第13話

文字数 793文字

大きく空に上がったボールに、レオが首をかしげた。
そんなにむずかしいパスを出したつもりはなかった。 ゴールを背に向けて、フリーだったみどりが前線にいた。とりあえず回りが上がる時間をかせいでもらおうと、真っ赤なスパイクめごけて低いパスを出しただけだ。ねじれた回転をかけたつもりもないし、コントロールも悪くなかった。
ワンバウンドしたところを、足の裏で踏みつけるなりしておさめればいいだけのボール。それをみどりはつま先にひっかけて空高く上げてしまった。ポストプレーは期待できないらしい。
ならば、と。
今度はSOが日向FCの背後に、速くて強いロングパスを送った。通れば1点もののチャンスになるボールを必死に追いかけるみどり。だが自分より後ろにいた相手ディフェンダーにあっさり追いつかれてしまう。ドタドタとした、見るからに鈍足そうな走り方にSO6はめまいをおぼえた。
しかたなく、ドリブルでサイドに開く鉄。ゴール前に高いクロスが上がる。空中戦だ。ユニフォームをはためかせ、飛び上がるみどり。上体をしならせ、ヘディングをねらう。
長い前髪がうなりをあげる。ぶおん、と音がした。見事なまでの空振り。みどりのはるか頭上を通過したボールは飛び出したキーパーにあっさりとキャッチされてしまう。鉄は頭をかかえた。
こいつは、下手くそだ。
走らない守らない、うまさも速さも高さも強さもない。
何のとりえもない、まったくのど素人だ。
「どこがチャンスの女神やねん」
どうやらコーチのハッタリだったようだ。
日向FCのキーパーが、キャッチしたボールを足元に落とす。6秒以上ボールを手にしていると時間かせぎとみなされファウルを取られることがある。だから足でキープして、味方の上がりをうながす。
そこまでは、どこにでもある光景だった。
「さぁ、魔法の始まりだ」
コーチがあごをさすりながら、世にも不気味な声で笑った。
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