第十話 マイアとダリム

文字数 4,510文字




陛下との謁見も無事終わった。
城を後にしようとするとチョビ髭さんに呼び止められた。
国王陛下から選別と言伝を頂いた。

「少ないが、心ばかりの金を渡しておく。それで必要な物を買い揃えたり十分な教育をするように」

との事だ。
このまま帰宅するつもりだったが母上の提案で商業地区で買い物をする事となった。
まず向かった先は魔具専門店だった。

「王立魔道具研究所推薦、魔道具店マイア?」

昔から母上の行きつけらしい。

(カランカランコロン)

「いらっしゃ〜い」

「こんにちはマイア」

「あ、カペラさんお久しぶりです〜。今日はどんな御用で?」

「魔法の杖を見せて頂けるかしら」

魔法の杖か、母上が持ってるやつだな?

「どんな杖かご要望はありますか〜?」

「ロッドタイプがいいかしら?出来るだけ頑丈で長い杖をお願いできる?それと使うのは息子のプロキオンなの」

「成る程…サイズは成人用と共用になってしまいますが、それでも良ければ何本かオススメが有りますよ」

魔法の杖一つでも色々あるのか。
しかしこの店、ありとあらゆる物が売られている。本にアクセサリーに御札?…これは…何の薬だ?
キョロキョロ店内を見ていると父上が何か手に取って見ていた。

「父上、それはなんですか?」

「聖銀のナイフだ」

聖銀のナイフは対魔族用武器らしい。
魔族は聖銀に弱いらしく、トドメは聖銀でないと駄目なんだそうだ。
因みに聖銀は銀に聖なる力を付与した物らしい。
王宮の食器等はほぼ全て聖銀らしい。

「父上、魔族っておとぎ話の魔獣を使役する魔族ですか?」

「…そうだ」

ならば父上よ、何故そんなに真剣に見ているのだ。
魔族なんて居ないなら必要ないではないか。

「そのナイフでお料理すると毒素が抜けて美味しくなるんですよ〜」

店主のマイアさんがロッドを抱えてやってきた。

「あらぁ聖銀の包丁は無いのかしらぁ」

母上が話しに食いついてきた。
それなら母上の料理が更に美味しくなるのは間違いない。

「ん〜在庫は無いですけど取り寄せは出来ますよ〜」

「そう…残念。それよりロッドよね。ありがとう」

僕も残念…

魔法の杖を買うのはプロキオンの魔力が強いので早いうちから杖で魔力をコントロールするのが良いらしい。
そして頑丈な杖なら棒術でも使えると見越しての事だろう。
僕はまだ魔法を使えないのでいざという時は母上の杖を借りれば良いだろうという事だった。

「こちらのウォールナットで出来たスタッフは如何でしょう。頑丈ですしお値段もお求めやすくなっています」

プロキオンが持ってみると不釣り合いな長さだ…

「チョット太くて掴み辛いです」

無理もない。

「ではこちらのアイアンロッドは如何でしょう?細くても耐久性は保証します」

「お、重いです…」

頑張れ弟よ。

「ではこちらの黒檀のワンドは如何でしょう。鉄よりも軽く耐久性は鉄並みです。ただ少々値が張りますが…宮廷魔道師団でも使っている方は多くいます」

なかなか雰囲気のある杖だ。
プロキオンが握ると随分しっくり来た感じだ。
他に比べれば長さもマシだ。
少々重たそうだがすぐに身体も大きくなるし問題ないだろう。しかし本当に魔道具に子供用とかは無いのだな…

「基本、幼少期はタクトか大きい物でもバトンやステッキを使われますからねぇ」

成る程、ある意味我が家はスパルタ教育…もとい、英才教育なのだとその時初めて感じた。

「父上、これで棒術は出来ますでしょうか」

「問題ないだろう。十分だ」

「では母上、これでお願いします」

「分かったわ。マイアこれを頂戴」

「はい、毎度あり〜金貨2枚になります」

た、高い…まあお値段以上なら良いのだけど

「おまけでウサギの尻尾も付けときますね」

「ありがとうマイア、それと魔道書も何冊か見たいわ」

「はい毎度〜、どんな書籍をお求めで?」

この時点で父上が飽きてきてるのが分かった。

「基礎融合魔導書と…光魔法の魔道書とか置いてあったりするかしら?」

いやいや無いだろう…王族しか使わないのに。
父上も心の中で僕と同じ事を考えている様な顔だった。

「有りますよ〜」

「あんのかいっ!」

父上とツッコミが被ってしまった。

「ええ、何百年も前の古い書籍になりますが、昔の王族でお金に困った人がいたらしく質に出したそうです」

まったく陛下といい、王族というのは…

「ただ平民で光魔法なんて使う人居ませんから、よっぽどの変わり者じゃなきゃ買いませんよ〜」

それもそうだ。

「じゃあその2冊を頂くわ」

「はい毎度あり〜占めて金貨2枚と大銀貨7枚になります」

「ハイ、これでお願いね」

「金貨3枚なので大銀貨3枚のお返しです。ウサギの尻尾はどうします?黒檀のワンドに付けときますか?」

「あらお願いするわ」

ウサギの尻尾と黒檀のワンドだから…
ラビットワンドってところか。

「毎度ありがとう御座いました〜またのお越しを〜」

マイアの魔道具店を後にし今度は武器屋に向かった。
プロキオンはラビットワンドがえらく気に入った様でニコニコしながら杖をついて歩いていた。プラプラ揺れるウサギの尻尾が可愛い。

武器屋に着くと父上のやる気が出てきた。

鍛冶工房ダリムの武器防具屋…
これは僕もチョット楽しみである。

(カランカランコロン)

「邪魔するよ」

「バッカヤロー!出て行けー!この三流がー!二度とウチの店の敷居を跨ぐんじゃねえ!!」

ヒェッ…何事だ。

「ひいいいいー」

怒鳴られていたであろう客?が逃げるように店を出て行った。
チョット貴族っぽい人だった。

「ダリム相変わらずだな」

この人が店主のダリムさんか。
でもこの人…ドワーフ?
何だか怖そうな人だ。

「おおぉベテルギウスか。良く来たな」

「おう。っで、何をそんなに荒れてるんだ」

「いやなに、最近は冒険者も騎士も全然分かっちゃねえ。何でも使い捨てだ。身の丈に合った装備をまるで理解しちゃいねえ」

「でもお客さんでしょう?」

「お、カペラも居たか。久しぶりじゃな。む…?そっちはお前さん等の小倅か?」

「ああ、シリウスとプロキオンだ」

「あ、こ、こんにちは」

挨拶をして軽く頭を下げた。怒らせちゃいけない感じがしたからである。
プロキオンも同じ気持ちだったっぽい。

「そんな畏まらんでくれ。驚かせて済まんかったのう。ワシの事はダリムでいい」

全然優しそうな人だった。

「っで今日は何しに来たんじゃ」

「息子の防具を見に来たんだ」

防具?僕は防具なんてつけたことない。
武器を買いに来たんじゃないのか?

「成る程。っでどうしたい」

「胸当てと小手、あとブーツを見たい。全て革製で。あとシリウスに腰巻きとヘッドギア。プロキオンにフードの付いた軽めの外套を」

「何じゃ、どこか旅にでも出るのか?」

「いや普段の戦闘訓練で使う防具さ」

「腰巻きと外套は要らんじゃろう」

チョットだけダリムの眼光が鋭くなった気がした。

「じゃあ旅の途中で戦闘になったらどうする。今腰巻きと外套を脱ぐので待ってくださいって敵にお願いするのか?」

まぁ、確かに。

「装備する事で不便な事を知らなきゃいけない。どうやったら動きやすくなるかも考えなきゃ駄目だろう?」

「実戦的じゃな。お主らしい…分かった好きに試着してくれ。多少のサイズ調整は出来るから遠慮なく言ってくれ」

そんなこんなで色々試着することになった。
父上は見た目より機能性重視だった。
母上は完全に見た目重視だった。
結局父上と母上の納得が行くまで僕とプロキオンは着せ替え人形だった。

なんとか決まった装備だったが初めて防具を付けてみて、こんなにも動き辛いのかと思い知らされた。
プロキオンは更に着心地が悪そうだ。
僕等はそのまま防具を付けて帰ることになった。
会計を待っている間お店の中を見ていた。
見慣れた武器が有った。
ナギナタかな?木ではなく、真剣。

「父上、これ…ナギナタですか」

「そうだ、真剣だ」

僕がまじまじと見ていると僕が欲しがっている様に見えたらしい。
後で分かったことだけど、この頃そろそろ真剣を持たせたい父上とそれに反対する母上で悩んでいるたらしい。
すると会計を終えた母上がやってきた。

「シリウス、プロキオン。武器も魔法もチョット使い方を間違えれば、簡単に人を傷付けてしまう物なの。いえ、武器や魔法だけではないわ。何でも正しい使い方というモノがあるのよ。勿論貴方達が悪い使い方なんてすると思ってないわ。でもね、その為には知識や心構えや覚悟なんかが必要な時もあるわ」

母上の言う通りだ。僕にはまだ知識も経験も心構えや覚悟だって分からない。悔しいけど…

「カペラも過保護じゃな。どうじゃ、ワシが解決してやろうか?」

先程まで静かに聞いていたダリムだったが何か考えがあるのだろうか。

「この薙刀をお前さん達買わんか?特別に安くしとくぞい」

でもこれは真剣の武器だ。

「鞘ごとなめし革で刀身を巻いてやれば良い。そんで取れねえ様に紐でひ縛ってやりゃあ安全だ。念の為まだ不安なら今ここで刃を殺してやろう」

成る程、それなら安全だ。

「父上、母上。如何でしょう?ダリムさんの言う方法でこのナギナタを買っては頂けませんか?」

父上と母上も少し困惑した様子だった。
するとダリムが助け舟を出してくれた。

「コイツの重さに慣れておくのも良いじゃろう。 …そ・れ・に じゃ。ベテルギウス、お前さんこの子等に戦闘訓練をつけておるのじゃろう?木剣だろうとブーツだろうと、手入れはさせておるのか?」

父上も母上も急に気不味い顔をした。

「言わんこっちゃない。そっちの坊主も身体に不釣り合いな黒檀の杖を持っておる。さしあたりカペラが棒術でも教えておるのじゃろう?これを機に本物の武器の手入れを教えてみたらどうじゃ。お前さん達なら教えられん事もなかろう」

凄い。ダリムが父上…はまだしも、母上まで正論で黙らせてしまった。

「ああ、どれチョットいいか。すぐに刃を殺してやるで待っとれ。ワシは忙しいんじゃ。はい退いた退いた」

返事を聞く前にナギナタを持ってダリムは奥の部屋へ行ってしまった。
父上と母上もやれやれと観念したように笑っていた。

小一時間程でダリムが戻って来た。
刃の部分をしっかり封印してくれてあった。

「わっ」

予想以上重い。

「だっはっはっは。どうだ坊主…じゃないシリウスか。本物の重さだ。今は刃を殺して封印してあるが、刃を戻せばもっと「重く」なるぞ」

鋭い眼光だった。
けど言わんとしてる事が何となく分かった。
僕にその覚悟が出来た時はもっと強くなっていようと思う。

「それと刃を封印してあるからとて手入れを怠るでないぞ。いざという時使い物にならないなど本末転倒。正に切羽詰まるじゃ」

その後ダリムは柄等の握りを微調整している間、薙刀の意味や本来の使い方を色々と教えてくれた。

「ほれ出来た。お代は要らんよ」

えええ、マジか!?

「そんなダリムさん困ります。お代はしっかりお支払い致します」

「要らん要らん。もうソイツは刃を殺して武器としての価値はない。また刃を戻す時にでも払ってくれりゃあいい」

なんだかんだで結局ダリムはお代を受け取らなかった。
頑固で粋な人だった。

これで買い物も終わり家へ帰ることになった。
僕とプロキオンは初めての防具を付けたまま、不釣り合いな武器を持ってギコチなく歩いていた。
途中すれ違う人に笑われていたのがチョット恥ずかしかった。


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