第十二話 母と魔法少女2

文字数 2,526文字




家に到着し早速母上と乗馬の練習を始めた。
母上は普通に馬に乗った。それを父上が引いて歩いた。
ゆっくりで覚束ないながらもポックリポックリと歩いている。
やはり走るのはおろか、1人で操作することは出来ないようだ。

「私達も乗りましょ」

スピカがいつもより元気な気がする。
先ず初めに僕が乗ることになった。
馬に乗る事は簡単だった。乗っかる事は…簡単だった。

「踵で軽くお腹を蹴ると歩いてくれるよ」

言われた通りやってみた。
おお、本当に歩いた。ポックリポックリとゆっくり歩いてくれた。普段と目線が違うからかとても気持ち良い。馬、可愛い。

「これは常歩って言って、一番ゆっくり歩いてくれてるの。先ずはリズムを感じてね」

リズムかぁイマイチ分からないけどポックリポックリな感じかな?

「シリウス上手よ。じゃあ次は私離れるからね」

え、ちょっと待って怖い。
本当に離れて行っちゃった…落ち着け。
大丈夫だ、ポックリポックリだ。
ポックリポックリで行こう。
暫くポックリポックリしていると何となく感覚を掴めてきた。

「シリウス上手上手。じゃあ次はもう少し速く歩いてみようか。踵でもう一度合図するか、足をお腹にギューって押し付けてみて」

マジかぁ、大丈夫か?よしやってみよう。
お馬さんお願いしますー…
おお速い。さっきより速くなった。

「凄ーいシリウス。もう乗れてるよ〜」

凄い、風が気持ち良い。
走るリズムも気持ち良い。
なんというか、馬と1つになってる感じがする。
その後、速歩から駈歩まで乗ったところでプロキオンと交代することになった。

「プロキオン頑張れ〜」

「大丈夫よプロキオン」

「う、うん…」

プロキオンも最初こそ手間取ったが上手く背に乗れた。
僕の時と同じ様に最初はスピカが手綱を引いて回っている。

「プロキオン上手よ。そのままリズムを感じてね」

「え、あ、そうかな」

プロキオンも頑張ってるな。
最初はスピカが誘導してるから安心だが。
暫くするとスピカが離れた。
動揺するプロキオン。最初怖いんだよなぁ
けどすぐ普通に1人で乗れる様になってた。
若干速度も上げて気持ち良さそうに乗ってる。

そう言えば父上と母上はどうしてるだろうと気になったので見に行くことにした。
母上達を見つけたが、どうやら苦戦しているようだ。

「おかしいわねぇ、どうしてお馬さん動いてくれないのかしら。お馬さん、お願いね。歩いて頂戴」

「いやカペラ…話しかけてどうするんだ。踵で腹を蹴るんだよ」

「嫌よ!可愛そうじゃない」

何となく母上の弱点を見つけた気がした。
それを知ってか知らずにかスピカが母上の方へ向かっていった。

「カペラさんお優しいのですね」

父上と母上が苦笑いして対応していると、スピカは蹴らずに足を押し付けるアドバイスをした。
手綱を引き過ぎず緩すぎず…
手取り足取りレクチャーしていた。
すると母上の乗った馬はゆっくり歩き始めた。

「あなた〜お馬さんが歩いてくれたわよ!」

「カペラさんお上手です」

これは負けた、という具合の顔をした父上と対象的に母上の顔は楽しそうだった。

「いつもパパに乗せてもらってたから分からなかったけど、お馬さんに乗るのってこんなに気持ちが良いのね」

もう僕達は母上の弱点とかどうでも良くなっていた。

何となくではあるが、一通り乗れる頃になると一旦お昼を挟むことにした。
母上特製のお弁当だ。

「もうカペラさんお一人でも乗れる様になりましたね」

「スピカちゃんの教え方が上手だったからよ。それに夫の教え方は少々乱暴すぎるのよ」

「うんうん、スピカが教えてくれたお陰で僕も乗れる様になったよ」

「え、そ、そうかな」

照れながらも嬉しそうなスピカだった。
父上が面目なさそうな顔をしている。

「スピカちゃんは教えるのが本当に上手ね」

「いえカペラさんの方が。それに私これくらいしか…」

少しだけいつもの引っ込み思案なスピカに戻った気がした。

「そんな事ないわよスピカちゃん。スピカちゃんはもっと自分に自信を持って良いのよ。人にモノを教えられるという事は、それまでに自分が努力してきた証拠なのよ」

「そ、そうでしょうか…」

「そうよ」

「私は動物が好きで、家でも馬を使役してたので自然と…」

「好きこそ物の上手なれってね。これからスピカちゃんはもっとやりたい事に挑戦してみて」

「挑戦ですか…」

「そう!今日私が乗馬に挑戦したみたいに楽しんで欲しいわ」

するとポツリとスピカが呟いた。

「私、今度洗礼に行くのです…」

皆がおめでとうと言う雰囲気になりかけたが続けてスピカが話を続けた。

「それで…加護を受けれなかったらどうしようって。お父さんとお母さんがガッカリしたらどうしよう…って」

少しスピカが涙ぐんでるのが分かった。
不安だったのだろう。
それもそうだ加護は誰でも受けれるモノじゃない。
僕の周りは当たり前の様に加護を持ってるけど本来加護は相当量の魔力で器を強くするか、魔力が少なくても器に素質のある者が受けるモノだ。
だから大抵は洗礼前に器の素養を身につける為に魔力練習をするのだ。

「スピカちゃんは魔法が好き?」

「は、はい」

「なら大丈夫よ。スピカちゃんの魔力量は私が保証するわ」

「ほ、本当ですか!?」

「本当よ。だって私の可愛い教え子ですもの」

今まで我慢してた感情が爆発したようにスピカが泣き出した。
母上も優しくスピカを抱きしめていた。

その後も乗馬の練習をして、暗くなる前にスピカと馬を家まで送り届けた。

後日、スハイルさんが家にやってきた。
今度スピカの洗礼に僕達もついて来て欲しいと言う。
というより母上が一緒に来てもらえないだろうかと言う事だった。
スピカたってのお願いだそうだ。
スハイルさんは加護を持っていない。ラナさんは加護を持っているが魔力が弱いのだそうだ。
魔法に精通した母上が居てくれると何かと安心なのだという。
あいにく予定日は父上が公務で留守なので父上抜きで同行することになった。

洗礼日当日
スピカ達が二頭立ての幌馬車で迎えに来てくれた。
なんとスピカが操縦している。

「無理を言ってすまなかったねカペラ」

「そんな事無いわ。スピカちゃんの為ですもの喜んで参加するわ」

僕達が馬車に乗り込むとスハイルさんとスピカが操縦を代わった。
教会ではなく神殿で洗礼を受けるという。

神殿…老司祭は元気だろうか。



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