第十一話 母と魔法少女

文字数 3,149文字




今日は父上が居ないので朝から母上と座学で勉強していた。
こういう日は近所に住むスピカも一緒に勉強している。
スピカはプロキオンと同じ5歳だがまだ洗礼を受けていない。
スピカはスハイルとラナの娘だ。
スハイルは士爵位を持つ商人だが店を構えず、主に輸送と問屋を営んでいる。
昔有事の際、民間人ながら物資の輸送と補給で目覚ましい功を立て陛下から士爵位を授与されたらしい。


「今日は基礎魔法陣のお勉強をしましょう♪」

座学は嫌いだ…眠くなる。
プロキオンとスピカは座学が大好きらしい。
そして母上もノリノリである。

「魔法陣は丸いと思うかもしれないけど、あれは本来魔法円って言うの。基本的な魔法陣はサイの目にした正方形の魔法四角になるわ。それを円にして魔力が流れやすい様にしたモノが一般的な魔法陣ね」

おお、何となく分かる。何だか今日はイケる気がする。

「2×2の魔方陣は同じ数字を使用しない限り存在しないの。つまりa+b=a+c=a+d。という事はb=c=dよね。したがって3×3のものが一番小さい基本的な魔方陣になるわ」

駄目だ。サッパリ意味がわからない…

「覚え方としては 憎し(294)と思えば、七五三(753)、六一坊主に蜂(618)が刺す って覚えてね。すると上下左右斜め全て15になるでしょ?」

もう無理。頭痛い…

「あ、兄上。しっかりノートに取らないと駄目ですよ」

「シリウスは魔法算が苦手なのよね」

スピカにも笑われた。
どうして2個下の2人がついて行けてるかが不思議だ。

「カペラさん質問宜しいでしょうか…」

「はい、スピカちゃん」

「魔法四角は3×3が基本ですよね。4×4とか5×5になるとどれ位の量になるのでしょうか?」

「良い質問ね。4×4で880通りの魔法陣が存在するわ。5×5だと今分かっているだけで2億7000万通り以上が確認されているわね」

「は、母上!!大変です。兄上が白目向いて気を失っています!!」

「あははははは」

この国は10歳になると王立学園へ入学し、成人になる15歳までの5年間学ぶのだそうだ。
ただ学校に行くのは殆ど貴族の子だけで平民の子は家で勉強するか教会などで教えてもらうらしい。
平民の子は四則演算はおろか読み書きもままならない子がまだまだ多いという。

「もうお昼ね。スピカちゃん昼食は一緒に食べましょう。午後は基礎魔法の座学よ」

「は、はい。ありがとう御座います」

もう座学は嫌だ…父上〜

      〜〜その後〜〜

「スピカちゃんまた何時でもいらっしゃいね」

「はい。カペラさんありがとう御座いました」

「シリウス、プロキオン。スピカちゃんをお願いね」

「はい、母上」

こうしてスピカを家まで送り届ける事になった。
スピカの家は歩いて2、30分程だ。

「シリウスとプロキオンは将来何になりたい?」

「戦士!」 「僕は魔法学者かな」

「へ〜、プロキオンの魔法学者はなんか分かるかも。でもシリウスの戦士って、戦士になってどうするの?」

考えたことも無かった。ただ強くなりたいって思ってただけだった。
ただ父上の様になりたいとは思った。

「父上の様になりたいから、やっぱ騎士とかかなぁ?」

「スピカは何か成りたいモノがあるの?」

「私は…カペラさんみたいになりたい」

「ええ、母上みたいに?なんで?」

「スピカは優しいから成れると思うよ?」

いや確かにスピカは優しいけど母上とはちょっと違うかなぁ。

「だってカペラさん美人で優しくて頭良くて魔法もお料理も上手で、何でも出来ちゃうじゃない。憧れちゃうなぁ」

言われてみれば、なんという完璧人間。

「あははは、言いたい事は分かるかも」

「じゃあ今度母上の弱点を探してみるか」

「弱点なんてあるのかしら?」

「どうだろうね」

そしてスピカを家まで送り届け家路についた。

その夜、父上が帰ってきてそれとなく母上の弱点を聞いてみたが有益な情報は無かった。

「そんなに知りたきゃ直接聞いてみると案外教えてくれるかも知れないぜ?」

成る程、何もコソコソ探さなくても直接本人に聞けば良いのか。
結局母上にスピカの事を話し弱点を聞いてみた。

「あら、スピカちゃんそんな風に思ってくれてたのね。嬉しいけど何だか恥ずかしいわ。でも弱点ねえ。う〜ん何かしら…」

やはり母上は完璧人間なのか…

「あっ!!」

父上が何かを思い出した様だ。

「カペラ、お前馬に乗れないだろう」

「あ、そうね!乗れないというか苦手ね」

有った!弱点と言えるか分からないが苦手なものが有った!

母上は元上級貴族の出身なので本来乗馬位は嗜むモノらしい。
しかし実家が辺境伯で単独行動は禁止されており馬に乗ることが無かったらしい。何処か行く際は馬車移動なのでその必要もなかったそうだ。
父上と出会って冒険者をしている時も、父上の後ろに乗って移動していたそうだ。
僕も馬には乗れないけど騎士なら馬位乗れたほうが良いだろうかとチョット思った。
というか馬に乗ってみたい。

「良い機会だから馬でも飼ってみたらどうだろう」

父上が提案した。

「厩が無いでしょ」

秒で論破された。

「スピカの所ならいっぱい居るよ」

ナイスプロキオン!

「今度スピカの家に頼んでみようよ」

「迷惑じゃない?」

「無理強いは駄目だぞ」

そんな感じでスピカに今度聞いてみることにした。勿論スハイルさんとラナさんにも。

      〜〜数日後〜〜


「こんにちはコルネフォロスです〜」

「おやシリウスとプロキオンじゃないか。いらっしゃい」

ラナさんが出て来てくれた。
ラナさんは肝っ玉母さんという感じだ。

「アンタ達、普段からその防具着けてんのかい?」

「はい…父上の言いつけで」

チョット恥ずかしかった。

「アレも相変わらずだね。そうだスピカだね?チョット待っとっておくれ」

「あ、いえスピカもなんですが…」

ラナさんに不思議がられながら家にお邪魔した。
スピカの家は大きい、お金持ちなのだろうか?
スピカもやってきてラナさんに事の経緯を説明した。
そのうちにスハイルさんも帰ってきたのでまた説明した。

「ええぇ、カペラさん馬に乗れないの?」

引っ込み思案のスピカが珍しく酷く驚いた。

「完璧な人間なんていないさね。しかし馬に乗れない位、なんでもないと思うけどねえ」

ラナさんがスピカを落ち着かせた。

「ウチの馬で良ければ何時でも貸すよ」

スハイルさんは気前がいい。
話はトントン拍子で決まった。
そうしてお礼を言い家に帰った。

後日スピカの家へ父上と馬を借りに行った。

「おはようございます。コルネフォロスです」

スハイルさんとラナさんが出て来てくれた。
すると厩から馬に乗ったスピカが出てきた。
しかももう1頭引き連れている。

「ええぇ、スピカ馬に乗れるの!?」

「うん、私3歳から乗ってるの」

「おおぉ、これはなかなか」

「あ、オジサマおはようございます」

知らなかった。スピカが乗馬の英才教育を受けてたなんて。

「この子ったら3歳の時に馬に乗って以来、勝手に乗り回してるのよ」

「まあ近場しか乗せてないがね」

勝手に覚えたって事かぁ。

「スハイル、ラナ、無理を言ってすまなかったね」

「気にするなベテルギウス。ウチ等の仲じゃないか。何時でも言ってくれ」

「ありがとう」

「で、ではお借りします。ありがとうございます」

僕とプロキオンは乗れないので僕は父上と一緒に乗せてもらった。
プロキオンはスピカと一緒に乗せてもらった。

「なんだか僕恥ずかしいよ…」

プロキオンが顔を真赤にしている。

「大丈夫よ。プロキオンもすぐ乗れるようになるわよ」

多分プロキオンはそういう事を言ってるんじゃないと思う。
防具一式装備の男の子が普段着の女の子に乗せられてるのが耐えられ無いのだろう。
僕は父上と一緒で良かった…
プロキオンはすれ違う人にバレまいと終始外套のフードで顔を隠していた。
しかし普段から「その格好」はプロキオンしか居ない。
残念ながらバレバレだ。



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