危機感01

文字数 2,703文字

「取り敢えずは、端的に言わせてもらうよ??  この俺達が今、地に足をつけている場所“エルドラード”此処は天界へと繋がる……いや、繋げることが可能な柱があるんだよ」

ラハルは、遥か遠くの地平線に向かって指をさした。その指の先に視点を送る、が別に柱らしき物なんか見当たらない。俺の視界に入り込んでいるのは、相変わらずの寂れた荒野のみ。

ふむ?  それは一体どう言った事なのだろう。

神にしか見えない柱とでも言うのだろうか。それなら確かに、人間である俺に何が出来るって訳でもない。それに、そこまで自信過剰ではない。寧ろ、自身に自信が無い過剰なまでに、と付け加えてもいい。俺は明らかに主人公基質では無いのだ。

モブキャラ万々歳だっつーの。

けれど、探究心が無い訳でもなく、当然の様に柱については興味が無いわけじゃない。一体、その柱とはどんな物で・どんな形を成していて・どんな色をしているのか。未知で無知だからこそ気にならずには居られなかった。だからこそ俺は遥か先を、ただただ見つめている。

これで、崖の先に立って夕陽が照らしてくれたら完璧にサスペンスだな。

「あ、因みに雰囲気出す為に指さしただけだから、あの先には何も無いよっ!」
付け加える様に数分経ってからラハルは、テヘッとでも言いたいかのように軽い言葉を吐き出した。

おいふざけんな。

指さした遠くを見つめ思いを馳せて居た自分が恥ずかしい。
俺は逃げるように、バレないように視点を左にずらしながら、
「じゃあ、その事については、少し詳しく聞かせて欲しい」
そう決め台詞を放つと、ラハルはあからさまに面倒くさそうな表情。そして、頭を掻きあげたりと行動をとる。

──おい。神様、目が死んでるんだよ。


「はぁ……」
溜息付きたいのはコッチだよ。と内心で歯向かいつつ、しかし、声に出した所で何も生まないであろうその言葉を腹の底にしまい込む俺は正に大人だ。
「柱は東西南北に四箇所建っているんだ。それぞれ、精霊……命の塊とした者が護っている。そして、その柱を点とし結び出来る中央に天界へと続く塔が現れるんだよ」

その話を俺なりに分かりやすく、覚えやすく解釈していこう。
ようは、青龍・朱雀・玄武・白虎の四帝が柱を護っており、彼等の力で五帝目の麒麟……麒と麟の居場所を指し示す、みたいな事になるのだろう。

──この人は……いや柱と言った方がいいのか?
いいや、面倒くさいな。

この人はきっと、そう言った事を言いたいに違いない。

「んで、その柱がどうかしたの??」

すると、ラハルは項垂れる仕草をみせつけながら、
「乗っ取られた……」
「へ!?」

「──だから、乗っ取られて結界を……」


流石にそれは予想もしていなかったぞ。
と言っても、戦でもそうだが拠点を制圧するのはお決まりだよな。
そんな事を冷静に黙考しているおれを置き去りに、ラハルは頭を抱えていた。これは物理的な意味で。

──いや、そんな慰めの言葉を欲するような目で見つめられても困るんだが……。

とは思っても、俺が話を切り出さなければ進行はしないだろうな。
俺は吹き付ける乾いた風に乗せるようにさり気なく、
「んで、その結果はどうしたら破壊できるの?  やっぱり、オブジェクト的な何かを破壊するとか??」

「流石!!  察しがイイね!  素晴らしい!!」

俺は心でドヤりながらも、面では冷静を演じる。これぞ大人の対応だ。俺は十代にして大人としての技量を身につけてゆく。
なんて事は置いといて、
「んで、そのオブジェクトは何処に??」

「それは、結界を死守している魔物の心の臓に縫い付けられている赤い球体のコア。まあ見れば分かるとは思うけどさ?」

いや、見たくはないけどな。と俺は素直な気持ちを、顔をスノーウルフに向けて、興味のない素振りで伝えた。
だって、言葉に出して食いつかれたら面倒だし。ほら、B型はそう言った生き物だし。
「ふーん、そうなんだねぇ」

「え!?  何?  その興味無い感じ」

俺の表現力は素晴らしい。思惑通りに伝わったようだ。しかし、神様を弄ると言うのも中々出来ない事。俺は今、結構……いや、かなり貴重な体験をしている。きっと今の俺は悪代官顔負けの下卑た笑を浮かべてるに違いない。

「真道陸君、流石にその目は笑わずにニヤけるのは怪しすぎるよ?」

やはり俺の表情は素晴らしいようだ。
って、
「ちがぁぁう!! その柱の結界があるとどうなるというの?  と、言うか、影響があるの?  この世界に 」

そう言うと、ラハルは首が捥げるんじゃないかと心配したくなる程、激しく縦に首を振った。

いや、わかりやすいけど怖いよそれ。なに、異世界でもヘドバンってあるの?

と言うか、神様ってヘドバンやるの?

そっちの方がちょっと気になるんですけど。

ラハルは、脳みそを揺らし過ぎた為に、元の位置に顔を持ってきた時には多少ふらついていた。

──あれだ、この神様、ちょっと頭がアレでアレなんだな。

けして口には出しちゃいけない罰当たりな事を心の中で罪悪感を感じること無く連呼した。

「天界へと行かなければ生まれ変わりをしたい人が居たとしても出来ないんだよ」

悪口を言っていた俺に気がつくことなく頭をクラクラさせながら、眉一つ動かさず真面目な表情でラハルは言った。

しかし、残念ながら見た目が見た目なので台無しではある。

まぁ、でも確かに生まれ変わりを拒んだり天国へ行くのを拒むヤツが多いとしても、中には生まれ変わりを望むやつだって居るは居るだろう。じゃなければこの世界はとっくに滅びているに違いない。

「いいかい?  魂『こん』とは魄『ぱく』と離れたら、その大陸に留まっちゃいけないんだ」

「どーゆこと??」

「魂、つまりは精神を、記憶や感情だな。魄、つまりは、肉体を司るもの、ようは体、器。それは死んで初めて離れる。しかし魂は朽ちる事は無い。故に、その世界に留まり続けると未練や恨み、そう言った負の感情が膨張してしまうんだよ」

魂の記憶か、なる程。それがつまり、前世の記憶が残っていると言われる所以か。

「膨張するとどうなるんだ??」

「器に無理矢理に入るんだよ。今のこの大陸に居る魔物の中には憑依型と言うのが居る。それが彼等なんだ」

ようは、幽霊みたいなやつだろうか。

だが、俺は話が次第に風船の様に膨れ上がっている今の現状にただならぬプレッシャーを感じている方が強かった。

それを感じたかのようにスノーウルフは、再び高らかに吠える。

それは遥か先の俺が生まれ育った世界に届けるかのように、切なく、そして暖かい遠吠え。

俺はその声を聞き若干落ち着きを取り戻し、
「憑依された人間はどうなるんだ?」

「進行度にもよるが、酷ければ殺さなくてはならなくなる」



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