【第9話】霧彦。

文字数 2,021文字

助けにきたよ。この街を愛する友よ!
霧彦、お前、本当に生きて……、
眼の前に現れた青い仮面ライダーはその騎士の仮面の内側、複眼を煌めかせ言った。
いや、私は死んだ。冴子の手によって、ね。

とりあえず、現状を打開しようじゃないか!

……お前は、お前は、
思うように言葉に成らない。苦しい、でも有難い気持ちが溢れて仕方ない。 
左翔太郎。私の事はこう呼ぶといい。風渡霧彦(かぜわたり きりひこ)、新しい風をあやつるモノ。『ウインド』と。
有難さに、頬を伝うモノが抑えられなかった。その命を守れなかったことが、救えなかったことが、共に戦えなかったことが、ずっと、ずっと心を苦しめていた。

霧彦、いや『仮面ライダーウインド』がスロットのメモリを叩き鳴らす。両腕と両足にそのチカラを宿していく。 
【W(ウインド)!】 
……世界中ニ菌ヲ。
……世界中ニ菌ヲ、
マキチラス!
ヴァイラス達の声が空から聞こえた。 
私がこの忌まわしき風を固定する。その間に、左翔太郎、キミの炎のチカラで。
ウインドが腰の『マキシマムドライブスロット』を優しく撫でた。 
【W(ウインド)。サイレントマキシマム】 
風が静まり、音を消した大気から菌が沈下してくる。俺とフィリップ、2人で1人の仮面ライダーはH(ヒート)のチカラでその1つ1つを潰していく。 
核は何処だ? 残り2つの【V】メモリの在処(ありか)を調べてくれ!
フィリップがこの上半身を捻り怪訝な声で言った。
この身体のままでかい?
俺が笑うと、『仕方ない』といった感じでフィリップが応えた。 
まぁいい。……検索を始めよう。
星の本棚の記憶と知識がここ(頭)に流れてくる。見下ろした神の視点は遙か高い空を捉えた。
1つは近い。もう1つは風に流れて……、くそ! 遙かに上か!
本棚を閉じ見やった隣りにはW(ウインド)ライダーが居た。彼は指で小粋に空を示した。 
そうか。なら私が決めてこよう。キミたちはここから指示を出してくれ。
【W(ウインド)マキシマム!】 
腰を叩いてウインドライダーが空を舞う。蒼いマフラーをたなびかせ、彼は空を歩んだ。 
1つ。
【W(ウインド)マキシマムアタック!!】 
マキシマムドライバスロットを強く叩く。その姿は、……なんて懐かしいんだ。『あの時の姿』だった。 
2つ目。……消えたまえ。この街に仇なすモノよ。
『ナスカドーパント』の姿だった。彼は『ナスカ』の姿で空を舞い、遙か遠く高い、黒いコア(メモリ)を打ち砕いた。 
私はあの日、妻、冴子(さえこ)に命を奪われた。
仕事を終えた俺達の前、事務所内のソファで足を組んで彼が言う。口に運んだ紅茶を置いて彼は語った。
私個人が『ミュージアム』にとって必要ではなくなったからだろう。仕方のない事だと思っているよ。
霧彦が歩を差し示す。


「ありゃ、言っちゃうの?」


と歩は手を上げおどけた。 

私は神の手により蘇った。気が付くと、あの子、歩(あゆ)を腕に抱えてね。
……うん。あたしが覚えているのもそこからの事だけ。ちなみに『Σドライバ』を創ったのは、この霧彦お兄ちゃんだよ。
俺達が前に出したΣドライバを、優しい指使いで手に掛ける。 
これは、生前私が開発していたものだ。キミ達、『仮面ライダー』を倒す為に、ね。
霧彦はΣドライバを俺達へ返すと、立ち上がり腰に手をあて数歩歩んだ。 
私の記憶、歩の記憶、そして私達が目指すもの、それは【C】のメモリを追えばいつか分かるさ。
【C(サイクロン)】【C(セル)】【C(クリムゾン)】か。
頷く。したたかな笑みで彼は答えた。 
この一連の事象は、きっと、これらを、そして私達を創ったモノにある。
そして俺達の前に、その傷跡を残す右腕を差しだし言った。 
チカラを貸してくれるかい? 仮面ライダーW(ダブル)、いや、仮面ライダーΣ(シグマ)こと、左翔太郎。フィリップ君。
……ああ。俺はもう、任されたじゃないか。お前に、この街を。この愛すべき風の街を。
その指を強く握りしめる。2度と、2度と敵味方に分かれぬよう、この街を護る想いを、覆さぬように。 
この街を、人々を、そして霧彦、歩、お前たちの事も、俺達『鳴海探偵事務所』が請け負ったぜ。
おっと、こりゃ高くつくかな?
おどけて笑う歩のデコを小突いて口にした。
大丈夫だ。
痛そうに、でも歩は飾らない笑みで俺を見ていた。 
それは俺達の誇り(プライド)の値段だ。金には替えられねぇさ。ただ、
ただ?
年相応の笑顔で、俺に甘えてくる。俺は帽子を直して、ハーフボイルドに笑ってみせた。 
きちんと熟(こな)さないと、俺達の魂に傷がつく。果たしてみせるさ。
事務所のドアを開け放ち、焼けた空を仰ぎ見る。そこには白いカモメが舞っていた。避難警告の消えた街へ、子供たちの笑顔が走り出す。買い物かごを手に両親の笑顔がそれを追う。少しずつ、この街に休日の風が満ちていく。


帽子を手に熱い日差しを目に焼き付けた。明日もきっと日本晴れ。この街はきっと、いや、……絶対大丈夫だ! 

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登場人物紹介

左翔太郎(ひだり しょうたろう)。


30歳。男性。


【J】のガイアメモリを扱う風都の仮面ライダー。

半熟野郎(ハーフボイルド)だが、心に芯のあるモノを持っている。

サングラスを愛用し、整った顎髭が自慢。

歩に『おっさんライダー』と呼ばれている。


フィリップ(園咲来人)。


24歳。男性。


【C】のガイアメモリを扱う翔太郎の相棒。

地球(ほし)の本棚と呼ばれる情報の塊にアクセスする事が出来る、仮面ライダーWのブレイン。

融通が利かない性格だったが、アイドル業を経て、多少の冗談が言えるくらいには成長した。


風渡歩(かぜわたり あゆ)。


18歳。女性。


翔太郎の窮地に現れた謎の高校生。自称、科学者。

翔太郎とフィリップに、Σドライバを渡し、2人を最強の仮面ライダーΣに変身させた。


照井亜樹子(てるい あきこ)。


27歳。女性。


鳴海探偵事務所の所長。仮面ライダーアクセル・照井竜の妻。

翔太郎達の雇い主。今は2児の母として、次男、大河(たいが)の世話をしている。


クリムゾン。


19歳? 女性?


謎の少女。

【C】のガイアメモリを扱う。


歯車貞女(はぐるま さだめ)。


?歳。男性。


クリムゾンの仲間である謎の男。

クリムゾンに強く嫌悪されている。


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