六 生業

文字数 565文字

「ごめんね。」
愛してしまったから、私は相手を食べてしまうしかない。
「お疲れ様でした。今回も狙い通りのお相手を殺して頂いて。」
スーツの男が手慣れた手付きで血溜まりを片付けていく。亡骸の処理は重労働なのだろう。額には汗が浮かんでいる。
「依頼人も、感謝していると思います。」
「次を用意してくれると言ったのに。」
私は恨めしく睨む。いつだって私は失恋する。愛した者を喪う。少々のお金だけでは、そろそろ割に合わない。
「素人考えで迂闊に提案してしまって申し訳なかったです。ちょうど依頼がなかったもので。」
スーツの男は言葉少なに話を切る。
「うさぎも洗いましょうか。」
私の手の中で脈動している毛玉を指差した。
言われてみれば、真っ白な毛皮は、
大量の血液を浴びて斑に赤く染まっている。

「ああ、私洗うからいい。」
私は洗面所に行くと、ぬるま湯を出して、
固まった血を拭いながら洗う。
うさぎは、暴れもせず、微かに振動している。

「そういえばですが、なぜ彼は食べなかったんですか?」
「彼って?」
「ピアスが多かった大人しそうな子がいましたよね。1人で死んでくれたので、依頼としては問題なかったのですが。」
「さあ、まだ愛だと恋だの言うような関係じゃなかったんだよね。」
向こうはどう思っていたか知らないけど。
私はヒクヒクと震えるうさぎの耳を
ふわふわのタオルで撫で付けた。
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