1章サイバーランナー 02

文字数 5,225文字

私達の店ではカフェだけではない、電子機器つまりはガジェットやツールもたくさん売っている。
カフェであるのは”その手”の連中のオフ会、コミュニティスペースになればというコータローの(薄汚い)アイデアによるものである。
もちろんそれだけではない。
売買するモノの中には当然公にできない脱獄ROM(個体識別番号がない)スマートデバイス、
ファームウェア改ざん等々今この時代にお巡りさんに見つかれば間違いなく”お泊りコース”な品を多数取り扱っている。
その販売する大半は馴染みのお客さんだし、バレないでしょう、多分。
でも、その中でも特に当店の”推し”はやっぱり”情報”よね。
申し訳ないけど人様の端末に”すこーーーーーし”だけお邪魔して”知りたーい☆”と要望されている
お客様にこっそり教えて差し上げるサービスをしているの。
え、クラッキング?!(端末破壊)それは余程の事がないとまず無いわね。
私達はハッキング(不正接続)と呼ばれる方よ。
ファッ〇〇グじゃないわよ。
「この間ムカつくって・・・・」
ま、まあ時と状況によるわね。
でもこれは”不正アクセス”といって私達の生きる時代ではかなりヤバい橋を渡るわ。
傍から見れば”すっげー”とか”かっけー”とか思うかもしれないけど真似しちゃメッ!よ。
重罪なんだから。
「まあ、そんなもんでも売らなきゃ生活できない世知辛さもあるもんなぁ、そしてこれが一番儲かるし」
はぁ?!
まあ、ともかく。
訳解んないこともあるかもしれないけどここが寂れた繁華街の一ビルということもあって”ちょい”
アンダーグラウンド界隈の事もやってるってわけ。
そう言う意味で言うとナイトハルトの事偉そうに言えないわね・・・・。
「わかんないぜ、奴ら実は生粋のセレブでこれは神々の秘め事・・・・」
話がそれたわね、とっとと始めましょう。


 カタカタカタカタ・・・・・
「・・・IP確認、ゲートウェイ、SLL、openフェイズよろしゅう」
「了解した・・・・ふむ・・・接続成功・・・だが相手の・・なんだこれ」
とりあえず傍から見れば何やっているかはまったくもって訳わかめだけど
今私達は自身のPCマシンからネット回線を通じてほぼ百パー間違いない
ナイトハルトの端末、要はメインで使っているであろうPCにアクセスしたのだが・・・妙に雲行きがおかしい。
いつもならコータローはボクシングよろしく”打つべし打つべし”で目標データまで一直線なのだが、変に苦い顔をする。
殴ったら元に戻るだろうか?
「いや殴るな、無類のコーヒー好きの俺でも苦い顔する時はあるぜ?」
「ひとりでコソコソ真夜中に出かけるときとか?」
「おーーーーい、余計な話スンナ。それよりこれ見てみろ」
「話逸らしてんのはそっちじゃ・・・なにこれ?」
コータローがディスプレイに詳細を映し出す。
それはナイトハルトが使っているであろうPCの諸元表、要はスペックだった。
「・・・RAMが32メガ?!ギガ当たり前の時代にありえんでしょ。
CPUも1990年代ぐらいにコンシューマで流行った奴じゃない?」
「これは・・・いわゆるインターネット開拓時代のPCだな、俺も学校で弄ったことがある」
「マジか・・・これネットマジでつなげるの?信じらんない・・・」
「当たり前だろ。しかしまいったな、ということは・・・ちょっと待てよ・・・やっぱり、接続速度128k遅すぎる」
コータローの話を整理すると、つまりは相手のパソコンはすさまじく遅い。
例えるなら相手のPCが亀ならこっちはコンコルドぐらい。
「言い過ぎでは・・・」
いや、言い過ぎじゃないね。私の自作した”うさぎさん六号”はコンコルド並みに早い。
極限流チューンを施しているのだ。
「でも相手のPCが遅いのなんか何の問題の無いんじゃない?」
「大有りだろ、忘れたのか”下位互換性・後方互換性”」
あ、そうか。
つまりどういう事かというと、こっちがいくら高速な回線を使おうが相手が遅い回線を使用しているのであるなら
そちらに合わせなければならないという事、相手のドンガメPCに接続しているのであるからして。
向こうのドンガメPCはこっちのうさぎさん六号並みのスピードを出せないからね。
「じゃあ、重たいデータは無理?」
「動画関係は間違いなくアウトだな。こんな回線スピードでHD画質のもの見るなんて狂気の沙汰ではない。
そもそもオペレーションシステムも古すぎる。Linuxでもバージョンが古すぎる」
うーん、マジか。
冒頭だけでも確認できればよかったのに。
「プライベートフォルダを覗こう、出来るだけ”らしい”ものな。最後に清掃活動(ログ消し)は忘れずに。サボりは無しだ」
「アイアイさーってこないだ掃除サボったのはコータローでしょうに」
「なんのことだか・・・ずずぅー」
わざとらしくコーヒーすすり寄ってからに、既に三杯目だ。
とりあえず私はコータローと手分けしてナイトハルトのPCを漁ってみることにした。
とはいっても、システムファイル関係をすべて除外した検索をかけて私的フォルダ・ファイルを洗い出すだけだ。

・・・・。
・・・・・・。
「おそい・・・遅い・・・・遅すぎるぞっ、おい店主!?注文したカレーはまだか!?」
「・・・当たり前だろ、向こうの回線速度に合わせているって言ったじゃないか。まあ、ゆっくり行こうじゃないか」
「私は”イラチ”なのっ」
「それでサービス業は酷だぜ・・・」
コータローのいればカフェオレをずるずる飲んでは大好きな塩たっぷりクラッカーをほおばる。
「またそんな毒々しいものを」
「塩、乳成分、そして炭水化物ついでにカフェイン・・・これに屈服しない人間はいないわ」
「絶望の健康診断結果が見えるぜ・・・お、来たようだ」
ディスプレイにナイトハルトのプライベートフォルダと思しきものが多数羅列される。
「ふむ」
「どうよ」
「動画データはあるな・・・しかしだ、流石にこんなドンガメスペックのPCでHD画質の動画編集などできないだろう?
ソフトウェアだって対応していないはずだ。ましてはネットへアップロードなんて」
私は動画ファイルが格納されているフォルダを表示して各ファイルを凝視する。
「ファイル名は年月日かぁ・・・できればタイトルやネームぐらい入れてほしかったなぁ」
ファイル名は全て数字と/で構成されている。
「サムネイルだけでも表示するか?」
「それは止めた方がいいわね、向こうのPCがハングアップしかねない」
「だな」
暫く画面とにらめっこしていると、あるファイルに目が留まった。
「コータロー、この動画ファイルの日付見て」
「・・・10分前に生成されたものじゃないか」
「感づかれている?」
「まさか、気づいていたらマシンの電源落としているだろ」
「まあそうか、というかPC最初から起動してたの?」
「おう、こっちから遠隔起動する手間も省けるし、最終ログイン時間が結構前だから放置して風呂でも入っているんじゃない」
もっっ~不用心すぎる。
これだから、コータローは。肝心なところが抜けすぎなんだよぉ。
「抜かりはないはずなんだけどなぁ」
うん?この生成ファイル。すごい違和感を感じる。
「なんだろこの違和感。なんかすごい寒気がする」
「マジか・・・こういう時のノートの五感はヤバいぐらい鋭いからな」
一応、身の回りの確認を再度する。
トレースなし、串入れOK、サブマシン起動中・・・うんぬんかんぬん・・・
「おい、ノート」
偽装OK、歯磨きOK、明日の準備・・・あ、体操服入れてないっ。
「ノート!聞いてるか?」
「ノートは入れた!忘れ物は無し!」
「そのノートじゃないっ。昔から何回このやり取り続ける気だ」
「私が学生卒業するまで」
「はぁあああ~それよりもだ、この動画ファイル6000kぐらいの容量しかないぞ」
え、まじか。
ファイルの詳細を確認する。
・・・確かに6000kぐらいのほんの2~3秒程度の動画だった。
「どうする?念のため”持ち帰って”(ダウンロード)スタンドアロンPCで再生してみるか?」
「・・・・このままナイトハルトのPC上で再生してみようよ」
「正気か?まあかまわないがセキュリティは起動して」
「わーてる(わかってる)」
私はその寒気の元であるまだ生成されて間もない動画ファイルを開いてみることにした。
今にして思えば・・・これは人生初めて経験する武者震いだったのかもしれない。
「誰だって初めては失敗するものさ」
「死ねおっさん」
エンターキーを押したと同時だ。
大音量でその馬が現れた。

”あんただーれ”

-------------------------------------
Connected To N.H@192.160.12.23
192.160.12.23@usagi-sub6
probing 192.160.11.23................
probe Complete - Open ports:jajaflkjajfioajflkajfmeikma;fmna;lksjnf
-------------------------------------

一瞬にして血の気が引いた。
侵入検知システムの警告ビープ音が部屋の中に響き渡る。
元々電気代節約で僅かなLED光だけで過ごしているだけあってその場の臨場感もひとしおって
そんなこと言っている場合ではない!
「やられたな、デコイは?」
「出してるっ、だ、大丈夫だからっ、く、クソなんで?!」
「女の子がクソなんて言葉使うな。さあ落ち着いていくぞ、久方ぶりの緊張感だ」
なんでなんで。
頭の中に疑問が湧き出てくる。
こ、こんなドンガメPCに攻撃されてる?!
「サブは?」
「DDOS攻撃でハングってるっ、いつの間にっ」
「中々のやりよるマンだな、逆探されてないな?」
「だからデコイ出してるってばってああ嘘でしょ、いつの間にかかわされて私のうさぎさん六号にアクセスしようとしてるっ。
ドンガメの癖しやがってっ舐めた真似を、パスワード解析なんて出来ると思うなよっ!」
くそぉおおおお、ナイトハルトのボケ~
ゆ、許さんぞ、こうなったらブルースクリーンお見舞いしてやるっ!
「落ち着けノート、交代しよう。複座に変われ」
「なんでっ?こんな奴らコロコロしてや――――」
「手慣れだ。低スペックを逆手に取られた、今は奴らの方が速い、見ろ。」
目を疑った。
本来は並のPCでも解析に一時間を要する私の特製パスワードを既に解析している。
後、二回パスワードを抜かれたらこっちのPCにアクセスされて所在がバレる。
「どうして?なんでこんな?」
「ノート、反省会は後だ。今ログは全部消した。代わってくれ」
「・・・・畜生」
私は悔しさで目を涙で滲ませながらディスプレイ横の切り替えレバースイッチTwo-seat(複座)のONを下げた。
画面がコータローのモノと私のモノが入れ替わる。
ディスプレイを見るとドンガメPCともう一台、私と同スペックであろうPCがセキュリティを破ろうとしていた。
「クソ、こういう事かっ」
「なんてリアルなデコイだ、まあナメてかかって悠長にしてた俺達のミスだ。
よし、さあナイトハルト・・・挨拶がまだだったな、これはお近づきのしるしだ。受け取ってくれ」
コータローが滑らかなタッチで操作し、相手のメモリがフルになりハングアップが表示される、が。
途端にメモリ容量がゼロに戻った。
「なるほどなぁ、ちょっと打ち込むかぁ?」
コータローは臆することなく、むしろ表情を嬉々とさせ何かを入力する。

dou gyou sya ? y / n

すると程なく。

boku ha sekigi no sisya sa !

「正義の使者ときたもんだ、面白い奴だなぁ。まあいいか、お邪魔しました~」

see you agein !!

コータローはアクセスシステムの切断ツールを使って、相手の接続を切った。
ぐずぅ、これってやっぱり・・・あれだよね。
「今日はあなたの負け」
「そ、そんなぁ~信じらん無いぃ~びぇっぇぇぇ!」
隣のビルから酔っ払いがうるさいと叫んでいたのでクソムカついて床に落ちていたペットボトルを窓から投げつけて
久しぶりに年甲斐もなく泣いた。

ところ変わりどこかの倉庫。
その中は朽ちた外観とは打って変わり生活臭がにじみ出た居住空間だった。
その中央には年代物から最新までのPCが所狭しとひしめき合っている。
そこに二人の影。
「・・・・・・・・・・・??どういう事?なんか急に動きが変わったけど、ハッキングに来たのは一台だけだったよね?」
「・・・これは、へえ、すごいな。見ろよ、これ一台のアクセスで二人分の操作をしてる、スゲーな。どういう仕組みだ?」
「これが真のデュアルPCとか?」
「馬鹿じゃないの」
「・・・・ところでログ残ってんの?」
「ああ、向こうは消したつもりでもそうは問屋がおろし金。あらかじめログは別PCに”RAID(複数記録)”組んでるからな」

暫くの沈黙ののち。
「面白くなってきたな」
「次も楽しみにしてるぜ・・・”うさぎさん”」
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