1章サイバーランナー 03

文字数 5,051文字

翌朝、県立右左(うさ)高等学校にて。
今日も私の3組は朝からお通夜ムードだ。
どいつもこいつも眠そうなやつや仲のいい奴とぼそぼそ話す奴などクラスの辛気臭さがにじみ出ている。
うん、とても良いことだ。
私はこういう暗い雰囲気が大好きなんだ。
陽キャはタヒーーーーー。
「おはよ!ノートちゃ・・・ど、どうしたの?目、真っ赤だよっ、うさぎさんみたい」
「だ、だれがうさぎだぁ~ググッ!」
ああ、今日も今日とてまたやってくるしぃ。
「目薬あるよ、目のクマは塗り薬・・・ちょっとファンデーション効果あるから先生にバレない程度にはっ」
いっつもいっつもいーーーーーっつも私の周りをちょろちょろしたりするこのお団子頭のちんまい女子は
百合園 緑(ゆりぞの みどり)。
入学式の時から何かとまとわりつくかまってチャン、いや、かまいたがりチャンか?
私は一人が好きなのに何かと世話焼いたり、行事の度にいつもくっついてくる。
友達はいらん。
特に私は訳アリで小・中学校と行ってないのだから詐称していることがバレたらたまったもんじゃない。
だからほっといて欲しいのにぃ。
「昨日寝れなかったの?実は私も・・・だって―――」
あーみどりっちの話なんてどうでもいい!!
クソッ、昨日は悔しくてろくに眠れなかった。
私の人生初の汚点。
しかもその後腹いせにやったネトゲもチーム最悪だったし。
おまけに、ほら、目の前のっ。
「いいよみどりっち、こんなの全然平気だから。ちょいヒリヒリするだけ」
「目のクマもすごいよ?いつにも増してすごい・・・」
「え・・・?ああ、まあ、その、あはは」
はあああああああ。
他に暇そうな(アンド眠そうな)やつならたくさんいるだろう?
なのに何で私にかまってくるんだ、鬱陶しいなぁもう。
こっちは疲労困憊なのに。
適当に理由を付けて追い払おうかと考えていた時丁度朝の予鈴が鳴った。
教室にいるクラスメイトが面倒そうに席に着いたりカバンから教科書をのそりのそりと出してゆく。
「よし、一限目は睡眠時無呼吸症候群しよう」
「ノートちゃん、多分今日臨時の全校集会だよ」
「は、なんで?一限目は現代語でヨユーヨユーじゃないの」
「だって、ほら昨日の・・・」
みどりっちが言い終わる前に校内放送が掛かる。
”校内放送。全校生に連絡します。今日の一限目は臨時の全校集会になりますので至急体育館に集合する様に。
3学年から委員長を先頭に順番に教室を出てください。なお、先生方は一旦職員室にお集まりください、以上放送終わり”
はぁ?!っていう声が校舎のあちこちから響き渡ってくる。
皆だるそうに席を立ったり再びふて寝を決める奴もいる。
ああそうか。
あいつかぁ。
あいつ。
くそっ、思い出しただけで腹が立つッ。
「ほら、やっぱり。ノートちゃん昨日の配信見た?次、右左高なんだよ」
「知ってるし‥・ああめんどくさいなぁもう。どうせ、授業も潰れずにほかの時間に持ってくるんだからこのまま現代語しなよ。
どうせ、生活指導のあのエロ教師の話だろっ!なんであのエロ教師が生活指導なんだよっ、別の”性”でも指導
してんじゃないのっ」
「き、今日はなんか荒れてるねぇ。昨日なんかあったの?そ、そうだ今日一緒に帰るとき新しくできたソフトクリー」
話を遮る様にクラス委員長が大声で号令を掛ける。
「じゃあみんな廊下で出席番号順に二列でならんで、休んでる人の所は詰めといてね~」
「三田さん、五十鈴(いすず)さん休み?」
「うん、休み休み。おい男子、詰めろ詰めろっ」
クラス委員長 三田 ヒカリ(さんだ ひかり)は今日も元気よね。
なんなんだあの原動力。
まさかバッテリー的な・・・。
「ノート!早く並んでっ、緑ーノートの事見張っといて。この前バックレようとしたから」
「ああ、はいはい、わかりましたよぉおおお」
「はい任されました!!」
みどりっちは私の腕を掴んで自身に押し付けた。
「みどりっち~出席番号順じゃないの?」
「ノートちゃんと私は別だよっ」
何を嬉しそうに・・・・こいつと良い三田と言い、私は陰キャなんだからほっといてよぉ!
列が整った前のクラスが進み始めたので私達のクラスも渋々体育館に向かった。

体育館。
”えー今日集まっていただいたのはね、みんなも知っての通りーーー”
鬱陶しい校長の濁声が体育館に響き渡る。
生活指導の奴じゃないだけまだましかぁ。
ダルっあーダルっ。
「ノートちゃん、担任が睨んでるよ(小声)」
「死にゃあいいんだよあんな奴(小声)」
「でもずっと下向くのはやめなよ~(小声)」
校長の話ってなんでこんなにだるいんだろう。
管理職がっ。
たいして動きもせずに高給取りやがって。
”この動画サイトで流れているものは犯罪としての側面もあり、また個人に対する攻撃性が―――”
ふん、だったらアカ(アカウント)潰せばいいだけの話。
でも運営なり行政なりがそれをしようとしないのは、サイトであり、他の人間であり、得する人間がいる何よりの証拠。
つまり、裏に汚い大人たちがいるってこと。
もちろん、こいつらだってグレーであることは間違いないんだ。
同じ穴の狢よ。
”この先、本校に関する動画が流れることがあっても、決して騒いだりSNS上で発言したりせぬよう”
早く終わんないかなぁ、今日暑いし、なんで体育館てこんなに蒸れるんだろ?
心なしか男子の鼻呼吸が荒いような気がするし。
そう思って隣のメガネの男子を見るとやたら鼻をスンスンさせて光悦な表情を浮かべていた。
うぇぇえええ、男子の比率が少ないとはいえこれはキツイわ。
帰って思い出すんじゃねーぞっ。
”続きまして、生活指導部より連絡があります”
ええっ、アイツ喋んの?!
勘弁してよ。
”ええー生徒指導部、袴田です。まあみんな、なあ?もうわかっているとは思うがお前らももう―――”
ウィィィイイイイイイイン・・・・・。
その時だ。
後ろのプロジェクター投影用の自動スクリーンが急に降下を開始し始める。
”?? 先生方?確認の方お願いできますか”
沖野が何事かときょろきょろし始めた時、体育館のLED照明が突如消灯して天井のプロジェクターが動き出す。
「おおっ?!」
「何々っ?」
「何これ、え、ヤバいって!」
やがて騒ぎ出す全校生徒。昨日の出来事もあってかボルテージは徐々に上がりだす。
これは嫌な予感がする。

ちゃーちゃーちゃちゃーちゃーちゃーちゃちゃー
放課後アウトローちゃんねる!

舞台袖のスピーカーから迫力ある曲が鳴りだし、プロジェクターが”例”のロゴを投影しだした。
「「「ウォオオオオオオオオオオ!!」」」
全校生徒のボルテージは最高潮に達した。
「ちょっと!みんな騒がないでっ!やめてっ!」
「おい騒ぐなっ!座れ!」
「先生方!放送室!放送室!本館側の!早く!」
先生方やら、やんちゃ共やら、単に騒ぎたい奴やら・・・ああ、委員長の三田さん、制止しようとして逆に飲まれてやんの。
やっぱりやりやがったアイツ。
と、いう事は・・・来るのか、ここにぃ?!

”ふらぃいいいいいんぐ、ボルトキィイイイイイイイイイイイィ!!!!”
ズガぁああああああん!

”ナイトハルト・・・・・推!参!”
”ヒヒーン!・・・・・・・・あ、今舞台に上がってるおっさん、めっちゃ"デブ專" ”

ウマが言い放つと同時にプロジェクターにはエロ教師の袴田がご指摘通りのそういう系統の店に入っている防犯カメラ映像や
店の中でふくよか(100キロ越)のおねーさんといちゃつく様子が映し出された。
「きゃぁあああああああ!!」
「変態!!」
「めっちゃおもろいっ!やばっ!」
「最高!ナイトハルト最高!」
「あはははっは!あれマジ?ヤバすぎだろ!!」
生徒達は眼前に映し出された、教師の普段は決して見ることのできない非日常を見て狂喜乱舞した。
悲鳴、冷笑、歓喜、怒号・・・。
”ひ、ひいぃいいいいい。イやぁぁぁぁっぁ!!!見るなっ!見ないでぇ!”
あーあー袴田、顔真っ赤にして号泣しながら逃げちゃったよ。
両手で顔なんか覆っちゃって、なんでそこだけ乙女なんだ。
もはや集会もなにもない。
この体育館はどうやらナイトハルトに”乗っ取られた”みたい。
今この場はカオスになった、なら話は早い。
「よし、教室行って寝なおそう」
「ノートちゃん、こ、この状況で?!こんな大変なことになってるのにっ」
私は回れ右して腕を振りかぶりながら出ようとするがみどりっちが腕を掴んで離そうとしない。
「怖いから一緒にいてっ」
「ええーどうせ私達は関係ないよ。それともーなんかあったりするの?」
私はちょっと意地悪気味にゲス顔でみどりっちに問いかける。
「あ、ああ、あああるわけないよっ。で、でもでも、ナイトハルトが来たってことは何かあるんだよっ」
「なんでそんなにどもるの・・・」
そのとき、ナイトハルトから声が発せられる。
”諸君!静粛に・・・・・・そして、傾聴するのだ”
”はいはーい、ちょーと静かにしてねー重大発表するよー”
ナイトハルトの制止に生徒たちは騒ぐのを一旦やめて皆一斉にプロジェクターに注目した。
多少の興奮は抑えられぬものの、全校生徒はナイトハルトに心を奪われていた。
”皆、昨日の配信はどうだったかな。君たちの好奇心を多少は満たすことができたと思う。
・・・・さて昨日の配信では次回は二週間という予定だったが急遽変更になった。
しかも今回はネット配信はせずにこの体育館だけの特別中継。今日は君達だけの特別サービスだ。
まあ、後日アーカイブ動画にしようとは思うがね”
「「「「ウォオオオオオオオオオオ!!!スゲー」」」」

(くそっやはり昨日の一件が絡んでいるのか?!)
私は背筋がゾッとした。
ログは残っていない、トレースもされてない、逆探もなし。
絶対に大丈夫・・・だと・・・思うけどっ・・・でもでも・・・ちょっと怖い。
”実はだ・・・私が握っている情報だけではなく・・・この学校・・・私も信じられぬ話だが
どうも右左高は野放しにすることが出来ないグレーな奴らさらに数名存在するようだ!実に嘆かわしい・・・”
数名?ということは私の一件ではない?
”影に隠れてコソコソしてるヤバい奴が何人もいるんだよね~って話”
ウマがダルそうに蹄で頬杖をつく、どんな馬だよ。
”そ・こ・で・だ! 私、ナイトハルトは今回この右左高を徹底的に洗い出す!これを聞いている全校生徒の諸君!
解っているな?君たちの協力が必要不可欠だ。どんな些細な事でもいい、見つけた情報はすぐにSNSにアップするのだ!”
っつ、そういう事か!!ナイトハルトの奴、これじゃあ周りが敵だらけになるじゃないかっ。
”ヒヒーン、あ、上げるときは シャープ右左高 忘れないでね。こういう大切なことは忘れんなよなぁ”
すると突然ナイトハルトの動きが停止する。
”ふむ・・・”
様子が変だ・・・・あっ!
私はスカートのポケットへすぐさま手を入れるとスマートデバイスのカバーについているスイッチをオンに入れた。
”・・・どうしたナイトハルト、ついにボケたか?”
”いや、別に。それらしい物は無い、か”
ポケットのデバイスの画面をチラ見する。
コンディショングリーン、侵入なし。
セキュリティ正常・GPS・WIFI切断、基地局アンテナも遮断中。
やっばぁああああああああ!
こ、こいつ配信しながら生徒の持ってる全部デバイス探知かけていきやがったなぁ!!
私のフルカスタマイズしたスマートデバイス、ウサギさん五号なら絶対に吊り上げられる。
とっさに気付いてカバーの電波遮断スイッチオンにしたからよかったけど、間に合わなかったら失禁してた・・・。
でもちょっと待って・・・電波ジャックは距離が限りなく限定される・・・それだと今近くにいるってこと?!
”それでは諸君、近いうちにまたあーー”
「クソックソッお前ら、のけっ!」
体育教師が生徒の波を押しのけて長い竿のようなものを振り回してやってきた。
”おうおう、元気がいいなココの体育教師は?そうだナイトハルト、こいつのデータも・・・”
「させるかゴラァ!!!!」
体育教師の一撃はプロジェクターのレンズに直撃し、映像は露消えた。
だが、音声は生き残っていたのかナイトハルトの声はまだ聞こえていた。
”それよりも、だ。聞いているな正義の味方気取りのうさぎさん!ここの関係者なのは間違いないはずだ。
どういうつもりか知らんが・・・儀はこちらにある。我々こそが真の正義なんだ、勘違いするな。
もしも邪魔をするようなら・・・次は・・・アディオス!!!”
言い終わると同時に音声もプツリと途切れた。

「次はアディオスってなんだよ」
私は呆れてものも言えなかった。

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