【第9話】霧彦。
文字数 2,021文字
眼の前に現れた青い仮面ライダーはその騎士の仮面の内側、複眼を煌めかせ言った。
思うように言葉に成らない。苦しい、でも有難い気持ちが溢れて仕方ない。
有難さに、頬を伝うモノが抑えられなかった。その命を守れなかったことが、救えなかったことが、共に戦えなかったことが、ずっと、ずっと心を苦しめていた。
霧彦、いや『仮面ライダーウインド』がスロットのメモリを叩き鳴らす。両腕と両足にそのチカラを宿していく。
霧彦、いや『仮面ライダーウインド』がスロットのメモリを叩き鳴らす。両腕と両足にそのチカラを宿していく。
【W(ウインド)!】
ヴァイラス達の声が空から聞こえた。
ウインドが腰の『マキシマムドライブスロット』を優しく撫でた。
【W(ウインド)。サイレントマキシマム】
風が静まり、音を消した大気から菌が沈下してくる。俺とフィリップ、2人で1人の仮面ライダーはH(ヒート)のチカラでその1つ1つを潰していく。
フィリップがこの上半身を捻り怪訝な声で言った。
俺が笑うと、『仕方ない』といった感じでフィリップが応えた。
星の本棚の記憶と知識がここ(頭)に流れてくる。見下ろした神の視点は遙か高い空を捉えた。
本棚を閉じ見やった隣りにはW(ウインド)ライダーが居た。彼は指で小粋に空を示した。
【W(ウインド)マキシマム!】
腰を叩いてウインドライダーが空を舞う。蒼いマフラーをたなびかせ、彼は空を歩んだ。
【W(ウインド)マキシマムアタック!!】
マキシマムドライバスロットを強く叩く。その姿は、……なんて懐かしいんだ。『あの時の姿』だった。
『ナスカドーパント』の姿だった。彼は『ナスカ』の姿で空を舞い、遙か遠く高い、黒いコア(メモリ)を打ち砕いた。
仕事を終えた俺達の前、事務所内のソファで足を組んで彼が言う。口に運んだ紅茶を置いて彼は語った。
霧彦が歩を差し示す。
「ありゃ、言っちゃうの?」
と歩は手を上げおどけた。
俺達が前に出したΣドライバを、優しい指使いで手に掛ける。
霧彦はΣドライバを俺達へ返すと、立ち上がり腰に手をあて数歩歩んだ。
頷く。したたかな笑みで彼は答えた。
そして俺達の前に、その傷跡を残す右腕を差しだし言った。
その指を強く握りしめる。2度と、2度と敵味方に分かれぬよう、この街を護る想いを、覆さぬように。
おどけて笑う歩のデコを小突いて口にした。
痛そうに、でも歩は飾らない笑みで俺を見ていた。
年相応の笑顔で、俺に甘えてくる。俺は帽子を直して、ハーフボイルドに笑ってみせた。
事務所のドアを開け放ち、焼けた空を仰ぎ見る。そこには白いカモメが舞っていた。避難警告の消えた街へ、子供たちの笑顔が走り出す。買い物かごを手に両親の笑顔がそれを追う。少しずつ、この街に休日の風が満ちていく。
帽子を手に熱い日差しを目に焼き付けた。明日もきっと日本晴れ。この街はきっと、いや、……絶対大丈夫だ!