第4話

文字数 2,923文字



THE LAST STORY>Four-leaf clover<

第二話 Metamorphosis



【事態ここに極まれり、退くも亡国、進むも亡国の始まりなり
これよりかかる苦難とを鑑み
半島への第二兵力投入を本国防衛にまわし
国軍の練度養成に力を注ぐべし】

 ̄統合幕僚長 大田原 康貴_






ここに本国家は、太平洋以来の危機に立ち向かうべき
体制を整え始めた

しかし、所詮は対岸の火事の例えのように、本国に暮らす国民の大部分が、北軍が本国に侵攻するなど考えもせず
日々、安穏と暮らし続けようとしていた

だが、想定以上のスピードで侵攻を開始されるに至った。


ーー県中央部ーー

四方を山に囲まれて自然だけが売りとも言える地方

山々が色付き始める頃

彼は自身と自身の家族に旅券を取り国より脱出させることを考えた
敵の手の及ばない遠くへ逃げる


差し当たり自身の出来ることを彼は始めた


その彼の名は水澤賢一郎


水澤は、家族旅行を口実に旅券を取らせ
釜山陥落からひと月以内に
なんとか家族を国より脱出させようと試み

機内搭乗チェックイン前に前にトイレに行きたくなり
このことが儚からず自身の運命を変えて行く

家族が搭乗開始している頃


「どうしてですか?これ正規の旅券なんですよ?」

すみません、ちょっと色々とトラブルがありまして
ご搭乗出来るのは後二名様のみなんです

申し訳なさそうにグラウンドスタッフが答える

小さなクマのぬいぐるみを握って母親の側に立つ少女はとても不安げな表情で父親の顔を見る

なんとか乗せて欲しいと懇願する夫婦
けれども、スタッフは同じ説明を繰り返すだけだ

『あの..行き先は?』

水澤は夫婦に声をかける

「サンフランシスコです」

『行き先は同じですね...そしたら、コレをどうぞ』

「え?」

「良いのですか?」

『子には親が必要です、それに " こんな時 "なら尚更です。
遠慮なさらずに受け取ってください。』

「....すみません。ありがとうございます。」

お客様?本当によろしいのですか?
次はいつになるか?わからないのですが...

水澤はスタッフの問いに答えることなく、夫婦に連れられ嬉しそうな少女の姿を見送って

心の中ではスタッフの問いに答えていた

そんなモン、あんたが一番わかってんだろ?
政治屋の政治特権で椅子をあの親子から奪ったってことぐらい


水澤は空港を後にして、自宅へ戻った。



ーー予期せぬ出逢いーー


黎明の空の下、九州北部に上陸した北軍は進撃を開始

上陸地点に配置されていたはずの軍部隊は命令を無視し陣地放棄して脊振山方面へ撤退

未だ完了してない民間人の南下

軍も民間人も混乱と狂気に包まれ統制不能状態に陥った。



水澤は多数の民間人と共に地元の元自衛官による自警団の庇護下にあった

十数人の自警団と数百人の民間人
どうみても、防衛兵力が足らない
九州北部の山間部に、一旦
身を隠し
自警団の人達は、何やら相談をしている様子
微かにしか聞こえないが、どうもろくでもない企みの相談のようだった。



一夜明け・・・







二名の自警団を残し他の人間は消えた。

十数人いた自警団が二名になったことに民間人達は不満をあらわにした

「他の奴らは何処に行ったんだよ!」

「たった二人で、俺達を守れんのかよ!」

「なんとか言えや!コラー!」

等々、罵声と怒号が飛び交う

その様子を眺めながら水澤は思っていた

『馬鹿じゃねぇのか?最初から守られる前提でついて来てたのかよ?』

あまりの馬鹿馬鹿しさに、水澤は思わず笑いそうになった。

こんなんだから、人間なんざ信用ならねぇんだ
馬鹿馬鹿しくて、やってらんねーよ?
"信じてください"は"今から裏切るよ"って言う合図

信じることを教えてくれた人は、もう居ない
ソイツも裏切ったからな。



残された自警団の1人が説明を始める
他の人達は、先に行って軍に庇護を求めるとのことです
なので、皆様の安全は我々が確保しつつ
軍の協力が得れるまで、護衛いたします

よく出来た言い訳だった
気持ち悪いくらいによく出来てる
まともな言い分だが、所詮は嘘だろ?
ただでさえ、敵軍の進撃速度は予想してたより早い
体の良い厄介払いに過ぎねぇよな?
女子供、年寄りに柄の悪い連中ばっかりだ
嫌になるのもわからねぇわけじゃねぇよ...。


「だったら、さっさと軍に助けてもらえや!
こんな山奥に隠れてても、仕方ねぇだろうが!」

あっちこっちで不満という名の悪意の攻撃が続く
自警団の人間も、返す言葉すら言えずうつむいたままだ

自警団の二人では、頼りないことは事実だが
武器を持たない民間人ばかり

自警団とはいえ
携行武器は警棒と六発式のリボルバーとサバイバルナイフという
なんとも言えない粗末な装備のみ

出来る限り敵に見つからずに軍の庇護下に入る必要があった。


「し~っ!静かに」

突然、真剣な眼差しになり
乱立する木々の向こうを指差す

「誰か襲われてる!」

「何処だ!」

乱立する木々の奥上方右側を指差し

「男5人に女が2人」

そう言って走りだす

「女?っておい!
お前らは此処に待機だ!」

そう指示して自警団二名は走りだす
それを追うように水澤と数人の人間が走りだす









「はぁはぁはぁ、あんまり手間かけさすなや!」

「大人しくしてりゃすぐに済むって言ってんだろ!」

屈強な体格の日本兵達が、小柄な女性を取り囲み
厭らしい笑みを浮かべながら言う

「や・・・やめてください・・・」

今にも泣き出しそうな
か細い声で、女性は抵抗している


『誰か助けて!!』

誰か誰か誰か誰か誰か誰か

お願い....

声の主の女性の方に視線をうつす
『何故こんなとこに・・・』

水澤は思ったが、今は"そんなモン気にしてる場合じゃない"

走り込んだ勢いに任せて女性に覆い被さる男を蹴り飛ばす


バキィッ!

「ぐぇっ」


「ぎゃっ」

男が彼女から離れ横に倒れこむ


誰かが叫んだ「情けない真似してんじゃねぇ~よ!」

水澤は一瞬彼女の方に顔を向けた後

仲間の兵隊を蹴られ怒る兵士に向かって行った

現役で屈強な兵隊達に比べて退役自衛官や水澤ら民間人では力の差が有りすぎた

「があぁあぁ!いてぇ~!

あびゃどりゃあ・・・」

「もうかんぶんしてく・・・」


そこらかしこで悲鳴と懇願の涙声が上がる



まさか・・・こんな所で出逢うなんて?未だ九州に居るってことは、結局・・・間に合わなかったのか・・・

今、此処で負けたら..きっと...

自身の身体が悲鳴をあげていることを無視しながら立ち向かう


そんな気力も力も尽きた


ごめんね...助けてやれなくて...


仰向けにされ見た空は..何故だろう...こんなにも綺麗だと感じてしまったのは


激しい激痛が腹部を襲う


痛みが声になって..そして消える


薄れゆく意識の中で...見たあなたは泣いてた


己の弱さが頬を伝う


景色が歪み..音がなくなる..感触が消え..やがては...温もりさえ消える....
死ぬ時はこんな感じなんだろうと思った...


ガウン!


銃声が鳴って、そして誰かが争う音と声がしたような気がした...




俺の瞳には何も映らない.耳さえ聞こえてない...と思ったけれど...

だけれど何故だろう...『どうか神様...彼に慈悲を..』聞き覚えのある綺麗な優しい声が聞こえた気がした。


THE LAST STORY>Four-leaf clover<

第三話 Moon crisis へ

ーーつづくーー




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

赤坂安莉

森下まりあ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み