第7話

文字数 702文字

アンブレラ、というチーム名は正式なものではない。
ひすい市が全国にほこれるものが音楽の他にもうひとつある。
サッカーだ。人口五万の小さな街から、毎年のようにプロサッカー選手が生まれるのである。
もちろんグーゼンではない。タネもシカケもある。
この街には、魔術師がいる。
少年サッカークラブ・日向(ひなた)FCは全国大会の常連で、ひすい市内外から「足に覚えのある」サッカー小僧たちがこぞって入団を希望する。魔法使いの弟子にあこがれる。
だが、魔術師一人で見られる子どもの数には限りがある。
日向FCの定員は二十人。そこからあぶれた選手やまだ体のできてない下級生などが所属するチームがある。いわゆる二軍とかBチームとか呼ばれるやつだ。
ふだんは日向FCの試合をスタンドでメガホンをはたきながら応援する。メンバー入りして試合に出られるのは日向FCがもっと大きな大会と重なって出られない、小さい大会だけ。大活躍すれば昇格できるチャンスだと死に物狂いでやるが、魔術師が直接試合を見るわけではないのでなかなかむずかしい。だから自分の才能に見切りをつけて他のチームに移籍する者やサッカーそのものをやめてしまう者が後をたたず、卒団までとどまり続ける選手はほとんどいない。
だからこのチームは雨傘、アンブレラと呼ばれるようになったという。
いつ降るかわからない雨にそなえて玄関のすみっこに折りたたまれている傘と、いつ来るかわからない出番にそなえてグラウンドのすみっとこで練習する彼ら。どこか似ていなくもない。
そのせいなのか、彼らのユニフォームはこれからまもなく雨粒がこぼれ落ちる空のような、暗く、重く、深い青をしている。
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