第十五話 合宿と殿下2

文字数 3,483文字




その夜
何故シリウスの足が急に折れたのか大人達だけで話し合いになっていた。

「アルデバラン、どういう事か一から説明してみろ」

「何も…何も無かった。急に骨の折れる音と同時にシリウスが倒れたのだ」

「何も無く足が折れるものか!疲労骨折とかでは無いのか?」

アケルナルがアルデバランに問い詰める。
と言うよりも八つ当たりに近かった。
その場に居なかった為、シリウス可愛さあっての苛立ちが隠せないでいた。

「フィジカルブーストに問題が合ったのだろうか?」

ベテルギウスが話し始めた。

「しかし本来フィジカルブーストで足が折れるなんてことはない。むしろ強くなるものだ。それに覚えたての頃はブーストが強くかかることは無い、そもそも強くかけれない。寧ろかかる部分にむらが出来るもので、例えるなら手だけとか背中だけとか。全身に隈無く行き渡らせることは出来ないものだ。けどアイツはフィジカルブーストをモノに出来そうだった。見た感じ相性は悪くなかった。っが、それが悔やまれる」

皆が少し微妙な顔をしているとカペラが。

「魔力暴走かしら…」

一同が腑に落ちた様な顔をした。
しかしカペラは続けた。

「けどあの子は魔力操作は十分出来ているのよ。それに…無属性魔法で魔力暴走なんて聞いたことがないわ。あと足だけって言うのが気になるの」

また振り出しに戻った様な気がして大人達の顔が悔しそうである。
アルデバランが重い口を開いた。

「ではアイツはこの合宿で何も習得できないと?ではここに来た意味は何だ。初めて魔法を習得できるかも知れないとあんなに嬉しそうに訓練をしているのに」

皆シリウスの事が大好きだ。それ故に居た堪れないのだ。悔しいのだ。
長い沈黙が続いた。
暫くして、心配した陛下が訪ねてきた。

「おぉ、皆揃っておったか、話は聞いておる。シリウスが突っ立ってたらいきなり足が折れたとか。難儀よのう」

ベテルギウスが呟いた。

「突っ立って…?」

するとカペラもハッとした。

「やっぱり魔力暴走だったかも知れないわ。立ってたから足に負担がかかったんじゃないかしら?それにあの子は魔力が大きいから…」

皆少し希望が見えたかのような顔をした。

「流石陛下です!これで何とかなるかも知れません!有難う御座います」

全く理解していない陛下であったが…

「ん、おぉ?そうか…良きに計らえ!」

「ねえ、コントロール出来るまで寝かせてやらせたらどうかしら?何かあったときの為に私の近くで訓練させれば直に治療できるわ」

「成る程、なら明日からも訓練に参加出来るな!」

「ふふふ、彼も喜ぶだろうさ」

そしてつぎの日からも各々訓練に励んだ。
シリウスはカペラの言う通り魔力暴走だった可能性が高く、その後は一切の怪我無くコントロールできる様になっていった。シリウスの日々の努力と諦めない気持ちが実を結んだのだ。

プロキオンは水風のシールドとウォール
そしてライトヒールを習得した。

スピカも命中率はまだまだないものの騎射を習得。
また騎乗での魔法も出来るようになり攻撃魔法のダークバイトを習得していた。
あっという間に最終日になった。

最終日に皆が見守る中ベテルギウスとシリウスが模擬戦を行うことになった。
シリウスも初めて薙刀を抜き身で扱う。
当然ベテルギウスは手加減するのだがトワイスとトワイスJrの一戦として練兵場が異様な盛り上がりを見せていた。
一般兵士は勿論騎士から王族まで野次馬で凄い事になっていた。
審判はアケルナルだ。

「父上…凄い人集りですね…」

「気にするな。集中しないと怪我をするぞ」

「はい、お願いします」

シリウスが構える。顔付きが変わった。
ベテルギウスも不敵な笑みを浮かべ構える。

「始め!」

シリウスが仕掛けた。低く素早く一直線に向かっていった。
ベテルギウスも受けて立つ。
いつもの連撃で翻弄するシリウスだったが、これまたいつもの様に受け流すベテルギウス。
暫くシリウスの猛攻が続いた。
それを見ていた野次馬達も大盛り上がりだった。その中に微動だにせず真剣に喰い入る様に見ていた人物がいた。
サルガス殿下だ。
初めて本気で戦っているシリウスに驚いていた。
まだ七歳で…
こんなにも戦えるモノなのだろうか。こんなにも速く強く動けるモノなのだろうか。
ましてやロクに魔法を使わず身一つで…
武者震いに似た興奮を覚えた。

「シリウス、このままじゃ成長が見られないぞ」

ベテルギウスが喝を入れるように煽る。
しかし気にする素振りを見せずに攻撃を続ける。

「じゃあそろそろこっちからも攻めるからな」

遂にベテルギウスが攻撃を仕掛けだした。
シリウスもそれを受け流しながら攻撃の手を止めない。
凄まじい集中力だ。
シリウスの薙刀が蹴りが上下左右縦横無尽に…まるで暴れる様に荒々しく放たれる。もはや七歳のソレではない。まさにに獣。

打ち合いが続きベテルギウスが攻撃した時、あり得ない場所から薙刀が迫ってきた。
間一髪のところで躱してベテルギウスが間を取った。
それにはギャラリーが大喜びした。
ベテルギウスは一瞬で理解した。

「やるじゃないかシリウス」

「父上、油断は禁物ですよ」

嬉しそうに笑うシリウス。
今の今までシリウスはフィジカルブーストを使っていなかったのだ。
チャンスを待ち一瞬だけ使った。

「ルール変更だ。俺は双剣でいく」

皆が驚いた。ベテルギウスをチョット本気にさせたのだ。
もう一本木剣を貰うと二刀流の構えをした。
トワイスだ。
ギャラリーに緊張が走る。
皆が思った「大丈夫だろうか…」

「大丈夫だ。身体強化は使わない」

ギャラリーが固唾を呑んで見守る。

「来いシリウス」

シリウスが突っ込んで行った。
「速い!」ギャラリーが驚く。
最初からブーストさせて行ったのだ。
しかし流石トワイスである。全て受けきる。
躊躇なくベテルギウスも攻撃を仕掛けだした。
凄い…シリウスも全て捌く。
もはや並の兵士ではシリウスに勝てないだろう。戦闘センス。気骨。そしてベテルギウスの教育の賜物だ。
双剣の速度が速い!が薙刀の前と後ろで流れる様に捌く。
激しい打ち合いが続くとシリウスが仕掛けた。
速い!更にブーストを強化した。
奇襲がベテルギウスを襲う。

「甘い!」

奇襲は失敗しベテルギウスの剣がシリウスの喉元を捉えた。

「そこまで!」

一瞬の沈黙の後、訓練場がお祭り騒ぎだった。

「やはり父上にはまだまだ敵いません」

悔しい表情とやり切った感じで苦笑いを浮かべていた。
シリウスなりに考えて戦ったのだろう。

「筋は良い。根性もある。薙刀も使えてた。強くなったな」

お互いが清々しい気持ちで戻ると皆から称賛と労いの言葉が飛んできた。
アルデバランが大泣きしていた。
そこへサルガス殿下が声をかけてきた。

「お主は何故そんなに強いのだ」

直球な質問に戸惑ったシリウスだった。

「僕は強くありません」

「謙遜は良い。何故強いのだ」

喰い下がる殿下に困りベテルギウスを見て助け舟を期待したが、笑顔で返された。

「強いて言うなら…毎日特訓してます」

そう答えると皆大笑いした。

「であるか、今日は良いものを見た」

そう言って笑顔で殿下は下がって行った。
第一印象とはまるで違う雰囲気だった。

すると今度はメイサ殿下が目の前にやってきた。

「貴方、ワタシの家来に成りなさい!!」

面食らってしまった。
開口一番急に凄いことを言う。

「姫様、この子はまだ七歳です。家来には出来ません」

アケルナル様が諭してくれる。

「だって私の周りオジサンばっかりじゃない。あなた達もまとめて家来にしてあげるわ」

今度はプロキオンやスピカまで標的にされた。

「成りません姫様!お戯れが過ぎます」

「だって兄上だって遊んでくれないしいつも大人とばかりでつまらないじゃない」

かなり暴れ気味で我儘をいう王女殿下に皆が手を焼いていた。
すると父上がコソッと理由を教えてくれた。

「姫様は立場上同世代の友達がおらず、生まれてすぐ王太子殿下だった父上を亡くされて淋しいのだ」

何だか可愛そうになってしまった。

「あの、姫様。その…家来はチョット無理なんですけど、友達では駄目ですか?」

考えるより、何となくそうするのが良い気がして思わず言ってしまった。プロキオンやスピカも納得した様な顔をしていた。

「仕方無いわね。私が友達になってあげるんだから感謝なさい!」

凄い解釈に笑顔で返そうにも引き攣ってしまった。

「それから私の事はメイサで良いから!貴方達もよ!」

「あ、はい…メイサ姫」

「メイサよ、メ・イ・サ!姫とか要らないから!分かったわね!」

どうしよう、呼び捨てなんて…

「よ、よろしくメイサ…」

台風一過、一通り暴れると満足したのか姫様は侍女を連れて何処かへ行ってしまった。

何故か後で色々な人に感謝された。


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