プロローグ

文字数 2,359文字

 ”バーティカルぅぅぅぅぅうううううう、スラァアアアアアシュ!!”

ジャキイイイイイイ!ズバーーーーーン!
黄金色の鎧が眩しいイケメンナイトが白馬にまたがり駆ける、そして月の光を浴びながら天より
授かりバーティカルブレードで目の前のゴブリンを一刀両断した!

”ナイトハルト・・・・・推!参!”
”ヒヒーン!・・・・・・・・あーメンドイ”
またがられている馬の顔がクルっとカメラ目線になり、あきれ顔。

ドゴォォォォォン!

ある真夜中、照明の消えた部屋の隅でウキウキ顔の少女がいた。
彼女の見つめる先のディスプレイにはもはやメジャー過ぎる有名動画サイトが映し出されている。
そのあるチャンネルに釘付けだった。
いや、彼女だけではない、日本中のあらゆる児童・学生・社会人までもが虜になるチャンネル、その名は!

ちゃーちゃーちゃちゃーちゃーちゃーちゃちゃー
放課後アウトローちゃんねる!

画面を縦横無尽に動く黄金色のナイトと、ちょっと不細工な馬。
その兜から垣間見える鋭き瞳と長い髪に皆羨望の眼差しを向ける。
バーチャルではあるが。


「キタキタ!今回ウチの学校なんだよね☆絶対あのパパ活してる不良女に違いない!裁きだ裁き!
晒上げろ!」

”こんばんは諸君!今宵も善人面した、もとい仮面を被ったグレィな悪党どもに裁きを与える時間がやってきた!”

動画にはアニメのようなタイトルロゴがデカデカと映し出され、その後 第二十二話■■中学校のアイドル裏事情 と
本日の話題が上げられた。

「えっ、ちょっとまっ・・・・・」

■■中学校と聞いた視聴者が次々と活気立ち、チャット欄はスタンプとwなどで埋め尽くされた。
中には低俗な事書き込むなどやライブ中継を辞めろと言う者、火に油を注ぐものまで半ば
”祭”状態であった。

「嘘・・・・何でバレて・・・そんなはず、冗談でしょっ、ちょ、タンマっ!」
少女がかすれたような声でつぶやく、が通じるわけもなく、チャットで訴えても瞬時に欄外に消え失せた。

ウマが下品な顔で解説をする。
”今回の主役はこの方!大江まお ちゃんですよぉ!うおっ可愛いねぇぇぇ!”
”はーい、おさわりマン、このひとですよーおまわりさぁん、この馬逮捕してぇ!”

画面には 大江まお という名前と共に少女の顔映し出された。
その顔はとても精細でボケもモザイクも一切施していないプライベートフォト。
しかも名前の下には住所から生年月日・血液型・家族構成から交友関係まで幅広く
詳細に公開されていた。
そして何より一際目立ったのは”地下アイドル”と言う一文である。

”さぁではでは、学校でこんなしおらしくておしとやかで可憐で素朴な少女・・・にもかかわらずだ!”

「おいやめろぉーーーー!!!」
普段はぶりっ子であろう少女のあらぬ絶叫が響き渡る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしたの、まお?部屋で何してるの!?」
突然の絶叫に母親が飛んできて部屋の外からドアを荒々しくノックする。
「開けなさい!」
「来ないでぇぇぇ!」

不細工な白馬が進行を続ける。
”さぁさぁここまではただの狂言?嘘?偽り?そんなわけないよねぇええ!って、
ちょ、待って!ライブ接続数つ、ついに300万人突破?!おい、ナイトハルト、聞けよ!”
”それじゃあ皆さんお待ちかね!証拠公開!公開"書刑"の時間だぁ!スラァアアアアアシュ!”
”聞けよタコ!!”
ナイトハルトは白馬のいう事など気にも留めずにカッコいいと自称するポーズを決めまくる。
その刹那、チャット欄が信じられない速度でスクロールされる。
視聴者がみなチャットに書き込んでいるのだ。
そのほとんどが速く情報公開を求めよという荒々しい書き込み。
チャットの中には高額の電子マネーを送るものまでいた。
「嫌あああああああ!」
少女の叫びもむなしく・・・そこに映し出されたのは地下アイドルとして”キワッキワ”の衣装を着た大江真央であった。
かなり観客と近い位置で歌を踊り、一般人はあまりお近づきになりたくないであろうおじ様たちと戯れる
映像が赤裸々に映し出される。

チャット欄は最高潮に達した!
”wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww”
”キターーーーーー!!”
”見に行きます!”
”てか今から家に行くわw”

「お、終わった・・・あたしのアイドル生活・・・人生・・・」

”まおちゃん!学校では優等生気取りにもかかわらず・・・
けなげな少女と有ろうものが色香を使い、大人たちを誑かし、金品を得る。
バレないとでも思ったかこの虚け者!!”
「う、うつけって酷くないっ!?」
”酷くないわ!さぁナイトハルトの奥義を受けよ!フライングハリアーバスタぁぁぁぁああああああああ!”

その時、部屋のドアが強引に開け放たれた。
物音に驚き振り向くまお。
その顔は、鼻水と涙に濡れなんとも不細工であった。
その顔のすぐ横にはディスプレイに映し出されている娘の”キワッキワ”の衣装を着たあらぬポーズ。
母親はそれを見て顔面蒼白になった。

”それでは、次回、そうだな・・・二週間後ぐらいに推参しようか?次はなんとこの少子化時代に多数の生徒を抱えるマンモス高、
県立右左高校(うさこうこう)だぁ! ナイトハルトはグレィな奴らを許さない!!アディオスアミーゴ!”


一方、所変わってここはさびれた繁華街に佇むテナントビルの1階にあるカフェの奥。
八畳間ほどの居住スペースに改造されたその部屋のパソコンデスクで同じようにチャンネルを視聴している少女がいた。
高校生ぐらいの年齢であるが人目もはばからずラフであらぬ姿だが、麗しい。
だがその麗しい姿とは裏腹に酷い濁声で呟く。

「げ、マジか、こらマズいことになったわ・・・」

OAチェアで胡坐をかいて座ってタブレット端末を眺めていたその少女はタブレット端末からUSBケーブルを外すと
急いで部屋を飛び出していった。
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