三 復讐

文字数 561文字

モキュモキュ
うさぎの奥歯や前歯の使い分けを
誰が教えてくれたのだろう。
水気のない草が咥内で唾液と混ざり、
僕の一部へ消化されていく。

白い檻の中からは、ぼんやりとヒトガタが見える。
このまま、時間に任せていれば、
僕の意識はきっと薄れていく。
オガクズの中で眠り、草を食み、
コンセントを齧る。
彼女は飽きるまで僕を愛撫してくれる。
それはずっと幸せなことなのではないだろうか。

「シロ、お散歩しようね。」
艶やかな爪が檻の扉にかかる。
手放そうとした意識が一気に舞い戻ってくる。
僕は彼女の元へ駆け出す。
彼女の腕をすり抜け、扉の底へ転落する。

部屋の奥から、嘲笑する声が響く
「あれ、どんくさいなあ。そのうさぎ。」
懐かしく、忌々しい声だった。
最期の景色が再生される。
僕の背中を、最期に押した、低い男の声。

スワロフスキーを散りばめたビル街。
明るい闇に向かって急速に落下する身体。
遠くにオレンジ色のテレビ塔。
眼前に広がる、シャンパンみたいな街路樹。

新鮮な憎しみが溢れてくる。
ふわりと、胃が裏返る心地がした。
「あら、草を吐いちゃった。食べ過ぎたのかな。」
彼女の手が僕の頭に触れる。
優しい愛撫は、背中を押してくれるようだった。
僕は、復讐のために、小さな後ろ足を蹴りあげた。

「うわ、なんだこいつ。」
ゲロで汚れた前歯が皮膚を突き破る前に、
僕は床に叩きつけられた。
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