第19話

文字数 572文字

キキーッ、というブレーキ音に、みどりが耳をふさいだ。
青をベースにしたマウンテンバイクが、ピッチのわきに止められていた。
長身の細身にまとったカナリアイエローのジャージは日向FCのもの。ベージュの中折れ帽子をかぶった頭には髪の毛がない。肌は青い血管がすけて見えるほど白い。眉墨で描いた切れ長のブラウンの瞳、真っ赤なルージュが真一文字にひかれた口。
そして、柱が出て下を向いた鼻。
「遅刻じゃの」
「病院」
そう言って薬でパンパンになった白いビニール袋を小津監督に見せびらかす。孫ほど年のはなれた子どもの、ひどくなれなれしい態度を、魔術師はまったく気にしていない。
「スコアは?」
「1点負けちょる」
「だれに取られたの? 鉄? SO?」
「あの子じゃ」
小津があごで指し示した先に、両手で耳をかくしたみどりがいる。ブレーキの音がよほど不快だったのか、わーっと悲鳴を上げながら何度も頭を横にふっている。
「どんな選手?」
「まるでサッカーはせん。じゃが、点だけは取りよる」
「うちも出る」
「アップくらいせえ」
「自転車こいできたからだいじょうぶ」
「まだ20分しかプレーできんのじゃろ。もう前半が終わる。後半頭からいくけえの」
ジャージを脱ぎ、帽子を取る。
そりあげたように青々とした頭が現れた。
短く、短く、長く。
ハーフタイムを告げる笛がピッチにひびきわたった。
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