【第5話】クリムゾン。

文字数 2,430文字

イッタイ! 痛い! 痛いって!!
田中が悶えている。尻を押さえ、苦しそうに眉を歪め『のたうち』まわる。駆け寄った歩が傷口を確認する。そこは『赤く腫れ上がって』いた。 
……。
何か分かったかい? 翔太郎。
もしかして、だがな。……おいお前、M(メタル)ドーパントだな? お前からメタルの『メモリ』回収させてもらうぜ!
ッ!!
Mドーパントが声無き声を上げる。その一撃を避け、俺たちΣライダーが一発、一発のサイクロンのパンチを打ちこみ間合いを詰めていく。たまに飛んでくる拳(こぶし)の一撃をかわす。かわした奴のパンチが事務所の壁に『大きな穴を開けた』。 
攻撃を避けながら俺は問いかけた。 

……『遠藤』さんに。 
違和感、覚えたのはまず、フィリップとコンタクトした『Hドーパントの台詞』だ。
躱しつつドーパントへ蹴りを打ちこむ。 
『新人のお前が、』と彼は言っていた。……つまり、少なからず、フィリップを敵視していたんだ。敵のバックは。
躱して一撃、強い風の一撃を決めていく。 
俳優として売れてきたフィリップに、危機感を覚えたのがマネージャー? そりゃ可笑しいだろ。つまり、バックに居たのは、マネージャーの彼に指示を出せる、上の人間という事になる。
視線の先の『遠藤』さんは、盛んに首を振っていた。見苦しくも必死な態度で。 
俺が犯人? そういう、そういうの無いから。ほら、田中、可笑しいだろ?
……遠藤、
ほら、田中もこんなに尻やられて、俺たちが犯人なわけ、
俺は言い切った。 
そう。『俺たち』が犯人なんだろ? ……『田中』さん。
……。
田中さんが尻を押さえていた手を脱力させる。顔は青ざめ、首を振るばかりだった。 
不可解に思ったのがもう一つ。このMドーパント、鋼の力を持ったドーパントの『タイキック』を受けて……、ここまで言えば、もう解るよな?
『遠藤』が声を発した。指を振りおろしMドーパントに命令を与える。 
Mドーパント、行け! こいつらの口を封じろ!
腰を落とした姿勢のまま、田中さんは顔を上げた。遠藤に懇願していた。惨めでも真摯な対応だった。 
遠藤! それはあかんよ!
五月蠅い。もう分かるだろ。俺たちは終いなんだ。これを公表されたら、俺たちは本当にお仕舞いなんだ!
俺たちΣライダーは歩いて語る。彼らの罪(真相)を声で示した。 
田中さんへの一撃(タイキック)を手加減し、里中マネージャーに指示を下し、遠藤さんと近しい人物。つまり、あんたの正体は、
【CJ(サイクロン・ジョーカー)マキシマム・シグマ(最高合算)!!】 
振り下ろすような蹴り、素立ちからのライダーキックを打ち込む。一瞬の激しい爆発の跡から、ゆらり、と姿を現したのは、スーツ姿の女性だった。 
……!
遠藤の『元マネージャー』つまり、遠藤さんの『奥さん』貴女が犯人! M(メタル)ドーパントだ!
身体からMのメモリをこぼして、遠藤の奥さんは地に伏せた。その眼(まなこ)から大粒の雫を流して。
俺たちは変身を解き2人に別れる。歩みそして彼らに諭した。大好きな、とても大好きなクリエイターに、もう罪を重ねないでもらいたかった。 
もう、長続きしない事、解ってたんだろ? 幾ら絵的に美味しい『タイキック』でも、あと1年、2年の内に笑いは尽きる。芸能界も続々と若い芽が育っている。もうこれ以上のbig hand(拍手喝采)は続かない。自首してください『遠藤』さん。
遠藤の奥さん、元Mドーパントだったその人を『炎の鏃』が襲った。前もって潜ませていた『赤ちゃん抱き所長(亜樹子)』のチタンのトランクがそれを直前で防いだ。
や、やったよ! 翔太郎くん! お、お母さんついにやったよ! やったよ! 大河(たいが)!
そう、ここで、このMドーパント(彼女)を消しに来ることは分かっていたよ。
フィリップが声を発した。本当の黒幕を強く憎んでいたのはこいつなんだろう。声音は変わらないが、その態度で俺には解った。 
『炎の鏃』のドーパント、貴様は誰だ? いったい何者だ!
事務所の前方から爆風が起こる。顔を覆う腕を吹き飛ばすくらいの風が起こっていた。その赤い爆風の中からゆっくりと、一人の少女が歩んでくる。 
――本当に使えないでしゅね。芸能界はこんなに甘いところなんでしゅかね? 『死ななきゃ分からない』くらいに。
女の子? 嬢ちゃんが黒幕? おい、本当の『バック(犯人)』を教えてくれ? そんな年端もいかない嬢ちゃんが人を殺せる訳、
こういう風に、でしゅか?
【『F』フレア!】 
少女が手に持った赤いメモリをかち鳴らす。そこから生まれたのは、――あの時の『炎の鏃』それだった。 

唯一逃げずに残っていた受付嬢が、スマホを構えたまま、スマホごと『鏃』で胸を貫かれる。叫ぶ間も与えられなかった。 
今回は挨拶だけにしておきましょうか。お兄しゃん達。
嬢ちゃん、あんたは一体。
ボクでしゅか?
背を向けようとしていた少女が振り返る。その赤髪(せきはつ)の少女は腰に一本のベルトをするり、と巻いた。それは見間違うことは無い。……俺たちが使っていた『Wドライバ』だった。少女はもう一本、堕ちる陽のような真紅のメモリを握りしめ、ベルト(そこ)に差し込んだ。 
【『C』クリムゾン×『F』フレア】 
【CF(クリムゾン×フレア)マキシマム・ドライブ】 
し、しまった!
鳥のように飛翔し大空から放たれた『炎のライダーキック』は、事務所をブチ抜き一か所に固まってしまった『ククリコメンバー全員』を巻き込んだ。 

爆炎の中に更なる爆発が起こる。それはククリコの事務所を木端微塵に吹き飛ばしていく。俺たちですら立っているのがやっと、だった。 
……ボクは『仮面ライダーC(クリムゾン)』。覚えておくといいでしゅ。
そして、その言葉を最後に少女は去って行った。フィリップは声を失い、少女『クリムゾン』を睨んでいる。歩(あゆ)も茫然と立ち尽くすのみだった。俺たちは『クリムゾン』のチカラを前に、何も、何も出来なかった……。 
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登場人物紹介

左翔太郎(ひだり しょうたろう)。


30歳。男性。


【J】のガイアメモリを扱う風都の仮面ライダー。

半熟野郎(ハーフボイルド)だが、心に芯のあるモノを持っている。

サングラスを愛用し、整った顎髭が自慢。

歩に『おっさんライダー』と呼ばれている。


フィリップ(園咲来人)。


24歳。男性。


【C】のガイアメモリを扱う翔太郎の相棒。

地球(ほし)の本棚と呼ばれる情報の塊にアクセスする事が出来る、仮面ライダーWのブレイン。

融通が利かない性格だったが、アイドル業を経て、多少の冗談が言えるくらいには成長した。


風渡歩(かぜわたり あゆ)。


18歳。女性。


翔太郎の窮地に現れた謎の高校生。自称、科学者。

翔太郎とフィリップに、Σドライバを渡し、2人を最強の仮面ライダーΣに変身させた。


照井亜樹子(てるい あきこ)。


27歳。女性。


鳴海探偵事務所の所長。仮面ライダーアクセル・照井竜の妻。

翔太郎達の雇い主。今は2児の母として、次男、大河(たいが)の世話をしている。


クリムゾン。


19歳? 女性?


謎の少女。

【C】のガイアメモリを扱う。


歯車貞女(はぐるま さだめ)。


?歳。男性。


クリムゾンの仲間である謎の男。

クリムゾンに強く嫌悪されている。


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