【第7話】拡散。

文字数 2,574文字

フィリップは倒れたまま動かない。抱きかかえ事務所へと急いだ。リビングの端のソファを繋げそこに寝かせた。 
より清潔な衣類へ着替えさせ、苦しむ顔をタオルで冷やす。

時間ばかりが経過していく。


やがて歩(あゆ)がその強張った口を開いた。 

おっさ、いや、翔太郎さん、これを!
1本のメモリを俺に手渡す。金色のメモリがこの手の中に有った。 
いったいこいつは?
H(ハート)メモリ。あたしが持つ最強のメモリだよ。これを使ってフィリップさんを助けて!
歩、お前はいったい……、
歩は首を振る。釈然としない表情で俯いていた。
それはあたしが知りたいよ。
手を広げ言い募る。悔しげに眉根を寄せていた。
記憶が無いの。ぽっかり、海馬の中が空っぽなの、あたし。
記憶が無い。それだけを執拗に強調した。
あたしは、あたしの記憶を探してる。
それが、『C』のメモリって訳か。
うん。C(クリムゾン)とC(セル)のメモリを手にしたら、きっと思い出せる!
そうか。なら尚更、相棒のチカラを借りなきゃな。
1時間ほど経っただろうか? 俺は行動に移した。徐々に黒く染まっていく相棒を見ているだけなんて出来ない! アタリかハズレか解らねえ、けど、俺は、俺の勘に賭けた。 
いてーかもしれねーが、我慢しろよフィリップ!
寝かせたフィリップをソファに無理やり座らせ、そのΣドライバにH(ヒート)のメモリを差し込んだ。 
【H『ヒート』!】 
俺は自身のドライバに歩からもらった新たなメモリ、H(ハート)メモリを差し込む。 
【H『ハート』!】 
……。
変身!
俺とフィリップのドライバを同時に左へ倒す。 
【『H』ヒート×『H』ハート】 
これが新しい俺達のチカラ、仮面ライダーΣ(シグマ)ヒート×ハートだ! フィリップ! ちょっと熱いが我慢してくれよ!
フィリップの操る上半身を壁に寄りかからせ、俺は自身が操る両足を踏ん張った。 
燃えろ! 俺達の鼓動!!
上半身の制御を無理やり奪い重い右手で腰の『マキシマムドライブスロット』を叩き続けた。 
【マキシマム・Σ!!】 

【マキシマム・Σ!!!】 

【マキシマム・Σ!!!!】 
滅しろ! V『ヴァイラス』!!
【HH(ヒート・ハート)マキシマム・シグマ(最高合算)!!!!】 
俺達2人で1人の仮面ライダーは燃え上がった。炎を吹き出し、身体を燃焼させる。黒く染まりかけた上半身は、赤く、その色を輝かせた。 
俺達は変身を解いて2人に分かれる。 
……翔太郎。僕はいったい、
その頬は火照っていたが、黒い斑点は薄れている。俺は帽子を目深に被って答えた。
ちょっとやっかいな風邪に掛かっただけだ、気にするな。それよりお前を感染させた奴を退治しに行くぞ!
最近覚えたスマートフォンで情報屋の『サンタちゃん』へ話を繋げる。サンタちゃんは一年中いつもサンタクロースの格好をしている情報屋だ。 
「もしもしサンタちゃん、俺からの仕事、ちーとばっかし頼まれちゃくれねぇか」 
ーー依頼から30分後、仕事を終えた情報屋『サンタちゃん』が事務所へやって来た。 
翔ちゃん、頼まれてたの持ってきたよ。サンタちゃん仕事早いだろ!
早い早い! じゃあ、そいつを5m四方に引き伸ばしてくれるか?
10m大なら20分で仕上げてみせる!
さすがだなサンタちゃん♪
サンタちゃんにはある画像を拾ってきてもらった。それの引き伸ばしを追加料金で頼む。歩(あゆ)にも仕事を頼んだ。 
歩、お前にも仕事頼むぞ。隣りの宝田さんちのわんこから、ほかほかウ○コをもらってきてくれ。多ければ多いほどいい。
頭に衝撃が! このクソアマ、俺を足蹴にしやがった。


「H(ハート)のメモリ、高くつけとくわ♪」


と、至極お仕事ライクに笑ってくれやがる。 

俺が宝田さんちの『ベアちゃん』からウ○コをもらってくるのと、特大のパネルをサンタちゃんが持ってくるのは、ほぼ同時だった。 
7年間、何もしてなかったわけじゃない、そういう事だね。……キミの成長を認めようじゃないか、翔太郎。
フィリップが覚束ない足取りでソファに寄りかかり俺を評価してくれた。 
そして俺達は風都の中央公園に『それ』を設置した。 
街の人が写していた歯車貞女(はぐるま さだめ)の画像を引き伸ばし宝田さんちのベアちゃんのウ○コを供える。 

その経過をサンタちゃんにネット配信してもらう。フィリップが自身のツイッ○―で拡散、歩がそのフォローを担当する。亜樹子にはおばちゃん相手に井戸端会議で広めてもらう。 
見えてますかー? 貞女さ~ん。これ世界中に配信してますよー。貴方のお顔にワンちゃんの糞をお供えしてますよー! って、これほんと撮れてるんだろうなぁ?
おっさん、カメラ回ってるから♪ よ○つべも再生数伸びまくりんぐだっつーの♪
出てこないと、この写真の御口にウ○チぶち込んじゃいますよぉ! って俺も全国区か! やべぇ、今日の俺、決まってるか?
遠巻きに見守る一般市民(ギャラリー)の中からこちらに向かってくる影が3つある。記憶に新しい顔ぶれだった。 
ライトさん、この辺で止めときません?
僕達も貞女さんに殺されたくないんで、ね。
今すぐ配信止めないと、痛い目見ますよ? ライトさん♪
トリプルV出てきたな。そうだよな、止めに来るさ、貞女(アイツ)なら。
V(ヴァイラス)V(ウィルス)V(ビールス)の3人組だ。その手にメモリを持って俺達に近づき、それぞれの頭にメモリを突き立てる。
【V『ヴァイラス』】 
【V『ウィルス』】 
【V『ビールス』】 
貞女(アイツ)なら、絶対に見てる。推測だが確信があった。
映像の中を自由?に行き来した貞女、そんなアイツが俺達の動向を見逃す訳がない。俺達を監視し、その苦しむ様を見て悦に浸る。そこまで推測出来た。そして、自身の手は汚さない。つまり、手下をこちらに寄越す。 
除菌開始だ。行くぜ、フィリップ!
相棒に声を掛ける。 
ああ、滅菌しに行こうか。
それぞれのベルトにいつものメモリを突き刺した。 
【C『サイクロン』!】 
【J『ジョーカー』!】 
顔を見合わせ、2人同時にドライバを倒す。 
【サイクロン×ジョーカー】 
変身。
変身。
俺達2人で1人のライダーは3匹の怪人を見渡し指を差し伸ばした。俺達Σライダーはお決まりの文句で奴らへ問うた。俺達が正義で在る為に、正義で在り続ける為に! 
「「さぁ、……お前らの罪を数えろ!」」 
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登場人物紹介

左翔太郎(ひだり しょうたろう)。


30歳。男性。


【J】のガイアメモリを扱う風都の仮面ライダー。

半熟野郎(ハーフボイルド)だが、心に芯のあるモノを持っている。

サングラスを愛用し、整った顎髭が自慢。

歩に『おっさんライダー』と呼ばれている。


フィリップ(園咲来人)。


24歳。男性。


【C】のガイアメモリを扱う翔太郎の相棒。

地球(ほし)の本棚と呼ばれる情報の塊にアクセスする事が出来る、仮面ライダーWのブレイン。

融通が利かない性格だったが、アイドル業を経て、多少の冗談が言えるくらいには成長した。


風渡歩(かぜわたり あゆ)。


18歳。女性。


翔太郎の窮地に現れた謎の高校生。自称、科学者。

翔太郎とフィリップに、Σドライバを渡し、2人を最強の仮面ライダーΣに変身させた。


照井亜樹子(てるい あきこ)。


27歳。女性。


鳴海探偵事務所の所長。仮面ライダーアクセル・照井竜の妻。

翔太郎達の雇い主。今は2児の母として、次男、大河(たいが)の世話をしている。


クリムゾン。


19歳? 女性?


謎の少女。

【C】のガイアメモリを扱う。


歯車貞女(はぐるま さだめ)。


?歳。男性。


クリムゾンの仲間である謎の男。

クリムゾンに強く嫌悪されている。


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