は買い物に行かない派だ。一度、雨の日ならお買い得な品がなかろうか……と、出掛けてみた。だが、むしろ値上げしている店まで在った始末。そりゃ、買い物しに行く学生も減るってものだ。

 さて、晴耕雨読とは言ったもので、異世界側の技術書を手当たり次第に図書館で読んでは、気になった本を借りる生活である。
 異世界側の図書館、本の天敵である湿気対策が素晴らしい。そもそも、雨を侵入させてなるものかと言わんばかりに、窓が少ない。つまり、紫外線からも本は守られているのである。
 また、無断持ち出しを防ぐ為に、出入口は限られている。代わりに、常に風魔法が発動し、本にも人間にも優しい空気が流れているのだ。異世界側の図書館、そこで凄い技術を発見する度に楽しくなる。

 さて、自室に本を持ち帰ると、窓からは雨音が聞こえてくる。授業中は教師の声がしているし、窓際の席でも無ければ、豪雨でも無い限り雨音は聞こえない。
 だが、窓の質が違うのか、単純に距離の問題なのか、自室では雨音が聞こえる。静かな図書館で本を読むのも好きだが、ネイチャーサウンドを聞きながらの読書も趣があって良い。
 異世界に召喚されてから、ネイチャーサウンドを無表情で愛でる楽しみを知ってしまった。ヒーリング音楽にネイチャーサウンドを使ったものもあるが、録音されたものより天然ものが効きそうだ。そりゃ、無表情にもなるし愛でられる。

 異世界側のネイチャーサウンド、録音して売られていたら良いのだが。そうすれば、そこから異世界側の録音技術を推察出来るから。
 うん、今は考えるより読書だ読書。借りてきた本の中に、何かしらのヒントがあるかも知れないのだから。
 「やまない雨は無い」とは言うが、降り続いている時にはそれが疑わしくなる。ただ、異世界生活では外出するにも学校位のもので、それも魔法によって楽々移動出来る。校舎の外に出るなら傘も必要になるが、出なければそれまでだ。
 また、雨が降り続いたら、さぞかし地面もぬかるむだろうと思ったが、水魔法が得意な人の魔術によって、上手いこと調整しているらしい。学校の畑では、作物が根腐れしないよう、雨が降り過ぎた時は何かしらの対策をやっているらしい。

 ただ、それは担当の生徒任せであり、作物によっては環境に強ければ何もしなくても耐えられると言う。確かに、そうでなければ野生の草花は生き残れない。人の手が加わると、自然の力が変質するのは、どの世界でもあることなのだろう。
 果物によっては、ストレスを与えた方が甘くなるとも言われるし、その為に水分を制限する農法もあるらしいが……それは、専門の人に任せ、召喚された身は甘い汁だけを吸っておこう。農業に適合する魔法属性は、土や水であって私の出る幕はそもそも無い。
 だから、晴耕雨読とは言わず、晴れても耕しはしない。ただ、雨の日は本を読むのに集中しやすい気がする。

 細々と異世界側の人の要求には応えている。だが、その回数は多くない。満員電車で通勤しなければならなかった世界から召喚されたら、至れり尽くせりなゆるい生活。だが、ぼんやりしていられるかと言えば、個人でやれることは容赦なくやっている。異世界側の人の都合が関わってくることだけは、色々と警戒しながらやる。
 召喚されて属性が判明した時は、もっと沢山の仕事があると思ったが……あくまで、私の召喚は勇者のオマケみたいなものだった様だ。なんなら、魔力が膨大らしいから「下手に手放して敵になったら危険」と考えられているだけかも知れない。ロールプレイングゲームに有りがちな、敵になると厄介なキャラ扱い。

 ならば、召喚されたての訳も分からない内に、ひと思いに処分……なんてやれば、ラノベで言うところの「ざまあ系」のフラグが立つ。だから、先ずは美味しい餌で懐かせて……かも知れない。その可能性を考えたからこそ、得られるものは通貨も知識も存分に貪欲に。いざという時に異世界で生活出来るだけの知識とスキル、プライスレス。
 さて、雨音を聞きながら異世界生活を堪能しますかね。
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