プロローグ 雨の中で
文字数 750文字
「あめ、すきですか……?」
座り込む少女のセーラー服はしっとりと濡れ、うっすらと白い肌が透けている。艶やかに光る黒い髪先は紺の襟にひっついている。
「あめ、か……どうだろう。考えたことねーなぁ……」
困惑した様子で少年が応える。
「わたしは、すき」
「世界が雨の音だけになって、世界からわたしだけが切り離されるみたいで。 ああ、ここにはわたししかいないって想えて。すこし淋しくて、哀しくて。怖くて。でも、やむと、今度は優しくて、やわらかくて、広くなって。いままで見ている世界と違うものを見せてくれて。かすんでる世界の汚れが流れて澄んで。……世界が塗り替えられる。すべてが本当の姿になって鮮やかに……鮮やかに輝くんです。だから……わたしは……すき。すきなんです」
少女は動かない。いつの間にかハンカチを握りしめている。
「あー…「あのっ!」
二つの声が重なる。
「もう一度、逢えますかっ!」
少女は立ち上がり、真剣な瞳で。
眉を下げ、なぜか怒ったように唇を噛んでいる。痛々しいほどに真っ赤に染まったその唇から一言ごとに息が小さく漏れる。
「もう一度。もう一度だけで良いから逢いたい。彼方に逢いたい。だから……だから……」
囁かれた小さな願い。
「……忘れさせないで、下さい…」
頬はほんのりと桜色に染まり、それでも健気にうつむくのを必死にこらえている。胸の辺りで祈るように両手でハンカチをぎゅうっと握りしめている。
かけられた手にピクンと小さな肩を震わせ、薄くて力を入れたら壊れてしまいそうに見える。
少女の靴がゆっくりと地面から離れ……
あまくやわらかな気配とともに、世界から雨音が消えていく……
座り込む少女のセーラー服はしっとりと濡れ、うっすらと白い肌が透けている。艶やかに光る黒い髪先は紺の襟にひっついている。
「あめ、か……どうだろう。考えたことねーなぁ……」
困惑した様子で少年が応える。
「わたしは、すき」
「世界が雨の音だけになって、世界からわたしだけが切り離されるみたいで。 ああ、ここにはわたししかいないって想えて。すこし淋しくて、哀しくて。怖くて。でも、やむと、今度は優しくて、やわらかくて、広くなって。いままで見ている世界と違うものを見せてくれて。かすんでる世界の汚れが流れて澄んで。……世界が塗り替えられる。すべてが本当の姿になって鮮やかに……鮮やかに輝くんです。だから……わたしは……すき。すきなんです」
少女は動かない。いつの間にかハンカチを握りしめている。
「あー…「あのっ!」
二つの声が重なる。
「もう一度、逢えますかっ!」
少女は立ち上がり、真剣な瞳で。
眉を下げ、なぜか怒ったように唇を噛んでいる。痛々しいほどに真っ赤に染まったその唇から一言ごとに息が小さく漏れる。
「もう一度。もう一度だけで良いから逢いたい。彼方に逢いたい。だから……だから……」
囁かれた小さな願い。
「……忘れさせないで、下さい…」
頬はほんのりと桜色に染まり、それでも健気にうつむくのを必死にこらえている。胸の辺りで祈るように両手でハンカチをぎゅうっと握りしめている。
かけられた手にピクンと小さな肩を震わせ、薄くて力を入れたら壊れてしまいそうに見える。
少女の靴がゆっくりと地面から離れ……
あまくやわらかな気配とともに、世界から雨音が消えていく……