第11話

文字数 2,732文字

願い祈った明日が泥中に沈む
明滅し交差する感情線の先は、まだ繋がらぬまま..
その行き先を探し片翼の紙飛行機は空をさまよう。






THE LAST STORY>Four-leaf clover<



第五話 流星


ーー存在証明書ーー


俺は壁の木目を見つめ彼女達に背を向けたまま座っていた

余計な真似をしてくれたと俺は思った
親切心のつもりかも知れないけれど

俺にとっては迷惑以外の何物でもない

何故、こんな形で出逢ってしまわなければならなかったのだろう

会いたいと焦がれた相手が自身の背中の向こうにいる
その二人も困っているだろう


背に感じる視線...何かを相談してるような声

その声を"よく知る"自分

隠しだてしようのない事実が在って

そのモノ自体が "俺が俺として生きた証" の一部


あの日、あの場所で..実際に出逢って...そして...


自分の無力さを知った。


『水澤さん、良かったら珈琲でもいかがですか?』

柔らかく優しい声とは逆で少し不安そうな顔を赤坂さんはしながらも笑顔を向けてくれる

声も顔も良くしる相手

『また雪になるかも..』

窓の向こうの空を見上げ言う

その声も聞き覚えのある声


『あ!そうだ!これ返さなきゃ!』


『自分で書いた返事を自分で持ってたって仕方ないし、これは水澤さんへ宛てたモノだし』

そう言って、上部の蓋が透明になっている木箱を二人は俺の前に差し出す

『すみません、西野さんに「とりあえず預かってて」と言われてて...』

『これはお返ししますね!』
そうにこやかに答え

俺の目の前に、2つの箱が置かれた

ひとつは赤坂さんからのモノ、そして、もう一つは森下さんからのモノ


それは俺という人間が存在している証明書


存在せぬ者には証明するモノなど在りようがない

その2つを胸に抱いた時

自分の意思とは関係なく涙が零れた...

それを悟られぬように俺は立ち上がり自分のリュックに、その2つを仕舞い

ありがとう。

ただ一言、呟くように礼を言った。

『こちらこそ、そんな風に大切にしていただいてて、嬉しいです。ね!まりあちゃん』

『うん。とっても有り難いです。ありがとうございます。』


きっと二人は華のような笑顔でそう言ってたのかも知れない

だけれど俺は二人の顔を見ることが出来なかった
ただ黙って二人に背を向けたまま

二人のその言葉に俺は泣いていた。


ーー月島 零ーー

【同時刻の違う場所】
参謀次官補の月島零中佐は第15中隊が駐留する場所に居た
そこは軍営官舎というより、いわゆる地域の市民センターと運動等の出来る会館を併設されているような施設だった

月島は其処の名目上の司令官という位置にあるが実質的な司令官は月島の居る場所から更に南に居る
岡村田作戦部長であった

月島は西野詩音秘書官同様に参謀部に所属する人物で
岡村田は参謀部の下部組織の作戦部に所属してる人物だ

下部組織の作戦部長が上部組織の参謀部の次官補に対し命令を出すという
捻れ現象が起きている

何故、そうなってしまっているのかは
北韓との大邱攻防戦の折りに当時の参謀総長佐藤優季中将の戦死に伴い
参謀部の混乱に乗じて岡村田が作戦部という名の部門を立ち上げ
参謀部を牛耳ろうと画策したことが発端となり
参謀部、作戦部という2つの司令部門が誕生し
対北韓上陸戦及び防衛戦の実質的な指揮を作戦部主導で行われている


現、参謀総長の山口中将は米国に支援を求める為に渡米中

実質的な参謀部の司令は参謀総長第1秘書官の西野詩音秘書官と月島零次官補が執る形になっているが形骸化しつつある

月島は大邱から釜山への撤退の時に西野秘書官を庇い
左腕を失うという怪我を負っている

脊振山陣地での対北戦にて、西野秘書官は第15中隊長の梶原中尉に月島次官補を連れ撤退を命じ
自身は最後まで陣中に留まり15中隊以下、各隊の撤退の時間稼ぎを菅野中隊と共に行った
その結果、西野は山中での赤坂や水澤らとの出逢いに繋がって行く

お飾りの司令官に何の意味があるだろう
実質的な指揮を下部組織に牛耳られた状況下
月島は窓の外に舞う雪を眺めながら西野の帰還を待ち続けていた。



ーー流星ーー

よく降るわね、まったく寒いったらありゃしない

にしても、よくやるわ
あの二人


カツンコツンガツン!と何かがぶつかり合う音

ここ数日、この音を聞かない日はない程に続いている


その程度?私はまだまだやれるわよ!

ガツン!

振り下ろされた木刀を自身の頭上ギリギリで受け止める

どうしたの?ひょっとして怖いわけ?

んなことねぇだろうが!

木刀を振り払い

ガツン!ガツン!と互いの木刀のぶつかり合う音


てゆーかさ、だいぶ強くなってるよね

あの詩音を相手に頑張ってると思うわよ


水澤は雪の舞う中
息を白く染めながら剣術という名の鍛練を西野詩音から受けている

私は貴方が自身を..
そして少なからず自身以外を少しは...
守れるぐらいにはなってくれたら..
それで良いのよ!

ビューンと空間を切る音とぶつかり合うガツンという音

今日はこのぐらいにしておきましょう

まだまだやれる

ダメよ

あそこで怖い顔した医者が、こっち睨んでるから


睨んでるって失礼な

「ただ、やり過ぎて水澤くんの怪我が悪化したら..ね?希望」

「加減し損なったら、私が詩音を叩きのめすかも知れないわよ」

「この不良軍医」

「うるさい不良秘書官」

そう言いあい

西野詩音、稲葉華凛、三崎希望は互い笑い

三崎軍医は自身が羽織っていたダウンを水澤に羽織らせる

「頑張り過ぎも良くないわよ、それに、詩音は加減を知らないから気をつけないとね」

「はあ?加減を知らないのは希望のほうでしょ?」

「互いに説得力のない主張が始まりましたよっと」

稲葉華凛はそう言って

バンガローの中に入りなさいというジェスチャーをする

それに促されるように二人は中へ入って行く

「水澤くんは温かいココア飲んでから戻りなさい」

ささ、早くと言った感じで稲葉華凛は手招きする

ココアをご馳走になるつもりがクッキーだのなんだのと出てくる

どうやら、稲葉華凛が手作りしたモノらしい

こんな時でしょう?時には贅沢しなくちゃね


あの子達にも分けてあげてね



バンガローを後にする頃には、雪は止み
澄んて冷えた空気が喉を刺す


ふと見上げた空に自分の吐く白い吐息の向こうに



一筋の光りか流れ堕ちてゆく




THE LAST STORY>Four-leaf clover<

第六話 Blood snow へ

つづく。


※この物語はフィクションです。登場する人物、団体は実際の人物、団体とは何ら関係ありません


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登場人物紹介

赤坂安莉

森下まりあ

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