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文字数 710文字

 わたしは、ごく自然に問いかけている。
「イリヤとは、何歳違いになるの?」
「二十四歳、違い。……って? 俺と貴女(あなた)は何歳違いになるんだ? 女性に年齢を尋ねるのは失礼になるけれどもさ」
 ナオキの視線が、とてもまぶしい。
「あ、ああ。そうだよね、こっちが聞いておいて、年齢を黙っているなんて、おかしいよね」
 わたしの頬は、勝手に熱くなっていく。ナオキが「ふっ」と鼻を鳴らして頬をゆるめた。
「だからさ、何歳違いよ」
「え、えっと。三つです。三つ下」
「へえー」
 相手は愉しそうに肩を揺らして笑った。
「俺の母親も、二十一の時に俺を産んだらしいよ。たしか、そんなこと言ってたね」
「そうなんだね、若いおかあさんだったのね。ナオキのところも」
「うん、まあね。ただ、俺んちは父親が病気で亡くなっているけど。サラさんのほうがハードだと思うけど」
「おかあさんは? 今、お元気にしているの?」
「うん。去年、再婚したから。母親と一緒に暮らすのが照れくさいというか、つらくて。ここに住み着いた矢先に俺の体に、親父の病気がそっくりそのまま発症しちゃった」
「えっ……」
 ナオキは片手で唇を塞いだわたしから、視線をそらした。広げた膝の上に肘をつき、右手では空になった缶を小刻みに振り続ける。
「ありがちな話だろ? 母親の再婚相手が嫌いなヤツとか、そういうのじゃないんだけどね。むしろ嫌いなヤツだったら、今頃もっと。俺の気持ちも楽になってる」
「そ、そういうことじゃなくて。病気、って。そんなに大変だった、とは知らなくて」
 ナオキがうなだれたままで、顔だけをこちらに向ける。
「普通に生活する分には、問題ないよ」
 ひっそりと落とした声が続く。
「それに、誰にも伝染らない」



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