『こども雑誌』

文字数 844文字

図書館へ行って、雑誌をいろいろと借りてきました。気分が変わるかも、そう思って。

雑誌はこうして、借りるだけにしています。読み終えた雑誌の束を、家に積み置くのは大変で。処分の手間も大変で。

ぱらぱらとページをめくって、ふっと、わたしが小学生だったときのことを思い返します。

定期購読をしていた、児童向けの雑誌がありました。あるとき、雑誌の付録に、不思議な話がまとめられた小冊子が添えられていました。

その小冊子の表紙は、けばけばしい原色の色彩で、スフィンクスの写真のようなものが印刷されていました。

小冊子に載っていた不思議な話のなかで、ひとつだけ、覚えているものがあります。「あべこべ坂」。そんな題名だったと思います。

あべこべ坂。

住宅街にある、急勾配の坂道の途中で、運送トラックを駐車する。トラックが動かないように、しっかりとブレーキをかけて、タイヤに車止めも設置する。そして、配達人が荷物を届けているあいだ。トラックが、坂道を上ったところにある電柱に、正面からぶつかって停車していた。

そんな話。なんてことのない、他愛のない不思議バナシ。あべこべ坂には、アメリカのSF小説のような挿絵が入れられていたことを、かすかに覚えています。

あの頃。わたしには、仲の良い親戚の子たちがいて、夏休みや冬休みになると決まって、その親戚の家へ遊びに行っていました。自宅から出発して、ずっと歩いて、勾配の厳しい舗装路の坂を上って、ずっと歩き続けて。

そういう季節の催し。そういう(ひと)りの遠足。そして、数日間を親戚の家で過ごす。儀式みたいな決まり事。あんなに歩いて。暑いときも寒いときも。坂を上って、帰りたくても引き返さずに。

あのときは気づかなかったけれど、わたしが無事かどうか、両親が車で何度も往復しながら、歩く様子を見ていたそうです。

他愛のない話。ぱらぱらと、あの頃のことを、めくるみたいに。

居間の収納棚に、買い置きのお菓子があるので、コーヒーも()れて、一息つきます。ネコもちょこんと腰を下ろして、おやつを待っています。
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