2章 配”信者”達 04 side-midori 

文字数 4,922文字

「はえー、こんなとこ人生で関わることはまず無いと思っていたんだけどねぇ。
大体県庁ってさ、何するところな訳?みどりっち知ってる」
モエラさんは大きくあくびをしながら特徴的な県庁ビルを見上げた。
この県庁ビルは古くに有名な建築家によってデザインされ、文化遺産にも指定されている。
「解りやすく言うと県庁は主に”公務”のために行う公務仕事といったところでしょうか。
もちろん私達市民が窓口に行くこともありますよ。一番ポピュラーな所で言うと福祉課や児童課でしょうか?
そのほかにもイベント関係で窓口を訪ねることもあると思います。
あ、そうだ、県と市の職員を比べるような事言っちゃだめですよっ、余計なトラブルの元ですっ」
「流石みどりっち詳しいね。てかよくしゃべるね~あった時は大人しい子だと思ったけど、しししし」
くわっ、この人結構遠慮なく人に突っ込むタイプだなぁ、ちょっと苦手かも・・・・
「しかしまあ、どうするよみどりっち。勢いよく来たものの用もないのに入ったら即御用じゃね?」
「ここは一階がフリースペース・喫茶店・コミュニティホール・コンビニ併設で二階からが公務関係になってますから
一階にいるウチは大丈夫だと思います」
「そうなのか、お役所ってのはもっと窮屈な所だと思っていたんだけどイマドキは違うんだなぁ」
「モエラさん・・・その歳でいままで市役所とか言ったことないんですか?」
あ、しまったっ、余計な事言っちゃったかな。
「だはは、あるあるあるよぉ十年ほど前に離婚届出しにっ・・・てみどりっちよぉ~いうじゃん。
でも、見てなってあんたもウカウカしてたらすぐ私みたいになるからねぇ」
「ええっそんな、私は別にっって離婚届?!」
「まあいいか、んじゃまあ茶店があるんだから堤の野郎よりうまい茶出してるか調べに行くべ。
そこで茶でも飲みながらどうすっか考えっかぁ」
そういってモエラさんは私と腕を組んで県庁の玄関へ向かって歩き出した。
ちょっとモエラさんまさかノンプラン?!てか離婚届って嘘でしょ?!情報量大すぎっ!
「ちょっとモエラさんっ~」
「んなぁレッツラゴー」
もうこの人ッ、どこまで本気でどこまで冗談なのっ?!

県庁一階喫茶店。
「ずずーーーっ。うん、まあ、なんとなく想像ついたわ。てか堤の奴ってマジで茶ぁ入れるのうまいんだなぁ、
こうやってたまに他の奴の入れたモノ呑むとアイツの茶が実は中々上出来だったんだって身に染みるよ」
「何気にモエラさんとても酷いこと言いますね、カウンターの定員さん凄い顔してますよ」
一応私は申し訳なさそうに小声で言った。
「いやみどりっちには負けるよ」
もうヤダこの人・・・とほほ、さっきからずっとこんな感じだし。
「それよりほら、見てみなよあそこの窓側奥のテーブルの方」
こそこそとモエラさんが指さす。
そこにはタブレットを片手にコーヒーカップを傾ける若いスーツの男性がいた。
「はあ、まあスタイル顔立ちは良いんじゃないでしょうか、モエラさんああいう人が好みなんですか?
私にはもう一つ解りませんね。大体男の人ってさっきみたいにいきなり―――」
「いやちげーよ。窓に張ってある広告だよ」
「えっ!あ、あああそうでした。あはは、私ったらてっきり」
しまったまたやってしまった。モエラさんまるで虎子を得たように顔を喜びの顔を浮かべた。
「いいっていいって。年頃だもんなぁ~ノートにはきっちり報告しといてやるからなっ」
「このお茶お顔にかけましょうか?まだ熱いですよ」
「・・・・冗談だよ。そのヤローのすぐ近くにある張り紙だよ」
モエラさんは顔をぎょっと強張らせて指さした。
こういう性格が調子乗りはたまに釘を刺しておかなければ、うん。
これは効果がバツグンなので大人になっても使い続けよう。
「張り紙ですか・・・何々(目を凝らす)、”短期アルバイト(インターンシップ)募集のお知らせ”
学生・未経験歓迎・時間応相談・・・詳しくは店頭スタッフまたは県庁ホームページ内の―――」
「すみません店員さん!」
いきなりモエラさんが大手を振って店員を呼び止めた。
「・・・ハイなんでしょう?」
「この子インターンシップ希望なんですが」
「はい?!」
ちょっと待って、どういう事?!
「解りました、ちょうど店長がスタッフルームで事務仕事しておりますのでお声がけしてまいりますね」
「うーす、あざーす」
「いやいやいや。あのですね、その・・・」
え、そんな。ここに来たのは悪い人を探しに来たんでしょ?なんでそれがバイト、しかも私。
何してんのこの人、いや駄目、ちょっと処理が追い付かない。
「ちなみにお客様は?あ、そちらのお嬢さんのお名前も教えていただけますか」
「ああ、学生なんで付き添いです。それにこの子ちょっと口下手で・・・名前は百合園 緑です」
「百合園・・・?解りました、お待ちください」
て、店員さん~。
どうしよう、ちょっと怪訝な顔をしながらも言ってしまった。
「よっしゃよっしゃ、まずは第一関門通過と」
「何言ってんですかモエラさん!私バイトなんてする気ないですよ」
「わりーわりーまあちょっと付き合ってくれ、な?」
マジなのこの人?付いていくんじゃなかった。
「・・・・百合園さん?お待たせしました。店長がお会いになるそうです、奥へどうぞ、お連れの方もご一緒に」
「あざーす!よしみどりっち、気合い入れていくぞ」
モエラさんは立ち上がると私を手招きした。
そんな~。
落胆しながら渋々立ち上がった時だ。
(さわぁ~)
「きゃあ!ちょっっ、止めてくださいよ!」
「いいじゃんちょっとぐらい。景気づけだよん」
景気づけでケツをなでるなぁ!
ん?まってなんかスカートのポケットに入れた?
突然気づいた違和感に私はスカートのポケットに手を突っ込み指先から伝わる感触で感じ取る。
(これは・・・この形、USBフラッシュメモリ?)
ノートちゃんといいモエラさんといい、私なんだか深みにハマっていってる。

「どうぞ、お座りください。ええと、百合園さん・・・でしたっけ?」
テーブルを挟んで私達の向かいにはふくよかなおじさんがズシッと腰かけていた。
「私店長の辻子(ずし)と申します。今日はよろしくお願いしたします」
「まんまじゃねーか」
「はぁ?」
こん馬鹿モエラ~!
「い、いえ。なんでもないです、喫茶店の造りは似てるところがあるみたいで、あはは」
「ちょっと、真面目にやってくださいよ!(超小声)」
「すまん、緊張しちゃって・・・(超小声)」
な、なんでこんな急に緊張感に襲われる羽目になるんだぁ。
「ええと、お連れの方は保護者の方ですね?それじゃあまずは、履歴書の方はございますか?」
「それが・・・その・・・(ひそひそ)・・・・立駐の車内に起きてきちゃったみたいで」
「そうなんですか、ではインターンシップご希望とお聞きしたので生徒手帳はお持ちです?」
「あ、それならあります」
ええっと、胸のポケットに・・・こら・・・つっ張ってるから・・・出ろっコラ!
すぽっ、ぽよーんぽよーん。
「むほぉ!・・・ほぉ、ごほ、おほ、いや、失礼いたしました。コピーを取りますね、ああ心配しないでっプライバシーは保護しますから」
そう言って辻子店長は振り返るとすぐ後ろの複合機を触りだした。
「チャーンス!(超小声)」
モエラさんは机の上に置いてあるノートPCの休止状態ログイン画面を出して素早くアクセスする。
そこから音を出さないようにキーボード叩きネットワーク一覧を出して何かを操作した後、何かを確認していた。
(早いぃ!なんなのこの人?!最近見たアニメで
可愛い女の子が電光石火のイカサマする麻雀アニメ見たけど、アレ並みじゃない?!)
「ビンゴだなぁ。よし、あと一手(超小声)」
「何がビンゴなんです?(超小声)」
「これ、県庁のネットワークにダイレクトに繋がってる、まあザルだよザル(超小声)」
「んなまさか」
「お待たせいたしました、生徒手帳をお返しいたしま・・・どうしました?」
「え、な、なんでもないですぅ。緊張しちゃっておほほ・・・」
うへぇ、心臓バクバクする!
「あはは、君、こういうのは初めてかい?大丈夫、おじさんがゆっくり教えてあげるからねぇ」
なんか店長ニヤニヤしてる。
「なんか・・・エロくね?」
「はぁ?」
こん馬鹿モエラ~!
「なら何故脱ぐっなーんて、あはは」
「えーそれじゃあインターンシップに関する簡単な質問と後、6階に上がって少し端末で書いてもらわなければならない書類が
ありますので・・・お時間は大丈夫ですか?」
「もちろんですぅ!みどりっち、頑張ってね!」
「は、はぁ」

10分後――。
「・・・ハイ、ありがとうございました。みどりさんは大変優秀ですね、感心いたしました。
それでは3階にご案内いたしますので、お連れの方は喫茶店内でお待ちしますか?」
「うーす、そうしまーす」
「はぁ、緊張したぁ~」
「ははは、成れないことは疲れますね。私の方からドリンクをサービスしときますので。それでは行きましょうか?」
そう言って、店長に促され立ち上がるとモエラが耳打ちする。
「頼むぜぇーあと一手(超小声)」
え、嘘、もしかして私の番?!って私何して良いのか解らないよぉ!
「行きましょうか」
「いってらぁー」
「ええっ、っとえええーー」
そ、そんなどうしよう。
モエラが動揺する私など気にも留めずにニヤニヤ笑みをこぼしながら店内へ戻る。
ちょっと、覚えてなさいよぉ!

「・・・・・・・・・・・」
店長に連れられ6階に総務部までやってきた。
カウンターの奥の職員専用端末へと促され、今私はそれと対峙する。
「もうすぐ画面が出ますので・・・はい・・・出ましたね、それじゃあ左のページに見本があるのでこれを参考にしながら
ご記入願いますか?タブレット操作で解らないところがあったら仰ってくださいね」
そう言うと、店長は私を残して総務部の奥へ行ってデスクの女性に話しかけている。
見ると女性はとても嫌そうだ・・・。
(・・・・・!!)
スマホのバイブで思わず身を震わせる。
(ひゃあ!こんな時にビックリしたっ・・・弾みで少しで漏れ出たかも・・・)
ゆっくりまさぐるとギリギリセーフ、間一髪で止めた私は絶対偉い。
スマホを確認するとモエラさんがメッセージを送ってきてる。
・・・てかいつ私達プロフィール交換した?!
”目の前に多分端末あるっしょ?それ権限すげー高いからポッケのモノ挿してちょ。
自分に挿しちゃだめだよ、特に下の―――”
”下ネタ禁止”
”すまんこ”
”コラぁ!”
”おねがーい”
まったく・・・人にこんなことさせといて呆れてものが言えない。
どうしようか、挿した途端ボカァ―ン!って爆発したりしないかな。
・・・・。
・・・・・。
”早くぅ”
”・・・顔にお茶かけましょうか?”
”(TT)”
埒が明かない、ええい、ままよぉ!
サクッ!
「・・・・・・・・・・何も起こら、ない?」
挿して、ホンの少しの間を置いて再びメッセージが来る。
”グッジョブみどりっち”
「??」

その時、フロアの電気が一斉に消えた。
「!!」
職員が一斉にざわつき、たちまちパニックになった。
ええええーーーどうしよどうしよどうしよ。
一人パニクッてる最中、再びメッセージが来る。
”待ってて、すぐに電源復旧する。サーバー機が無停電電源装置に切り替わってる今が勝負”
ええぇ、もしかして、私の挿した”コレ”が原因?!
私は突然襲い来る不安と恐怖にたまらず急いでみどりっちにメッセージを出す。
”なにしたんですかッ?!”
”そこからIOT弄った~堤がやってる常套手段。無停電電源装置からアクセスして――”
そこでメッセージが途切れる。
IOT?IOTってテレビとかエアコンをネットワーク操作のアレ?
もしかして、配電盤いじったの?!
”モエラさん、私どうしたら?!”
暫くして。
”黙って、待つ”
う、ううう、この状況で?
そんなの耐えられないよぉ!
その時、天井のLEDが一斉に点灯し、コピー機などの電源が復旧してマシン音があちこちで音を上げる。
「あ、ついた。息が詰まるっ、ビックリしたぁ」
”オーケー、みどりっち、USB抜いて”
”いったい何が何だか”
”大丈夫、全部頂いた”
”何を?”



”サーバー機に繋がってるPCログ情報とか諸々全部”
うわぁ、ついに私も犯罪者の片棒担いじゃった・・・・
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