知らなくてもいいこと、しらないもの
文字数 2,205文字
俺の複雑な心境は海に浮かぶ海藻のように揺蕩い続け、それに気が付かない二人は話を勝手に進めて行く。
「あ、因みにだけど此処に居るのは皆さん元天使だから」
「ん!?」
「なによ、驚いた顔をして。当たり前じゃないの、私達の力を分かるのは彼等しかいないのよ」
あ、確かにそれもそうだよな。つか天使でオネエとか存在感強過ぎだろ。
「じゃあ、陸君。この指輪を好きな指にハメてちょうだい?」
そう渡されたのはサイズがデカすぎる金色の指輪。
「いや、俺こんな指太くないですよ? と言うか、婚約指輪とかじゃないですよね!?」
「──ばか」
「違うわよ、ふふふ。それはちゃんと、ここにあるわよっ」
て、あるのかよ!
「この指輪は、能力値を安定させる道具なの。力の暴走とかを抑制して、尚且つ成長過程を、微粒子の魔力から記録するのよ。それがステータス更新する為に必須なの」
なるほど、神ではない俺達は結局不安定ではあるが故のリミッターみたいなものと言うことか。んで、この文字みたいなものはなんなんだ? むっちゃ彫られているけど。
俺は気になり問うてみると、
「それは聖刻文字“ヒエログリフ”よ。その文字列通りの術式が施されているのっ」
そう言いながらルーさんが指を鳴らすと、俺のブカブカだった指輪は人差し指のサイズに綺麗に収まった。
いや、すごい。
「それで、これも。はい」
「ん? これは?」
「陸君のパートナーの分に決まってるじゃない」
いや、困った。要するに近づかなきゃいけないってことだよな? いや、アイツが近づかない以前に、俺は触れる事すら出来ないんだぞ。つかしたくないんだよ……。
「あの、それ絶対しなくちゃ駄目なの……かな?」
「え? それは……まあ……。どうして?」
「実は、俺。動物苦手なんですよ。遠くで見るのは良いけど、近くで接するとなると吐き気が……」
俺は物心ついた時からそうだった。だから動物園なんか行ったことも無いし行こうとも思わない。今回だって、猛獣使いにはなったけれど、戦闘で共に戦うなんて考えてはない。
だが、分かってはいた。こんな唖然としたような態度の視線が突き刺さるのは。
自分でも思う。なぜ、俺なんかが、猛獣使いなんだと。
「ま、まあ、急がなくても大丈夫よ。初めから危険な仕事に手を出さなきゃ良いだけだし! 取り敢えず、でも持っているだけ持っといてねっ」
俺は、渋々頷くと、話は仕事の方へと自然的に進んでいった。
どうやら、話を聞く限り、傭兵から日曜大工といった、ようは便利屋さん的な扱いになるらしい。
街の人々が此処に問い合わせをして、俺達が受注する。
街から街へと遠征にもなれば魔物との対敵もあるが、それは高額報酬と共に手練が我先に取るらしい。だから、安心だと言う事だ。まあ、確かに俺からしたら都合が良い。
「まあだから、暫くは私が一緒に手伝ってあげるわよ」
「え?」
「え? じゃないよ。アンタ、右も左もお金もないんだから、慣れるまでは手伝ってあげるってゆってるのよ!! 一々、根掘り葉掘り話さなきゃ分からないの??」
凄い剣幕でまくし立てる千那。しかし、なぜ目を背けながら、顔を赤くしているのだろうか。
「もう、千那ちゃんは素直じゃないわねっ」
「ルーさん?」
「じょーだんよ、じょーだん。やだわあ、怖い怖い」
俺は、茶化すように言ってるルーさんの肝っ玉の大きさが怖いよ。
しかし、でも何で彼女はここまで良く接してくれるのだろうか。昨日あったばかりの俺に対して、親切に、親密に。
「その、なんだ? ありがとう……」
「別に、感謝なんかしなくていいわ。じゃあ、夜まで自由時間にしましょう。夜になったら、武器庫に行くから。
──あ、そうそう。あの武器庫から好きな武器を選んどきなさい。それをアンタにあげるわッ」
そう吐き捨てると、早々とギルドを飛び出した。なんか用事でもあるのだろうか。
「ルーさん、なんで彼女はあんな親切なんですかね?」
「それは、私の口からは言えないし、言う権利も無いわね。いずれ、あの子の口から聞いてみなさい──でも、あまり詮索はしない事。人には知られたくない過去があるんだから」
確かに、それはそうだ。自分の辛い過去を、知ったような口で慰められてイライラした時があったりもした。故に、その言葉には共感できる。
俺の知らない彼女がいて当然だし、彼女が知らない俺が居て当然だ。適度な距離で適度に接していくのが、長く付き合っていく秘訣なのかもしれない。
ただ、それでも、ここまで世話を焼いてくれる理由が気になったのは上辺だけでも偽善でも無く、タダの正真正銘の本心ではあった。
「まあ、あの子が忙しいのは支払いとかに追われてるからね……。早く売っちゃえばいいのに」
ルーさんは、小さい声で心情を吐露しつつ、奥へと足を運んだ。
狭い部屋に置いていかれた俺は、仕事をこなす音すら邪魔だと言っているかのように居心地が悪く。『失礼しました』と、頭を下げるなり、ドアを開いた。
「特に行く場所も、居場所も無いんだよな……。戻るか……」
そう、思考が行き着く頃には既に、武器庫の前へと俺は居た。
まあ、でも武器を選ぶようにもと、言われていたし。結果オーライといえばそれまでか。
「あ、因みにだけど此処に居るのは皆さん元天使だから」
「ん!?」
「なによ、驚いた顔をして。当たり前じゃないの、私達の力を分かるのは彼等しかいないのよ」
あ、確かにそれもそうだよな。つか天使でオネエとか存在感強過ぎだろ。
「じゃあ、陸君。この指輪を好きな指にハメてちょうだい?」
そう渡されたのはサイズがデカすぎる金色の指輪。
「いや、俺こんな指太くないですよ? と言うか、婚約指輪とかじゃないですよね!?」
「──ばか」
「違うわよ、ふふふ。それはちゃんと、ここにあるわよっ」
て、あるのかよ!
「この指輪は、能力値を安定させる道具なの。力の暴走とかを抑制して、尚且つ成長過程を、微粒子の魔力から記録するのよ。それがステータス更新する為に必須なの」
なるほど、神ではない俺達は結局不安定ではあるが故のリミッターみたいなものと言うことか。んで、この文字みたいなものはなんなんだ? むっちゃ彫られているけど。
俺は気になり問うてみると、
「それは聖刻文字“ヒエログリフ”よ。その文字列通りの術式が施されているのっ」
そう言いながらルーさんが指を鳴らすと、俺のブカブカだった指輪は人差し指のサイズに綺麗に収まった。
いや、すごい。
「それで、これも。はい」
「ん? これは?」
「陸君のパートナーの分に決まってるじゃない」
いや、困った。要するに近づかなきゃいけないってことだよな? いや、アイツが近づかない以前に、俺は触れる事すら出来ないんだぞ。つかしたくないんだよ……。
「あの、それ絶対しなくちゃ駄目なの……かな?」
「え? それは……まあ……。どうして?」
「実は、俺。動物苦手なんですよ。遠くで見るのは良いけど、近くで接するとなると吐き気が……」
俺は物心ついた時からそうだった。だから動物園なんか行ったことも無いし行こうとも思わない。今回だって、猛獣使いにはなったけれど、戦闘で共に戦うなんて考えてはない。
だが、分かってはいた。こんな唖然としたような態度の視線が突き刺さるのは。
自分でも思う。なぜ、俺なんかが、猛獣使いなんだと。
「ま、まあ、急がなくても大丈夫よ。初めから危険な仕事に手を出さなきゃ良いだけだし! 取り敢えず、でも持っているだけ持っといてねっ」
俺は、渋々頷くと、話は仕事の方へと自然的に進んでいった。
どうやら、話を聞く限り、傭兵から日曜大工といった、ようは便利屋さん的な扱いになるらしい。
街の人々が此処に問い合わせをして、俺達が受注する。
街から街へと遠征にもなれば魔物との対敵もあるが、それは高額報酬と共に手練が我先に取るらしい。だから、安心だと言う事だ。まあ、確かに俺からしたら都合が良い。
「まあだから、暫くは私が一緒に手伝ってあげるわよ」
「え?」
「え? じゃないよ。アンタ、右も左もお金もないんだから、慣れるまでは手伝ってあげるってゆってるのよ!! 一々、根掘り葉掘り話さなきゃ分からないの??」
凄い剣幕でまくし立てる千那。しかし、なぜ目を背けながら、顔を赤くしているのだろうか。
「もう、千那ちゃんは素直じゃないわねっ」
「ルーさん?」
「じょーだんよ、じょーだん。やだわあ、怖い怖い」
俺は、茶化すように言ってるルーさんの肝っ玉の大きさが怖いよ。
しかし、でも何で彼女はここまで良く接してくれるのだろうか。昨日あったばかりの俺に対して、親切に、親密に。
「その、なんだ? ありがとう……」
「別に、感謝なんかしなくていいわ。じゃあ、夜まで自由時間にしましょう。夜になったら、武器庫に行くから。
──あ、そうそう。あの武器庫から好きな武器を選んどきなさい。それをアンタにあげるわッ」
そう吐き捨てると、早々とギルドを飛び出した。なんか用事でもあるのだろうか。
「ルーさん、なんで彼女はあんな親切なんですかね?」
「それは、私の口からは言えないし、言う権利も無いわね。いずれ、あの子の口から聞いてみなさい──でも、あまり詮索はしない事。人には知られたくない過去があるんだから」
確かに、それはそうだ。自分の辛い過去を、知ったような口で慰められてイライラした時があったりもした。故に、その言葉には共感できる。
俺の知らない彼女がいて当然だし、彼女が知らない俺が居て当然だ。適度な距離で適度に接していくのが、長く付き合っていく秘訣なのかもしれない。
ただ、それでも、ここまで世話を焼いてくれる理由が気になったのは上辺だけでも偽善でも無く、タダの正真正銘の本心ではあった。
「まあ、あの子が忙しいのは支払いとかに追われてるからね……。早く売っちゃえばいいのに」
ルーさんは、小さい声で心情を吐露しつつ、奥へと足を運んだ。
狭い部屋に置いていかれた俺は、仕事をこなす音すら邪魔だと言っているかのように居心地が悪く。『失礼しました』と、頭を下げるなり、ドアを開いた。
「特に行く場所も、居場所も無いんだよな……。戻るか……」
そう、思考が行き着く頃には既に、武器庫の前へと俺は居た。
まあ、でも武器を選ぶようにもと、言われていたし。結果オーライといえばそれまでか。