第6話

文字数 637文字

 どんな年になるだろう。
 つくづく、わたしは思う。
 子供は年長さんになる。ランドセルを買わねばならないだろう。このまま、この勤務形態でどこまで続けられるのだろうか。まだ子供は幼い。小学校にあがってしまったら、保育所の時のような時間の融通は利かなくなる。
 
 新たな年を迎えたせいだろう、どばっと悩み事が押し寄せてきた。とてもじゃないが眠れそうもなかった。
 休憩室の布団に横たわり、目を閉じた。ごとごと心臓の音が、やけに響いた。

 新たな年。令和二年。
 時間は待ってはくれない。もう、お正月が始まっている。

 ようやくうとうととして、目覚ましで目が覚めた。はっとすると、もう仮眠時間が終わろうとしていた。
 慌ててホールに戻ると、ちょうど、別グループの夜勤者たちが、ベッドの利用者のまわりに集まっているところだった。まさかと思い、心臓が止まる思いで近づくと、「大丈夫ですよ」と、みんなに振り向かれて言われた。

 「びっくりした。なにかあったのかと」
 言いながら利用者を覗き込んだ。相変わらずの呼吸状態が続いている。

 「下顎呼吸は、まだ見られないね。このぶんだったら、もう少し先かもしれない」
 「はらはらするねー」

 さあ、夜勤もあとひとふんばり、頑張りましょう。
 みんなで頷き合って別れた。
 わたしはエプロンを締め直すと、夜間帯最後のオムツ交換の支度にかかる。

 仄かな夜の照明の下で、眠る利用者の顔は、こころなしか微笑んでいるように見えた。
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