【第6話】貞女、現る。
文字数 3,184文字
――夢を見ていた。愛しいヒトと、仲間と共に草原を駆ける夢だった。大好きな彼が木の棒を手に駆けていく。どこまでも、私達の前を走っていく。
なのに、彼は大きな岩を前に立ち尽くした。木の棒は岩の大地を割る事が出来ない。仲間が、彼が大地に潰され飲み込まれていく――。
なのに、彼は大きな岩を前に立ち尽くした。木の棒は岩の大地を割る事が出来ない。仲間が、彼が大地に潰され飲み込まれていく――。
気が付くと大きな瞳の少女が私を見ていた。ひどく悲しそうな眼差しで私を見つめている。
ベッドから腰を下ろす。愛用のPCを枕脇へ退かし地に足を付ける。未だこの足に神経は通っていない。
その通りなのだが首を振る。この少女に気を遣わせたくなかった。
少女は、部屋の天面から除く赤い陽を見て言った。
少女は、悲しそうな眼差しで私に問いかけた。
部屋へと続くフードをまくり、初老の男が歩み寄った。
2人は私の両腕を担っている。私が生み出した住人だった。動けない私の代わりにこの世界へ、この時代へ『メス』を入れるものだ。
2人は地に膝を着いて傅く。
私の命を受け、貞女(さだめ)はフードの先へと消えていった。真紅は地に膝を付けている。 その姿は変わらぬものだった。
――まるでただの『ぬいぐるみ』のように、それは見えた。
――まるでただの『ぬいぐるみ』のように、それは見えた。
いつになく言葉の多い相棒の肩を叩く。その背は怒りの為か強く震えていた。
『ククリコ』の2人が瀕死の重傷を負ったことで、世間の話題はそれ一色だった。付けるチャンネル全てが『ククリコ』襲撃を報道している。それを防げなかった自分が恨めしい。歯がゆさに壁を打ちつける。
風都の風が強く、俺達の事務所を叩いている。嘆き震えている。
あれから事情徴収、事後処理、多々の出来事に追われた。照井の名を出すことで許されたことも1つや2つじゃ済まない。今は居ない照井に、俺達事務所は救われていた。
風が強い午後の日だった。西からの風が事務所の窓を叩いていた。
それは前触れも無く起こった。事務所の光と言う光が落ち、ククリコを映していたテレビが暗闇を映し出す。そこに、同じ黒色の仮面が映った。
そいつは、テレビの中から這いだした。あまりのおぞましさに後ずさる。
仮面、黒いマントのそいつは白い杖を振り上げ語った。
仮面、黒いマントのそいつは白い杖を振り上げ語った。
俺達はΣドライバを巻き付け、メモリを構える。CとJのメモリをスロットへ差し込んだ。
【サイクロン×ジョーカー】
その男は緑色のメモリをかち鳴らす。いやらしい笑みを浮かべていた。
【『C』セル】
メモリのサウンドと共に鳴海事務所の床という床から、緑色の怪人が湧きだしてくる。
その数は優に30を超えて居た。
その数は優に30を超えて居た。
事務所から飛び出した怪人たちが一般市民にも襲い掛かる。その1人1人を助け、向き合った怪人を倒していく。助けた1人が腰を抜かして蹲った。
頷く。正直1人1人に返答する余裕は無い。それでもしがみ付こうとする彼を、フィリップは拒まなかった。
騒ぎに紛れて、何人ものフィリップのファンが、握手を求め、そして去っていく。
握手を交わした俺たちへ、その中の1人が言った。うやうやしく再び俺たちの手を取った。
Σライダーの変身が解ける!
Σライダーの上半身を司るフィリップが、倒れ、口から泡を噴き出す。慌てて抱きおこそうとしたが電気のような痺れに弾かれた。
杖を手に歩み寄る貞女(さだめ)を蹴りで追い払う。ここは1人で闘うしかなかった。
ひらり、ひらりと攻撃をかわす貞女が杖で俺の脚をすくう。転倒を辛うじて受け身で凌ぐ。
自称『ファン』の1人が笑いながら俺達へ指を向けた。
自称『ファン』の1人が笑いながら俺達へ指を向けた。
握手を求めた1人目が周りの仲間に呼びかけ笑いあう。各々の手で黄土色のメモリを晒して、その音を高々と鳴らした。
貞女は、頭に被った帽子を指でつまみ、埃を払いながら言う。さも悠々と快活に語ってくれやがった。
ゴミを眺めるように指差して、貞女はくつくつ、笑い続けた。
追いかけようとする俺を怪人が足止めする。振り払い蹴り飛ばすも数が多すぎる。
去ろうとしていた貞女が振り向きざまに言い放った。
去ろうとしていた貞女が振り向きざまに言い放った。
赤い夕日に背を向けて一礼する。彼はその『クチバシの付いた仮面』からぎらついた目を覗かせ俺達へ語った。
逃げ惑う人々の中へその黒いスーツが消えていく。あふれ出た緑色の怪人は蹴り倒すと肉塊となって地の中へ溶けていった。俺と歩の二人でようやく全ての怪人を打ち倒した時、『V』の彼らと『歯車貞女』その全ては見つけられなくなっていた。
風都の大型スクリーンへ一瞬の画像の乱れの後に、貞女の仮面が映っていた。スクリーンから3D映像よろしくと顔を付きだし貞女が俺たちを見下した。
止めようとする歩を押しやり、スクリーンの柱へ拳を叩き込む。血に塗れても俺は叩き続けた。背後で横たわる相棒を地に膝を着け抱きしめる。
歯を食いしばる。相棒の心臓は、強く、強くその鼓動を俺に伝えていた。