ギルド

文字数 3,654文字

「起きなさいよッ。いつまで死んでるの??」



「……まぶっし!!」



俺は、掠れた風景を目を擦り直しながら瞼を開くとボンヤリと千那の姿が目に入った。



どうやら、いつの間にか寝ていた。と、言うことらしい。



寝顔を見られたのは多少恥ずかしい。つか、女性に寝顔を見られた事なんか初めてだ。



「ビックリしたわよ」

「え?  何が?  何かあったの??」



俺の頭上にある窓を開き、壁に寄りかかり、装飾品を鳴らしながら腕を組みコチラを見るなり、

「死んでるのかと思ったわよ──いいえ、死んだ表情なのね」



その言い直しには、俺が死んだ顔って事にはなりませんよね?  あくまでも、死んだように気持ちよさそうに寝ていたと言う事ですよね??  それ以上の意味はありませんよね?  千那さん!?

「なによ、死人。ジロジロみて」

──言い切ったよ!!



しかし、それよりも武器庫ってだけあるよな。

鎧とかは見当たらないが、それでも武器屋って言われても信じてしまう程の品々が陳列している。

少し腰を落ち着かせることが出来たのか、俺は昨日よりも周りに対して意識を働かせる事が出来た。



「そーいえば、二階には何があるんだ?」



「……上がったら殺すわよ?」



やめて!  そんな殺意に満ち満ちた阿修羅も顔負けな形相で睨まないで!

つーか、死人をこれ以上、痛めつけないで……。



「いや、上がらないけどさ……この部屋見たいに武器が一杯あるのかなーと」



「そ、そうよ。でも、ゴチャゴチャしてるから怪我するわよ」



まあ、此処も十分ゴチャゴチャしているがね。



「くぁあーん……ッ」



体を震わし、欠伸をした。どうやら、キルルもお目覚めのようだな。



「まずは、顔を洗ってきなさいよ。汚い顔が余計に汚いままじゃ締まりよくないものね」



こいっつ。絶対、わざと言ってるだろ。すまし顔で絶える事なく毒ばかり吐きやがって。

俺の心が耐える事も出来ず堪えて絶えるわ!!



「……何かしら??」



「え、いや、何も……」



こっわ。いや、こっわ。荒くれ者って言うのは、表情とか声のトーン、あんなすぐ変えられるの?  なにあれ、仮面なの?  ライダーなの?



目を逸らしたのは別にビビった訳じゃなく、戦略的撤退。と言う事にしといて、俺はソソクサと洗面所へと向かった。

ちょっと離れた所に、水を入れた桶を置くとキルルも豪快に顔をつけ“バシャバシャ”と俺の真似をするが如くに顔を洗う。



「ふぅ……」

いやぁ、実に気持ちがいい。やはり、朝は冷たい水で顔を洗ったりすると気持ちが切り替わると言うかなんと言うか。



「じゃあ、行きましょうか」



俺が戻ってくるなり、腰を落ち着かせる暇もなく千那は背を向けドアノブに手を翳す。

「ん!?  行くって何処に?」



すると、肩を落とすように溜息をつきながら、

「何処って、ギルドに決まってるじゃないの」



「ぉおー!!  キタキタキタキタぁ!!  遂に魔物討伐とかするんですね!」



「は?」



「へ?」



「何、訳の分からないこと言ってるの?」



いや、逆に、何訳分からないこと言われてるの俺。



振り向き、冷めた瞳から放たれる言葉に出さずも“呆れた”と言う鋭い視線が心に突き刺さる。いやさ、女子に睨まれたり、下卑た者を見るような感じで接しられるのって辛いんですよ。分かりますか、分からなかったなら覚えといてください。お願いします。これ以上、俺みたいな被害者を増やさない為にも……。



「魔物討伐なんか行く訳ないじゃないの。死ぬの??」



「いや、死にたくは無いけど……。ギルドって、そう言う、言わば“クエスト”みたいなのを受注する場所じゃ?」



「いやいやいや……いやいやいやいやいや」

イヤが多いのは人を責める仕様ですか。そーですか。



「ギルドは、そうね……区役所みたいな場所かしら?  私達がこの世界で住めるように手続きをするの」



「ふむふむ」



「それが終われば、仕事の手続きよ。とは、言ってもアンタが言っていた魔物討伐何てものは無いわね。否応なしに戦う事はあっても、自分達から挑むなんて無茶は中々する人は居ないわ。──ッて、ラハルから話されなかったの??」



「聞いてませんでした……」



だって、想像と違うじゃん!  てっきり、ギルド行って、受注してレベル上げてスキル覚えてみたいな!  なんだよそれ。ファンタジーどこいったんだよ!



「……アンタ、何涙目になってるの?  キモイはよ……」



涙目なってる相手に追い討ちかける貴女もどうかと思うけどね。



「取り敢えずは、ギルドに向かいましょう。魔物討伐はなくとも、私達にはステータス更新など、やる事があるのよ」





「ともあれ、じゃあーキルルはお留守番だな」



「キルル??」



「ん?  ぁあ、コイツの名前。キルルにしたんだよね」



「ふーん、そうなの」

自分から聞いといて、その興味の無さはどうかと思うよ千那さん。



俺は、キルルを部屋に置いて先に部屋を出た千那を追いかけた。



あ、そーや、散歩とかした方がいいんだよな? トイレとかさせなきゃだしな。



人通りを考えたりすると、やはり夜になるよな。

まあ、あんま遠くに行かなければ大丈夫だろ。



なんて事を色々考えていると、ものの数分で千那は立ち止まる。

俺は、その建物を見て驚愕した。いや本当に顎が外れそうだったよ。寧ろ、軽く外れだよ。



全く想像と違う事続きで、正直ショックを隠しきれない。



なんだよ、この廃れた一軒家みたいな建物。



ギルドったら、もっとこう、あるだろ!  興奮掻き立てるような銅像が立ってたり!  荒くれ者達の笑い声や揉め事が起きてたり!!

それが何も無い……だ……と。

「なに、絶望しきった正気の無い目をしてるの?  行くわよ」



「お、おうす」



部屋に入ると、何処か甘い香りが立ち込めていた。

目の前には小さい木製のカウンターが一つ、その先には数人、事務仕事等をこなしているのか忙しない。



朝早い為だろう、俺達の他に客らしき人は居なく、カウンター越しに一人と目が合うなり、反射的にお辞儀をしてしまった。



流石、日本人。挨拶を重んじる文化。けして、色っぽい為に気まずくてとかではない。と、自己正当化をしつつ……でも思う。大人の魅了万歳。



「あら、早いわね。もう来たの??」



「ぇえ、ルーさん。この隣に居るのが昨日話していた猛獣使いの」



「あ、どうもっす……」



って、え?  昨日?  もしかして、千那は昨日の内に段取りを何も言わずにしてくれていたのか?  俺が家で休んでいる間に。



「ぁあ、この子が?  中々良い男じゃないの。目鼻立ちも良いし」



肉食系……だと……ッ!!  流石、ギルドの受付嬢。品がある声、見た目は細くて、出る所も出てない感じもする女性だが、その感じだけで十分素晴らしい。ただ、一つワガママを言わせてもらえば、俺はショートよりロングの方が好きだ。



「じゃあ、手続きするからいらっしゃいな」



くっそ!  なんだよ、その器用な手先は!  なんの魔道具だよ。幻惑魔法の類かなにかですか?



ダメだ、足が……足が勝手に……!!



「えっと、お願いします……」



内と外の気圧差の激しい俺は何をやっているのだろうか。



「じゃあ、この丸い水晶に手を翳して自分の名前・年齢・身長等、わかる範囲で念じてね?  りくーくんっ」



──はうっ!!  お姉様オーラが半端ない。と言うか、俺の手をわざわざ掴んで水晶に持っていくとか、と言うか、握り方が握り方がぁぁあ!!



「なに、顔を林檎みたいに赤くしてるの?  可愛いわねッ」



小悪魔的なウインクやめてください。

心臓が止まりそうです。





きっと今の俺の表情ときたら、千那から言わせれば物凄い物に違いない。視点が定まらない俺がそれを思う程だ。



だって、だって、女性にこんな触れた事ないんだもん。





「はい、おーしまいっ」



あ、もっと触れていたかった……ぁあ、これが恋か……。



「ふふふ、可愛いわね。そうだ、陸君?  今晩、どうかしら?」



肉食系万歳!!



「ルーさん、揶揄うの止めてくださいよ」



なんだ? 急に割って入ってきやがって。俺のリア充展開が許せないのか?



「からかってないわよ?」



ですよねー。からかってないですよねー。何方かと言えば、隣に居る女性に──



「ルーさん……男性じゃない……」



「へ!?  おとっ!?」



「それは言わない、や・く・そ・く!」



確かに、確かに……冷静になれば絶壁すぎる……と言うかなんだ?  俺は男性に今恋をしたのか?  異世界に来て、初めてキュンキュンしたのが、男性……だと……。



「なに固まってるのよ?  ちょっと!?  陸!?」



「あら?  気を失ってるのかしら、私の魅力に」



「て、違あぁう!!」








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