四 ゴースト

文字数 490文字

幽霊に足がないのは、
単なる記号だと思っていた。
そうか、
肉体のイメージは、足から消失していくのか。

肉体が地面に衝突する衝撃も、
身体が破裂した血飛沫も認識しないまま、
僕はビルの隙間にいる。
青いゴミバケツ、飲みかけの紅茶のペットボトル、潰れたチューハイの缶。
2つの建物の隙間から、大きな道路を行き交うタクシーが見える。
その先にはまた路地があり、そこはピンク色や水色のネオンが煌めいている。

半透明で残った僕の肉体は、
ピアスの穴よりも、傷を隠していた手首よりも
ずっと早く足先から消え始めた。
お気に入りのブーツの先は、黒々と光るアスファルトに溶けていく。

あの瞬間から、ずっと死神も天使も来なかった。
無視されているのかもしれない。

なぜこうなったのか、わかっている。
終わらせるつもりだった。
終わらせることで、
彼女が泣いてくれるなら、
一生覚えていてくれるなら、
間違いだったとは思わない。
だけど、今となっては、彼女の泣き顔を拝む術がわからない。

彼女が僕のために泣いてくれるなら。
その姿を見れるなら。
ここに永遠に縛られていても構わない。
でも、このまま消えるくらいなら、

アイツを殺して死ねばよかったのに。
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