第八話 王宮と魔力計

文字数 3,187文字



王宮に入ると例のチョビ髭ピチピチが出迎えてくれた。

「ようこそおいで下さいました。ササっ、こちらへ」

チョビ髭に案内された部屋に入る。
前回と同じ部屋だ。
テーブル上にはやはり美味しそうなお菓子が置いてあった。
僕もプロキオンも手は出さなかった。
すると1人のメイドさんがやってきた。

「今、お紅茶を入れますので、そちらのマカロンも是非お召し上がり下さいませ」

なんという好待遇。
父上と母上の顔色を伺うとニッコリと笑っていた。
これはOKサインなのだろうか?
プロキオンと一緒にお菓子へ手を伸ばす。
カラフルな丸っこいお菓子を取った。
僕は黄色、プロキオンは緑色を食べた。

不味かった…
なんというか、甘くてジャリジャリしてて…
甘ったるい砂利を食ってる様な感じだ。
父上が「クックック」と笑いをこらえている。
貴族のお菓子はどれもこんなに不味いのだろうか?
こんな不味いお菓子があって良いのだろうか。
否、こんな不味いお菓子が存在して良い筈がなない。
出された紅茶で口の中を洗い流した。
プロキオンは美味しそうに2個目へ突入していた。なんという勇者。

「まあ美味しい」

母上も食べていた…
父上は食べなかった…

「準備が整いまして御座います」

チョビ髭が呼びに来た。
案内されたのは前回の玉座の間ではなかった。
謁見の間だった。

「陛下、お連れ致しました」

チョビ髭が扉を開けてくれた。
中には5人…いや6人。
ベネトナシュ王とアケルナル様に…アルデバラン様も居た。
思わず嬉しくて2人に軽く手を振ってしまった。
するとアケルナル様は笑顔で答えてくれた。
アルデバラン様も軽く手を振って答えてくれたがアケルナル様に軽く肘鉄され怒られていた。
後の3人は初対面だった。

膝は付かなかったが、父上が深く頭を下げ母上はカーテシーをしたので僕等兄弟も頭を深く下げた。

「陛下におかれましてはご機嫌麗しく謁見の許しを得たこと、誠に恐悦至極に御座います」

ここまではカッコイイんだよなぁ父上…

「面を上げよそれは良い…畏まらずに先ずは着席せよ」

僕等はソファーに座った。
正面にはベネトナシュ王が鎮座している。両脇にアケルナル様とアルデバラン様が控えた。
両脇のソファーに初対面の御三方が座っている。
1人は察しがついた。
大司教だろう。
老司祭より更に老齢で、更に豪華な法衣を着ていたからだ。
穏やかな顔で長い白髭を生やして杖をついている。少しだけプルプルしている。

「アルカイド猊下もご健勝のようで何よりで御座います」

「うむ、そなた達も健やかで何よりじゃ」

やっぱり大司教だった。
残る2人は大臣だろうか。

「カストル卿、ラーン所長、話を進めよ」

「はっ、では私から。今回の経緯を説明していただけますかな?」

この人は内務大臣カストル侯爵。なんというか普通のオジサンだな。
父上と母上がプロキオンの洗礼の経緯を話すと皆真剣に聞き入っていた。
カストル侯爵が言うには、母上はフォーマルハウト辺境伯の出身で、フォーマルハウト家は元々は王家の分家だったらしい。何代も前の事なのだが、プロキオンの光の加護は隔世遺伝であろうという話だった。
しかし皆、話は理解できるが実感がわかないといった感じで煮え切らないような顔をしている。

「では私から一つ宜しいでしょうか」

もう一人の「所長」と呼ばれていた人が沈黙を断ち切った。

「申し遅れました。私は王立魔道具研究所の所長でラーンと申します」

この人が魔道具研究所の所長…
酷く不健康そうで怪しい人に見える。

「陛下、アレを使う許可を頂けますでしょうか」

「許す、良きに計らえ」

「アルリシャ、例のものを!」

ラーン所長が部屋の外に声をかけた。
暫くすると1人の女性が入ってきた。

「は~い所長。お待たせしました〜」

年は…まだ十代だろうか。所長とは対象的に健康的な女性だ。髪はボサボサでメガネをかけている。
アルリシャは手に水晶を持っていた。
洗礼の水晶にそっくりだ。
それを僕等の目の前に置いた。

「コレは魔力計…とでも言いましょうか…最近開発した物でまだ名前はありません。これは水晶ではなく魔石から生成したものでございます。そしてこの魔力計で洗礼の加護を受ける事は出来ませんが、受けている加護の属性や魔力量を計る事ができます。」

皆の顔が不思議そうに魔力計を見つめていた。

「では、早速ですがプロキオン君…」

ラーン所長が言いかけた処で母上が割って入った。

「先ず私が試して宜しいでしょうか」

親心か…皆察した。
得体の知れないものを試すのだ。
無理もない。
遅れて察した父上が…

「いや俺が試そう」

そう言うとアケルナル様までが

「いやいや私が実験台になろう」

すると更にアルデバラン様が

「いやいや皆に何かあってはイカン。ワシが人柱になろう」

すると一斉に「どうぞどうぞ」っとアルデバラン様に譲った。

「ええぇ…ええぇ…」

狼狽えるアルデバラン様だった。
したり顔のアケルナル様だった。

「皆さん、そんな…大丈夫ですよ。危ない物ではありませんから。それにそんな危ない物だったら陛下の御前に出せませんよ」

もっともだ。
ラーン所長が困った顔で場を取り成した。
陛下も「当然である」といった顔だ。
アルデバラン様は「助かった」といった顔だ。
結局母上が一番最初に試す事になった。

「ではカペラ様、魔力計に手を…片手でどちらの手でも構いません。少しだけ魔力を込めて頂けませんか」

言われた通り母上が魔力計に手を添えて魔力を込めた。

すると魔力計が光りだした。
決して眩しくはない。優しく光っている。
青と緑の光が魔力計の中で渦巻いている。
しかし何だろう…魔力計の中に数字が浮かび上がってきた。
…8341?

「もう十分です。手を離して頂いてかまいません」

母上が魔力計から手を離すと光も数字も消えてしまった。
数字が浮かび上がるのはどういう仕組みだろう。

「今のでカペラ様が何の属性を持っているか、そして魔力量が数字として視認できました。カペラ様の属性が水と風、そして魔力量は8341です。因みに宮廷魔術師の平均が5000前後ですので流石元上級貴族御令嬢のカペラ様といった処です」

母上が凄いと言われとても誇らしかった。
プロキオンはもっと喜んでいた。

「では今一度実験してみましょう。アルリシャ」

次にアルリシャさんが試してくれた。
属性は火、数値は1010だった。

「平民で一般人ならばこの程度です。アルリシャが別段低いと言う訳ではありません」

母上の凄さが顕著に現れ更に箔が付いた。
次は誰がやるか面白がって話し合いになっていた。
もはや子供そっちのけで大人の玩具である。

「いい加減にせぬか貴様等ァ」

陛下が怒った。
流石陛下である。
大人達は面目無さそうに大人しくなった。

「次は朕である」

下らない大人だった…
陛下…やりたかったんだ…
その他の大人達が様々な感情を各々が押し殺しているのが分かった。
しかしこれはこれで良いかもしれない。なにせ国王陛下の光の加護を見ることなど殆ど無いのだろうから。
見せてくれと頼めるものでもないだろうし…

「陛下の光を見てみたいです」

分かってか分からずにか、プロキオンがナイスアシストをした。

「そうかそうか、そうであろう。プロキオンは良く分かっておる」

ウキウキ陛下である。

「では…参るぞ」

魔力計に添える陛下の手も自然と力が入る。
凄い!金色に輝いた。
見ている大人達からも思わず「おおぉ!」と歓声が漏れる。
それは強く激しく混じりっ気無しの金色に輝いた。

「見よ!これが、これこそが王族の証!王家の紋章である!!」

流石陛下。
まごう事なく王家の証。王家の紋章!
本物である。
そして数字が浮かび上がってきた。

……1901

あああ低い!思っていたのと違う!
一般人よりは高いが母上と比べてしまうとなんと微妙な数値だろうか。
何かの間違いでは?という大人達の顔。
なにか申し訳無い気持ちでいっぱいになった。
………………

「皆の者…今日の事は他言無用である」

……仰せのままに


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