【第3話】鏃(やじり)。

文字数 1,940文字

(この作品は『仮面ライダーW』の二次創作作品です。実在の人物、事件等との関係はありません) 
地響きのような鳴き声で『H』(ヒート)ドーパントが吠える。腕を震わし、無数の火球を飛ばしてくる。 
それが答えか。とりあえず、倒して剥ぐしかないようだな。メモリを!
少しは回転し(まわっ)てきたようだね。まぁ、最悪壊しても僕達の罪じゃあない。この街を守る為だ。おてんと様も許してくれるさ。
ちがいねぇ。いくぜ!
『C』(サイクロン)パンチで追い込もうとするが、お生憎、奴は『炎』だ。『風』により強く燃え上がる。フィリップのパンチは『H』ドーパントを肥大化させるだけだった。 
おいおい。ヤバくないか? 相棒。
問題ない。翔太郎、『J』(ジョーカー)キックでコイツの足元をすくってくれ。
おう。って、こいつの熱さ半端じゃねぇぞ? 近づけねぇ!
怯むΣライダーの下半身を上半身を扱うフィリップが叩く。指をドーパントへ向けて振り払う。 
しょうがない相棒だな。少しだけ時間をあげよう。その間に一発頼むよ。
【C(サイクロン)マキシマムパンチ!】
『マキシマムドライブスロット』を叩いて、腕を後方へ振る。そこから怒涛のパンチを繰り出す。
おー。なかなかだ。芸能人にしとくのは勿体ねぇな。いっそ仮面ライダーに転職するか?
その言葉、あの時、……7年前に聞いておきたかったな。
心が怯む。だが、フィリップは目をチカチカと、おどけて笑ってくれた。
ただね、翔太郎。今でも僕はこの街の仮面ライダーのつもりさ。ずっとキミの傍に居る、2人で1つの、ね。
いやん♪ ホモKITA! 『フィリップさん×おっさん』! いいわぁ♪ って違う違う! 翔太郎さん、早くしないと風が途切れる!
おいおい! ツッコミ待ちか? おい! 俺、ドコからつっこみゃいいんだ? ま、まぁいい!
思わず頭をかき乱したくなるが今は仕事だ! ハードボイルドに決めて見せる! 
炎の割けた視界に足を滑らす。そのしっかり根付いた足を大きく払った。
巨大な炎(ドーパント)が駅舎を潰しながら倒れていく。 
【C(サイクロン)パンチ】 
【C(サイクロン)パンチ!】 
【C(サイクロン)パンチ!!】 
フィリップ主導のパンチが倒れ起き上がれない敵へ無数に撃ち込まれていく。肥大に肥大を重ねて、ドーパントは弩級の大きさになった。――なるほど。 
burst(バースト)。か。
ご名答。決めに行くよ翔太郎。
膨れに膨れたHドーパントは、肥大化の限界を超えて破裂(バースト)した。 

俺たちはΣドライバの右側についた『マキシマムドライブスロット』へ【T2ジョーカーメモリ】を差し込み、――空を舞う。
【CJ(サイクロン・ジョーカー)マキシマム・シグマ(最高合算)!!】 
剥きだしの人型になった『Hドーパント』へCとJのメモリの力を込めた『ライダーキック』を叩き込む。 

激しい爆発。炎上した人間を、歩(あゆ)がすかさず抱き起こす。その体からあふれ出た1本の赤いメモリを回収する。指で回して俺たちへサムズアップを魅せつけた。 
なるほど、ね。
何が『なるほど』なんだ? お前の知り合いか?
変身を解き俺たちは2人へ戻る。フィリップはマフラーの上の顎をしきりにさすっていた。
ああ。ウチの事務所で何回か顔を合わせたことがある。たしか……、『ククリコ遠藤』さんのマネージャー。そうだね?
……。
ドーパントだった男は、きつく俺たちを睨みつけ、顔を歪めると高く笑い始めた。
……何が可笑しい。おい。お前の後ろ(バック)に居るのは誰だ? 今なら助けてやれないことも無い。話してみろ。
指を突き付け言葉を飛ばすが、そいつはフィリップを睨みつけるだけだった。 
だが数秒後、唾を吐きだし俺たちを見渡しながら語った。 
……誰が話すか。新人のお前が、かの、
『ククリコ遠藤』のマネージャー、その眉間に『炎の鏃』が突き刺さる。一瞬の出来事に俺もフィリップも反応が出来ない。走り寄って抱きかかえるが、すでにその体からは命の雫が漏れ落ちていた。 
おい! しっかりしろ! 『かの』って何だ! おい!
再び、そいつが息を吹き返すことは無かった。鏃の飛んできた方向を振り返るが、何処にも、何の痕跡も見受けられない。 
いったい誰だ? 何処から攻撃を受けた? おい! 亜樹子見てたか?!
……。
亜樹子は悔しそうに下唇を噛むばかりだ。歩(あゆ)も「見ていない。」と首を振る。Hドーパントの暴走から皆逃げ去って、他には人の居ない状態だった。 
――事件は、不可避な現実から始まり不可解な終わりを見せた――。 

フィリップは顎に手をやり考え込む。亜樹子は泣き出した赤子をなだめていた。

歩(キーキャラ)は中天の太陽(そら)を眺め、汗を一つ伝わせていた。年不相応な苦々しい顔つきで。 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

左翔太郎(ひだり しょうたろう)。


30歳。男性。


【J】のガイアメモリを扱う風都の仮面ライダー。

半熟野郎(ハーフボイルド)だが、心に芯のあるモノを持っている。

サングラスを愛用し、整った顎髭が自慢。

歩に『おっさんライダー』と呼ばれている。


フィリップ(園咲来人)。


24歳。男性。


【C】のガイアメモリを扱う翔太郎の相棒。

地球(ほし)の本棚と呼ばれる情報の塊にアクセスする事が出来る、仮面ライダーWのブレイン。

融通が利かない性格だったが、アイドル業を経て、多少の冗談が言えるくらいには成長した。


風渡歩(かぜわたり あゆ)。


18歳。女性。


翔太郎の窮地に現れた謎の高校生。自称、科学者。

翔太郎とフィリップに、Σドライバを渡し、2人を最強の仮面ライダーΣに変身させた。


照井亜樹子(てるい あきこ)。


27歳。女性。


鳴海探偵事務所の所長。仮面ライダーアクセル・照井竜の妻。

翔太郎達の雇い主。今は2児の母として、次男、大河(たいが)の世話をしている。


クリムゾン。


19歳? 女性?


謎の少女。

【C】のガイアメモリを扱う。


歯車貞女(はぐるま さだめ)。


?歳。男性。


クリムゾンの仲間である謎の男。

クリムゾンに強く嫌悪されている。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色