一 うさぎ

文字数 445文字

ふわふわの白い毛皮が身を包んでいる。
意思に反して鼻がひくひく動くのがわかる。

どうやら、僕は狙い通りウサギに転生したらしい。
それも、白い檻に囲われた、自ら生きる努力をしなくても済むウサギに。

「可愛い。この子がいい。」
友人と来たであろう女性の声が響く。何から何まで狙い通り。僕は店員に段ボール箱に閉じ込められ、女性の手に抱かれた。細い指に、銀色の指輪が見える。僕は僕がこうなった所以を思い出す。

「可愛い子見つかってよかったね。もう、いろいろ忘れて、ユウジさんとこの子で幸せに過ごせるね。」
友人の声が狭い箱に響く。これも僕が知っている声。僕は早くこの指に抱かれたい。
段ボール越しに響く鼓動を懐かしく聞く。

そう。あの朝も貴女の胸で眠っていた。
携帯なんて見なければよかったんだ。

ユウジという名前の男の顔を見ることもなく、僕は貴女の部屋を出た足で、高い高いビルの屋上に向かった。

罪悪感はあった?寂しかった?
僕の方が寂しかったんだ。
だから、今度は大切にしてほしい。
二度も貴女に罪悪感を与えたくはないから。
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