14
文字数 1,190文字
広い館内の照明が、まぶしい。
「わあ!」
わたしの唇から、驚きの声が漏れた。
びっしりと上から下まで、色とりどりの生活用品が並んでいた。なにもかもが、懐かしい光景だと思った。紙類も洗剤も化粧品も、菓子類も。今なお様々なメーカーが趣向を凝らして、こちらに買ってもらおうと努力していることが、ひしひしと伝わってくる。
久しぶりに見る物量の多さに圧倒されて、足がすくむ。けれど無意識のどこかで、わたしは待ち望んでいた気がする。普通の生活を送れることの、忘れてしまいそうな些細な実感そのものを。
「いっぱい『モノ』がある……!」
思わず口走っていた言葉に、ターニャが口元をほころばせた。
「サラさんは好きなものを選んでいいのよ?」
「え、でも」
たじろぐわたしの眼前に、リサは二台のショッピングカートを持ってくる。彼女は心底から愉しそうに、そのうちの一台をターニャに渡した。
そして、こちらに悪戯っぽい眼差しを寄越した。
「わたしたち、サラのために買い物をするんじゃないわよ? イリくんが可愛いから、できるだけ健やかに育ってほしいから。それだけよ?」
「う、うん……」
屈託なく笑うリサに、わたしは正気に返る。
彼女たちふたりは、絶対にわたしの負担にならないように振舞ってくれている。
きっと、この様子ならば。会計のときでも、わたしに一円も出させないだろう。けれど、それが正しいことなのか、どうか。
わからない。
だって、甘え方を知らないから。
わたしは涙ぐんで、ターニャを見た。だけど彼女は慈愛あふれる瞳で、イリヤとわたしを見比べるだけだ。
「タ、ターニャさん? わたし、保護費の支給日は、まだ」
言いかけた言葉を弾くように、ターニャは首を振った。
「野暮なことは言わないで」
「けど、ですね」
「じゃあ言葉を変えるわね、わたしもリサも、たまには善人になりたいだけよ? ちょうどいい頃合いで現れたのが、あなた。サラさんだってこと、それだけ。あなたはわたしたちの自慰行為のターゲットになっているだけよ」
「自慰行為って、そんな」
わたしが言うと、ターニャは一瞬だけ悲しそうに目を逸らせた。けれど、すぐにこちらに強い目線を向けた。
「わたしと一緒にいるとき、リサも愉しそうにする。あなたにもリラックスして欲しいだけよ」
「はい」
うつむいた自分の目が、潤んでくるのがわかる。そんなわたしの肩に、あたたかい手が乗せられた。
「イリヤちゃんに、泣き顔を見せちゃあダメ」
わたしは顔を上げた。こころなしか相手の瞳も、潤んでいるように思える。
「ほら、もう。リサがカートに色んなものを突っ込んでるよ? 一緒に行こう」
ターニャの言葉に、今だけは遠慮という感情を忘れようと決めた。リサが離れたところから、わたしに向かって手を振っている。
「はやく、おいでよ」
「わあ!」
わたしの唇から、驚きの声が漏れた。
びっしりと上から下まで、色とりどりの生活用品が並んでいた。なにもかもが、懐かしい光景だと思った。紙類も洗剤も化粧品も、菓子類も。今なお様々なメーカーが趣向を凝らして、こちらに買ってもらおうと努力していることが、ひしひしと伝わってくる。
久しぶりに見る物量の多さに圧倒されて、足がすくむ。けれど無意識のどこかで、わたしは待ち望んでいた気がする。普通の生活を送れることの、忘れてしまいそうな些細な実感そのものを。
「いっぱい『モノ』がある……!」
思わず口走っていた言葉に、ターニャが口元をほころばせた。
「サラさんは好きなものを選んでいいのよ?」
「え、でも」
たじろぐわたしの眼前に、リサは二台のショッピングカートを持ってくる。彼女は心底から愉しそうに、そのうちの一台をターニャに渡した。
そして、こちらに悪戯っぽい眼差しを寄越した。
「わたしたち、サラのために買い物をするんじゃないわよ? イリくんが可愛いから、できるだけ健やかに育ってほしいから。それだけよ?」
「う、うん……」
屈託なく笑うリサに、わたしは正気に返る。
彼女たちふたりは、絶対にわたしの負担にならないように振舞ってくれている。
きっと、この様子ならば。会計のときでも、わたしに一円も出させないだろう。けれど、それが正しいことなのか、どうか。
わからない。
だって、甘え方を知らないから。
わたしは涙ぐんで、ターニャを見た。だけど彼女は慈愛あふれる瞳で、イリヤとわたしを見比べるだけだ。
「タ、ターニャさん? わたし、保護費の支給日は、まだ」
言いかけた言葉を弾くように、ターニャは首を振った。
「野暮なことは言わないで」
「けど、ですね」
「じゃあ言葉を変えるわね、わたしもリサも、たまには善人になりたいだけよ? ちょうどいい頃合いで現れたのが、あなた。サラさんだってこと、それだけ。あなたはわたしたちの自慰行為のターゲットになっているだけよ」
「自慰行為って、そんな」
わたしが言うと、ターニャは一瞬だけ悲しそうに目を逸らせた。けれど、すぐにこちらに強い目線を向けた。
「わたしと一緒にいるとき、リサも愉しそうにする。あなたにもリラックスして欲しいだけよ」
「はい」
うつむいた自分の目が、潤んでくるのがわかる。そんなわたしの肩に、あたたかい手が乗せられた。
「イリヤちゃんに、泣き顔を見せちゃあダメ」
わたしは顔を上げた。こころなしか相手の瞳も、潤んでいるように思える。
「ほら、もう。リサがカートに色んなものを突っ込んでるよ? 一緒に行こう」
ターニャの言葉に、今だけは遠慮という感情を忘れようと決めた。リサが離れたところから、わたしに向かって手を振っている。
「はやく、おいでよ」