第11話

文字数 702文字

クロスバーを直撃ボールがそのままピッチの外に出たので、日向FCのゴールキックで再開する。ゴール前に二重の白い四角のうち小さいほう、ゴールエリアからのフリーキックだ。昔ならキーパーが相手陣内めがけて大きく蹴り出すのが常識だったが、最近は短くつないでゲームを組み立てるチームが増えた。日向FCも二人のディフェンダーが左右に開き、中盤からも一人下がってきて、パスコースを三つ作る。もしここでボールをうばえれば大チャンスになるので、守備側は前線の選手がボールを追い回すもの、なのだが。
「行けよ、行けって!」
なのに、てくてく歩いているだけのみどり。鉄がいくらほえても見向きもしない。
「ムダよ」
ゲラゲラとコーチが笑う。
「そいつが興味あるのはゴールだけだ。チームのために走ったり守ったりしたら、いざって時に全力を出せないだろ?」
「ムチャクチャや」
頭をかかえるレオ。アフロヘアがしぼんだ。
「……ストライカーは、エゴイスト(自分の利益だけを考える人)。自分がノーゴールで勝つより、自分がゴールして負けたほうがうれしい生き物」
SOだけが納得する。
「サッカーってのはね、点を取れるやつが一番えらいの。だからフォワードの選手が一番給料が高い。ゴールを守るのも、パスをつなぐのも、ドリブルでボールをはこぶのも、全てはシュートを打つためよ。おわかり?」
そう言っている間にも、黄色のユニフォームが短いパスを正確に回してゆく。時に速く、時にゆっくり。右へ左へ、前にうしろにななめに。そうすることでアンブレラの陣形にほころびを作ろうとするのがねらいだ。
「回されるな、回りこめ!」
コーチのカン高い声が、セミの鳴き声を切りさいた。
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