【第5話】クリムゾン。
文字数 2,430文字
田中が悶えている。尻を押さえ、苦しそうに眉を歪め『のたうち』まわる。駆け寄った歩が傷口を確認する。そこは『赤く腫れ上がって』いた。
Mドーパントが声無き声を上げる。その一撃を避け、俺たちΣライダーが一発、一発のサイクロンのパンチを打ちこみ間合いを詰めていく。たまに飛んでくる拳(こぶし)の一撃をかわす。かわした奴のパンチが事務所の壁に『大きな穴を開けた』。
攻撃を避けながら俺は問いかけた。
……『遠藤』さんに。
……『遠藤』さんに。
躱しつつドーパントへ蹴りを打ちこむ。
躱して一撃、強い風の一撃を決めていく。
視線の先の『遠藤』さんは、盛んに首を振っていた。見苦しくも必死な態度で。
俺は言い切った。
田中さんが尻を押さえていた手を脱力させる。顔は青ざめ、首を振るばかりだった。
『遠藤』が声を発した。指を振りおろしMドーパントに命令を与える。
腰を落とした姿勢のまま、田中さんは顔を上げた。遠藤に懇願していた。惨めでも真摯な対応だった。
俺たちΣライダーは歩いて語る。彼らの罪(真相)を声で示した。
【CJ(サイクロン・ジョーカー)マキシマム・シグマ(最高合算)!!】
振り下ろすような蹴り、素立ちからのライダーキックを打ち込む。一瞬の激しい爆発の跡から、ゆらり、と姿を現したのは、スーツ姿の女性だった。
身体からMのメモリをこぼして、遠藤の奥さんは地に伏せた。その眼(まなこ)から大粒の雫を流して。
俺たちは変身を解き2人に別れる。歩みそして彼らに諭した。大好きな、とても大好きなクリエイターに、もう罪を重ねないでもらいたかった。
俺たちは変身を解き2人に別れる。歩みそして彼らに諭した。大好きな、とても大好きなクリエイターに、もう罪を重ねないでもらいたかった。
もう、長続きしない事、解ってたんだろ? 幾ら絵的に美味しい『タイキック』でも、あと1年、2年の内に笑いは尽きる。芸能界も続々と若い芽が育っている。もうこれ以上のbig hand(拍手喝采)は続かない。自首してください『遠藤』さん。
遠藤の奥さん、元Mドーパントだったその人を『炎の鏃』が襲った。前もって潜ませていた『赤ちゃん抱き所長(亜樹子)』のチタンのトランクがそれを直前で防いだ。
フィリップが声を発した。本当の黒幕を強く憎んでいたのはこいつなんだろう。声音は変わらないが、その態度で俺には解った。
事務所の前方から爆風が起こる。顔を覆う腕を吹き飛ばすくらいの風が起こっていた。その赤い爆風の中からゆっくりと、一人の少女が歩んでくる。
【『F』フレア!】
少女が手に持った赤いメモリをかち鳴らす。そこから生まれたのは、――あの時の『炎の鏃』それだった。
唯一逃げずに残っていた受付嬢が、スマホを構えたまま、スマホごと『鏃』で胸を貫かれる。叫ぶ間も与えられなかった。
唯一逃げずに残っていた受付嬢が、スマホを構えたまま、スマホごと『鏃』で胸を貫かれる。叫ぶ間も与えられなかった。
背を向けようとしていた少女が振り返る。その赤髪(せきはつ)の少女は腰に一本のベルトをするり、と巻いた。それは見間違うことは無い。……俺たちが使っていた『Wドライバ』だった。少女はもう一本、堕ちる陽のような真紅のメモリを握りしめ、ベルト(そこ)に差し込んだ。
【『C』クリムゾン×『F』フレア】
【CF(クリムゾン×フレア)マキシマム・ドライブ】
鳥のように飛翔し大空から放たれた『炎のライダーキック』は、事務所をブチ抜き一か所に固まってしまった『ククリコメンバー全員』を巻き込んだ。
爆炎の中に更なる爆発が起こる。それはククリコの事務所を木端微塵に吹き飛ばしていく。俺たちですら立っているのがやっと、だった。
爆炎の中に更なる爆発が起こる。それはククリコの事務所を木端微塵に吹き飛ばしていく。俺たちですら立っているのがやっと、だった。
そして、その言葉を最後に少女は去って行った。フィリップは声を失い、少女『クリムゾン』を睨んでいる。歩(あゆ)も茫然と立ち尽くすのみだった。俺たちは『クリムゾン』のチカラを前に、何も、何も出来なかった……。