五 スイートラブ

文字数 349文字

皮膚の感触が牙に当たる瞬間、
僕は抱き締められていた。

「お転婆だな。」
余裕のある笑みを浮かべて、
アイツは僕を抱えている。
僕は思い切り自分の歯を噛み締めた。

「噛まれた?」
彼女は心配そうに言った。
そんな悲しそうな声、
僕に対して出したことがあっただろうか。

「大丈夫。震えてるよ、この子。」
アイツは僕をそっと彼女に渡した。
僕は彼女の柔らかな胸に顔を埋めて泣いた。
彼女の手がふわふわと頭を撫でる。
「優しいんだね。」
アイツが近寄ってきて、僕を挟んで彼女を抱き締めた。

瞬間、生暖かい液体が降り注いできて、
目を閉じた。
どさりと、落ちる音がした。

恐る恐る目を開けると、
一面の赤。
真っ赤な液体に塗れて、アイツが倒れている。
皮膚が破れた首筋から、ブクブクと血液が泡立っている。
「ごめんね。」
彼女の声が響く、僕は顔を上げた。
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