第53話 すれ違い

文字数 361文字

 女、疲れている。もう、どうでもよくなってしまったかのようだ。
 疲れてしまった。まるでそれだけが、確かのもののようなのだ。
 しかし、いったい何に疲れたというのだろう?

 あの男がいけないのだ、と女は考える。わたしに、想像力だけを、強いたのだ。
 最初の頃、「好きだ」とか、よく言葉をもらっていた。わたしはその言葉だけで、ほんとうに幸せだった。だのに、近頃は、てんでそんな言葉も、もらわなくなってしまった。
 いつ会えるとか、いつ電話で話せるとか、そんな予定さえ、もちかけられない。むなしかった。くるしかった。

 あの男は、想像力だけを強いたのだ。想像することに、わたしは疲れたのだ。女は考える、
「わたしにばかり、結論を出させようとして!」
 だが男は、ただ風邪をひいたらしい。葛根湯を飲み、寝床でうんうんうなっているだけなのだった。
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