神宮美古都ーじんぐう みことー
文字数 3,612文字
『謹啓
早いものですでに四月も終を迎えようとしています。
そちらはどうですか?
この前の手紙ありがとうございました。桜と桃が一緒に咲いている様子を私も一度見てみたいと思いました。本当に絢爛な春ですね。私もいつか見てみたいと思います。
東陵に入ったことは伝えたとおりです。授業のペースは思ったよりも大丈夫そうです。
それよりも、電車通学には何時まで経っても慣れません。ルートを書くと、まず家から駅まで自転車で十五分。そこから乗換一回を含めて三十分。そこから学校まで自転車で二十分と計六十五分です。しかも、同じ中学から進学したのは私一人なので、少し淋しい感じもしています。
通学が大変なので部活は迷ったのですが、部長の人が面白かった放送部に入りました。
校内放送のイメージが強かったのですが、何でも全国大会があって、それに向けて作品を創るらしいです。何かを作ったりするのは好きなので、ちょっと楽しみでもあります。
最後に。みんなと作る作業を通して、引っ込み思案なこの性格をどうにか出来たらいいなと思っています。
ご自愛下さい。
では、また。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『謹啓
五月の風が爽やかに…と書きたいところですが、日差しが強いのに着ているのは冬服で、とにかく暑くて汗だくで通っています。
この間は写真ありがとう。
枝垂れ桜、初めて見ました。ちょっと色が薄れていて、元気がなさそうだったのが心配です。
こういう桜が見える綺麗な所で勉強しているんだな、と思いなんだか嬉しくなりました。
仙台の初夏はどうですか?やっぱり寒いのでしょうか?
気になって昨日ネットで仙台を調べてみました。青葉通の写真がありました。青々と茂る並木の下を通り過ぎる風は、心地良いのだろうなと思いました。
でも、まだまだ夜は冷え込むのでしょうから、暖かくしてくださいね。お願いです。
見える星の数はここよりも多いのでしょう。あの時のように時を忘れて見続けて体を壊さないように注意して下さい。
そこには看病してくれる人はいないと思いますから。
次は私も写真を送りたいと思います。
期待しないで待っていて下さい。
では、また。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『拝啓
二日前から雨が振り続けています。
放送部の部長をずいぶん気にしていたので、少し紹介しますね。
変な心配をしていましたが、れっきとした女性です。(この言い方も変ですね)名前は草壁はるかさんと言って、三年生です。すごい整った顔をしているのに、とにかくよくしゃべって、表情がくるくると変わります。
この間も部長会議で運動部の人たちと揉めたらしく、怒り狂いながら部室に帰ってきました。しかも、その理由が放送部の部費でお茶を買って飲んでいることを咎められたことが原因だったぽくて、思わず笑ってしまいました。
たかだかお茶の一杯であそこまで熱くなれることがちょっと羨ましいです。
そして、そんなふうにはるかさんが怒っているときには必ず、バスケ部の武尊さん(部長です)が様子を見に来ます。二人は小学校からの知り合いらしくて、傍から見ていてもお似合いだなぁと感じます。でも、はるかさんはそうは思っていないらしくて…前途は多難のようです。
ではまた。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『前略
お元気ですか。私は元気です。
今は夏休み明けに待っている文化祭の用意などで忙しい日々を送っています。
今年のテーマは「世界の平和とエコロジー」だそうで、私のクラスでは、自主映画の制作と上演を行うことになりました。放送部に入ったことは前にも伝えましたよね? 音声や録音には詳しいと思われてしまい、結局、音響を担当することになりました。
とは言え、人手が足りないということで、演劇部からも音響の手伝いを頼まれているし、放送部として、校内放送を取り仕切ったりで、とにかく忙しい文化祭になりそうです。
図書館にも出入するようになって、何度か行くうちに司書の先生と仲良くなりました。委員会行う古本市の値札付けを手伝ったりしました。
そういえば、東陵には変な伝説があります。昨日朱里が教えてくれたのですが、どういうものかというと「雨の文化祭でキスをすると恋人になれる」というものです。はるかさんは「そんなレアな条件あるわけ無い」って笑っていましたが、私は素敵だなって思いました。
私はそういう綺蹟は好きです。
当日は古本市、演劇、放送室とめまぐるしく動き回りそうです。
そして、綺蹟は起きるのを待つのではなく、起こすもの、そう思いませんか?
では、今日はここまで。
おやすみなさい。
神宮 美古都 草々』
―◆―
『前略
今日は放送部の友達を紹介します。私と同じ一年生の小鳥遊 朱里ちゃんです。
さてさて、読めましたか? 私は残念ながら読めませんでした。反省です
「ことりがあそぶ」で「たかなし」です。たかなしあかりと読みます。調べたら、「天敵の鷹がいないから、小鳥が遊べる」で「たかなし」らしいです。せっかちで頑固な私と違ってゆっくりとやんわり自分のペースを大事にする人です。名作と言われる絵画からアニメやイラストにまで詳しくて、いつも図書館で美術館の絵画集を開いています。そしてペンケースにはカラーバーが常に入っています。
もちろんさらさらっと描いているのに出来上がる絵はうまくて、写真を取るとアングルに抜群のセンスが光っています。あんなふうに撮れたら…といつも思います。
美術部や写真部に行かなかった理由だけは教えてくれません。私は映像を作ることに興味があったからだろうなと勝手に考えています。この間朱里がアニメーションの製作過程を解説した雑誌を見せてくれました。色使いや構図の決め方、画面のどこを切り取るかなどをゆっくりとした口調で私に解説してくれました。
私にはわからない事だらけで、違いもよくわかりませんでした。いつかわかるようになりたいです。
首をひねる私に朱里が「じゃあちょっとやってみるね」と言って私を撮ってくれた写真が同封したものです。
どうでしょうか?違いがわかりますか?ちなみに朱里が言うには、Bが良いらしいです。
映像をつくるっていうことはやっぱりすごく難しく、奥深いものだと感じています。朱里曰く「アニメーションは自分の思い通りの映像が作れるんだよ」とのこと。 いつか私も作品を作ってみたいと思います。そのときは見てくださいね。
厳しい感想を…出来れば欲しくないです。
では、また。
神宮 美古都 かしこ』
―◆―
『前略
今日は嫌なことがありました。演劇部の手伝いをしていることは書いたと思います。演劇部にとっては文化祭の講演は数少ない機会らしいので、私も出来る限り頑張っていました。私も初めての事でとにかく体育館の放送施設の機械の操作法から一生懸命覚えました。
何が原因かは今でも分かりません。私はいつも通りに打ち合わせた通りに演技にあわせて機械の操作を行ない、音を出しました。前日に行った練習と同じように。そしたら、いきなり舞台に降りてくる用に言われて、降りて行ったら突然、他の部員や運動部が見ている前で三年生二人に怒鳴られました。
私は原因が分からないのに、謝る理由も無いので、ぐっと黙っていました。その態度が気に入らなかったのか、どんどん言うことが酷くなっていきました。どんなことを言われたか、悔しくて書けません。情けなくて、少し床がぼんやりとしました。
でも、逃げ出すのも違うと思って、じっと耐えていました。
そしたら、突然バンッって音がして、「美古都だいじょぶ?」って声がしました。顔をあげると、振り向いて私を見るはるかさんの横顔がありました。私でも怖く感じる気配が漂っていました。
その後、私はというと、いつの間に来ていた武尊先輩に強引に体育館から外に連れだされました。後ろからは、はるかさんが怒鳴りあう声が響いていました。
次の日に三年生がはるかさんと一緒に私の教室に来て、謝ってくれたけれど、原因は分からないままでした。はるかさんにも原因の説明はなかったみたいで、納得出来ていないようでした。断ろうとはるかさんは言ってくれたけど、演劇部の他の人達の頑張りを知っているので、その人たちのために音響の仕事はすることにしました。
練習の時は、はるかさんか朱里が一緒にいてくれることになったので、とりあえずは大丈夫だと思います。
いろいろグチってごめんなさい。心配させてしまってごめんなさい。
暗いことばかりでごめんなさい。本当にごめんなさい。
逢いたいです。
美古都』
早いものですでに四月も終を迎えようとしています。
そちらはどうですか?
この前の手紙ありがとうございました。桜と桃が一緒に咲いている様子を私も一度見てみたいと思いました。本当に絢爛な春ですね。私もいつか見てみたいと思います。
東陵に入ったことは伝えたとおりです。授業のペースは思ったよりも大丈夫そうです。
それよりも、電車通学には何時まで経っても慣れません。ルートを書くと、まず家から駅まで自転車で十五分。そこから乗換一回を含めて三十分。そこから学校まで自転車で二十分と計六十五分です。しかも、同じ中学から進学したのは私一人なので、少し淋しい感じもしています。
通学が大変なので部活は迷ったのですが、部長の人が面白かった放送部に入りました。
校内放送のイメージが強かったのですが、何でも全国大会があって、それに向けて作品を創るらしいです。何かを作ったりするのは好きなので、ちょっと楽しみでもあります。
最後に。みんなと作る作業を通して、引っ込み思案なこの性格をどうにか出来たらいいなと思っています。
ご自愛下さい。
では、また。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『謹啓
五月の風が爽やかに…と書きたいところですが、日差しが強いのに着ているのは冬服で、とにかく暑くて汗だくで通っています。
この間は写真ありがとう。
枝垂れ桜、初めて見ました。ちょっと色が薄れていて、元気がなさそうだったのが心配です。
こういう桜が見える綺麗な所で勉強しているんだな、と思いなんだか嬉しくなりました。
仙台の初夏はどうですか?やっぱり寒いのでしょうか?
気になって昨日ネットで仙台を調べてみました。青葉通の写真がありました。青々と茂る並木の下を通り過ぎる風は、心地良いのだろうなと思いました。
でも、まだまだ夜は冷え込むのでしょうから、暖かくしてくださいね。お願いです。
見える星の数はここよりも多いのでしょう。あの時のように時を忘れて見続けて体を壊さないように注意して下さい。
そこには看病してくれる人はいないと思いますから。
次は私も写真を送りたいと思います。
期待しないで待っていて下さい。
では、また。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『拝啓
二日前から雨が振り続けています。
放送部の部長をずいぶん気にしていたので、少し紹介しますね。
変な心配をしていましたが、れっきとした女性です。(この言い方も変ですね)名前は草壁はるかさんと言って、三年生です。すごい整った顔をしているのに、とにかくよくしゃべって、表情がくるくると変わります。
この間も部長会議で運動部の人たちと揉めたらしく、怒り狂いながら部室に帰ってきました。しかも、その理由が放送部の部費でお茶を買って飲んでいることを咎められたことが原因だったぽくて、思わず笑ってしまいました。
たかだかお茶の一杯であそこまで熱くなれることがちょっと羨ましいです。
そして、そんなふうにはるかさんが怒っているときには必ず、バスケ部の武尊さん(部長です)が様子を見に来ます。二人は小学校からの知り合いらしくて、傍から見ていてもお似合いだなぁと感じます。でも、はるかさんはそうは思っていないらしくて…前途は多難のようです。
ではまた。
神宮 美古都 敬具』
―◆―
『前略
お元気ですか。私は元気です。
今は夏休み明けに待っている文化祭の用意などで忙しい日々を送っています。
今年のテーマは「世界の平和とエコロジー」だそうで、私のクラスでは、自主映画の制作と上演を行うことになりました。放送部に入ったことは前にも伝えましたよね? 音声や録音には詳しいと思われてしまい、結局、音響を担当することになりました。
とは言え、人手が足りないということで、演劇部からも音響の手伝いを頼まれているし、放送部として、校内放送を取り仕切ったりで、とにかく忙しい文化祭になりそうです。
図書館にも出入するようになって、何度か行くうちに司書の先生と仲良くなりました。委員会行う古本市の値札付けを手伝ったりしました。
そういえば、東陵には変な伝説があります。昨日朱里が教えてくれたのですが、どういうものかというと「雨の文化祭でキスをすると恋人になれる」というものです。はるかさんは「そんなレアな条件あるわけ無い」って笑っていましたが、私は素敵だなって思いました。
私はそういう綺蹟は好きです。
当日は古本市、演劇、放送室とめまぐるしく動き回りそうです。
そして、綺蹟は起きるのを待つのではなく、起こすもの、そう思いませんか?
では、今日はここまで。
おやすみなさい。
神宮 美古都 草々』
―◆―
『前略
今日は放送部の友達を紹介します。私と同じ一年生の小鳥遊 朱里ちゃんです。
さてさて、読めましたか? 私は残念ながら読めませんでした。反省です
「ことりがあそぶ」で「たかなし」です。たかなしあかりと読みます。調べたら、「天敵の鷹がいないから、小鳥が遊べる」で「たかなし」らしいです。せっかちで頑固な私と違ってゆっくりとやんわり自分のペースを大事にする人です。名作と言われる絵画からアニメやイラストにまで詳しくて、いつも図書館で美術館の絵画集を開いています。そしてペンケースにはカラーバーが常に入っています。
もちろんさらさらっと描いているのに出来上がる絵はうまくて、写真を取るとアングルに抜群のセンスが光っています。あんなふうに撮れたら…といつも思います。
美術部や写真部に行かなかった理由だけは教えてくれません。私は映像を作ることに興味があったからだろうなと勝手に考えています。この間朱里がアニメーションの製作過程を解説した雑誌を見せてくれました。色使いや構図の決め方、画面のどこを切り取るかなどをゆっくりとした口調で私に解説してくれました。
私にはわからない事だらけで、違いもよくわかりませんでした。いつかわかるようになりたいです。
首をひねる私に朱里が「じゃあちょっとやってみるね」と言って私を撮ってくれた写真が同封したものです。
どうでしょうか?違いがわかりますか?ちなみに朱里が言うには、Bが良いらしいです。
映像をつくるっていうことはやっぱりすごく難しく、奥深いものだと感じています。朱里曰く「アニメーションは自分の思い通りの映像が作れるんだよ」とのこと。 いつか私も作品を作ってみたいと思います。そのときは見てくださいね。
厳しい感想を…出来れば欲しくないです。
では、また。
神宮 美古都 かしこ』
―◆―
『前略
今日は嫌なことがありました。演劇部の手伝いをしていることは書いたと思います。演劇部にとっては文化祭の講演は数少ない機会らしいので、私も出来る限り頑張っていました。私も初めての事でとにかく体育館の放送施設の機械の操作法から一生懸命覚えました。
何が原因かは今でも分かりません。私はいつも通りに打ち合わせた通りに演技にあわせて機械の操作を行ない、音を出しました。前日に行った練習と同じように。そしたら、いきなり舞台に降りてくる用に言われて、降りて行ったら突然、他の部員や運動部が見ている前で三年生二人に怒鳴られました。
私は原因が分からないのに、謝る理由も無いので、ぐっと黙っていました。その態度が気に入らなかったのか、どんどん言うことが酷くなっていきました。どんなことを言われたか、悔しくて書けません。情けなくて、少し床がぼんやりとしました。
でも、逃げ出すのも違うと思って、じっと耐えていました。
そしたら、突然バンッって音がして、「美古都だいじょぶ?」って声がしました。顔をあげると、振り向いて私を見るはるかさんの横顔がありました。私でも怖く感じる気配が漂っていました。
その後、私はというと、いつの間に来ていた武尊先輩に強引に体育館から外に連れだされました。後ろからは、はるかさんが怒鳴りあう声が響いていました。
次の日に三年生がはるかさんと一緒に私の教室に来て、謝ってくれたけれど、原因は分からないままでした。はるかさんにも原因の説明はなかったみたいで、納得出来ていないようでした。断ろうとはるかさんは言ってくれたけど、演劇部の他の人達の頑張りを知っているので、その人たちのために音響の仕事はすることにしました。
練習の時は、はるかさんか朱里が一緒にいてくれることになったので、とりあえずは大丈夫だと思います。
いろいろグチってごめんなさい。心配させてしまってごめんなさい。
暗いことばかりでごめんなさい。本当にごめんなさい。
逢いたいです。
美古都』