第2話

文字数 539文字

 ええっ、泊ってくれれば良かったのに。どうして泊まらなかったんです。

 申し送りを聞いた時点でわたしは言ってしまった。
 そこの家族が、おばあちゃんのことを大事に思っていることは前から知っている。看取り対応になった時点で、絶対に最期には立ち会いたいと泣きながら語っていたことも。
 呼吸状態が変わったのは今日の朝で、もちろん家族はすっとんできた。ほぼ一日中、部屋の中でつききりだったそうだが、夕方、どうしても今日は泊まることができないと言って帰っていったらしい。

 「なんでも、そこの家の娘が生まれたての赤ちゃん連れて里帰りしてるんだって」
 と、看護師は苦笑いしていた。
 「だけど、呼吸状態が変わったらすぐ連絡してほしい、絶対に駆けつけるからって、気合入れて言っていかれたわ」

 ええー。
 わたしは口を半開きにした。ええー、そんな。そりゃあ、いつ何があるかわからない状態の人だから、特別気をつけるけれど、夜間帯は、わたし一人きりだ。他の人の対応をしている間に、取り返しのつかない事態が起こるかもしれない。

 「ホールにベッド出していいから」
 ひそひそ声で看護師は言った。
 「ええ、そうしますよ」
 わたしは答えた。

 今年最後の夜勤は、緊迫の中で幕を開けた。
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