『クリスマスブーツのお菓子詰め』

文字数 1,026文字

座敷の明かりを消して、布団に潜り込んで、ぼんやり。冬の夜は、いっそう静かで、耳鳴りも冴えて聴こえます。

毛布の暖かさと、電気敷布のゆるやかな電熱が心地よいです。ネコは、掛け布団の上で丸くなっています。

ネコの温もりと重みを感じながら、天井の暗がりを見つめて、ふっと、昔のことを思い出しました。

わたしが小さい子供のとき、保育園児の頃。クリスマスのこと。

クリスマスのプレゼントといっても、どんな物が欲しいのかもわからないくらいに幼くて、わたしに届く贈り物は、さしあたって、サンタクロースの赤い靴を(なら)った入れ物に、いろんなお菓子を詰め込んだ、クリスマスブーツでした。

クリスマスの夜が明けて、目を覚ますと、枕元に置かれている赤い靴。その年も、プレゼントを心待ちにしながら、家族の寝室で眠りにつきました。

ふっと、夜中に目が覚めました。わたしの両隣りには、父と母が静かに眠っています。とても寒い夜で、わたしは掛け布団を目元の辺りまで手繰(たぐ)り寄せました。

プレゼントのことが気に掛かって、うとうとと、仰向けで目を(つむ)ったまま、布団から手を伸ばして枕元を探ると、指先が何かに触れました。

足のような形をしていて。寒さのせいか、ひんやりとしていて。わたしは、ちゃんとプレゼントが届いていることに安心して、また眠りました。

朝になって、枕元を見ると、何も置かれていませんでした。よたよたと、起き上がって台所に行くと、母が笑顔で「メリークリスマス」。石油ストーブの熱気と、ストーブの火にかけた薬缶(やかん)の蒸気で、暖かい。

母は収納棚の戸を開けて、クリスマスブーツを取り出して、手渡してくれました。起き掛けのわたしは、赤い靴に詰め込まれたお菓子を見つめるばかりで。昨夜のことも寝惚(ねぼ)けていたみたいです。

あの台所の棚には、いつも、おやつが入っていたことを思い返します。あのときに住んでいた団地は、保育園を卒園するまえに引っ越しをしました。昔からあった団地。公営住宅。

幼い頃は、お菓子があるだけで、あんなに嬉しくなれたのに。大きくなるにつれて、いろいろな物を知るにつれて、あれもこれも欲しくなって。でも、あんなに欲しかったはずなのに、だんだんと嬉しくなくなって。なんだか、(さみ)しくなるばかりで。

掛け布団の上のネコが、寒くなったみたいで、布団の中に潜り込んできました。わたしの隣りにくっついて、身体を伸ばして、和んでいます。ネコへのプレゼントは、いつもより豪華な猫ゴハン。ゴハンで納得してくれるとよいけれど。
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