第7話

文字数 532文字

 今年も来年も、そのまた来年も、まだまだ走り続けるだろう人と、あと何日、何時間の命かしれない人と、同じ時を過ごしている。
 そして、見事に年が明けた。
 まだ猶予があろうと、残り僅かしかなくても、命は命。
 わたしたちはみんな一斉に、今年の正月を迎えることが叶った。

 夜明けが近い。
 オムツ交換を終えて、再びホールに戻ってくる。
 やはり、ベッドの利用者は、静かに眠り続けている。その手は温かい。呼吸は途切れ途切れだったけれども。

 「●●さん、きっと朝になったらご家族がまた来られますよ。年が明けました。明けたんですよ」

 その時、眠っていた利用者は微かに乾いた唇を動かし、なにかを言おうとしたかのように見えた。
 瞬間わたしは、今までのその人のことを一度に、しかも明瞭に思い出したのだった。

 便が酷かったこと。叩かれたこと。泥棒と言われたこと。そして、こちらが彼女の気持ちをくみ取ることに成功した瞬間の、あの無敵の笑顔。
 ああ、この人だ。ぜんぶ、この人だ。わたしは確かに、この人に関わって来た。今もこうやって、関わっている。

 思わず、言わずにはいられなかった。

 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね、●●さん」
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