第20話

文字数 863文字

「SO、オレのほっぺ、つねって」
レオがそう言ってつき出した顔を、SOがつまんで、ねじり上げる。
「痛いわ!」
夢ではない。
2-1。リードして折り返すなんて初めてだった。
「勝ってんのはぼくらじゃない、こいつだ」
鉄が耳をおさえたままの背番号7を、引きずるようにしてもどってくる。
みどりはペットボトルの水をひったくり、半分を飲み、もう半分を頭からかぶる。頭にタオルを乗せ、こかげに寝そべった。
「まるでケダモノね」
相手キーパーからボールをかっさらい、味方のシュートミスを絶妙なラストパスに変えてしまう。
他は何もできない。ただシュートだけ決める。
「あんなん、まぐれやろ」
「……シュートはまぐれ。でも、シュートできるところにいるのは、まぐれじゃない」
シュートを止めるのが仕事のレオと、シュートを打たせないのが仕事のSOの意見が食い違う。
「竜巻みたいな子ね」
コーチがみどりの背中をトントンとたたきながら言う。周りを次々とまきこみ、なぎ倒しながらゴールにぶちこむ。空気を読むとかは一切しない、超常現象のようなプレーぶりだった。
「でも、向こうには台風がいてよ」
両チームのベンチの選手がピッチで体を動かしている。
他のチームメートがトリカゴ、中の鬼に取られないようボール回しをしている輪から外れて、一人だけリフティングをしている少女がいる。
右足を左足を交互に上げ、音もなくボールを止めて、蹴る。足の内側、外側、つま先と当てる場所を変えても上げるボールの高さは変わらない。
やがてひざでもリフティングを始める。ももを高く上げ、つるつるの頭の高さまで上げたかと思うとその下をぐぐり、おでこに乗せた。
まるで曲芸を見ているかのような美しい動きを、落ち着きを取りもどしたみどりが穴が空くほど見つめて、いや、にらみつけている。
鉄、SO、レオがそれを複雑そうな面持ちで見つめていた。
「あをい、しまいじゃ」
監督にそう言われた少女がジャージをぬぐ。背番号は7番。この暑さでも長そでの細い二の腕に、スカイブルーのキャプテンマークをまきつけた。
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