第9話

文字数 4,579文字

俺を憎む人も、優しくしてくれた人も、全て時の流れの中に消えていった。果てることの無い時の流れの中で、俺1人

怒り 憎しみ 哀しみ

そして、喜び

人は、それを感情と呼ぶ
例え命があろうとも、感情という名の原動力がなければ【ただの廃人】
人を人たらしめる一因として感情は必要不可欠なのではないかと思う

感情は人が人である証

『感情とは、心だ。』


人の心は...夜の闇のように見えぬモノ。


THE LAST STORY>Four-leaf clover<


第四話 Invisible Things


ーー 葛 藤ーー

薬品の匂いのこもるバンガロー内で横になりながら

誰かが誰かの生きてる理由になれるってさ凄いことだと思う
俺は誰かの生きてる理由にはなれないけどさ

だけど、それを言われたり思われたりする方は
たぶんきっと重荷でしかないとも思う

俺はちゃんと、その人に『さようなら』と言えるかなぁ...。

そんな風に考えている目線の先、壁一枚隔てた向こう側で、あの子達の声がする

稲葉軍医と何かを話しているようだ

たぶん【面会謝絶】の話だろう

それは俺自身が望み、そうしてもらっている
あの子らには申し訳ないとは思う

だけれど【俺の心配はして欲しくない】し、平和な時ならともかく
こんな時代だからこそ【自分自身のことを考えて欲しい】
軍の保護下にあるとはいっても、決して安全な場所ではない

まあ、そんなモン綺麗事で

本当は、こんな情けない様を晒したくないのと、この先、自分が生きてられる保証も確証もない

あの日、不様にも倒れた自身の弱さ
自分自身さえ守れない者が、自分以外の誰かを守ることなど出来るわけがない

今の俺が欲しているのは..守れるだけの強さだ

人は守るモノを持つことで強くなりもするけれど、逆もある
失いたくないが為に弱くもなる

それが今の俺の中の葛藤だ

『一応、断っといたわよ』

稲葉軍医が話しかけてくる

『そんなに自分が恥ずかしい?詩音も言ってたじゃない
決して自分を婢下しちゃダメって、貴方が頑張ったから今が在るのよ
顔の腫れも引いたし、痣も薄くなって来てるんだから
そろそろ、此処は開けて貰わないといけないんだけど』

ベッドを指差して言い

『肋骨の方の怪我もあるけれど、数日に一度ここに来てくれたら大丈夫だし
いつまでも逃げ隠れしてる方が
よっぽど不様でみっともないわよ』





ーー西野詩音ーー

ふわりふわりと雪が舞い降りはじめた

『冷えると思ったら、降って来たわね...。』

詩音はバンガローの外を眺めながら
あの日のことを思い出していた。


202×年 東京


忌々しい、この戦争の足音がヒタヒタと忍び寄る頃

私は霞ヶ関 参謀本部内にて当時 参謀次官だった山口次官の執務室に居た



『先の大戦(第二次世界大戦のこと)以降、専守防衛が我が国の国是であるが...』

『ですから敵がやるというなら迎え撃つのみです!』

『西野秘書官、世間は戦争する意思も意識も抱いておらん
それは我々も同じであろう』

『わかっております。ですが、情報部や我々参謀部独自の情報を総合的に判断するなら、北韓は必ず...』

『半島制圧し海峡を越え事を起こすか...』

『はい。残念ながら戦争になるでしょう
ですから、大邱を南韓から借りる必要があります』

『佐藤参謀総長も同意見であるか?』

『総長閣下も同じ考えです』

『そうか...』


窓が白く曇る

私も閣下も、そして...この後に出会う
あの彼も彼女らも誰ひとりとして予想し得ない悲劇の始まりが近づいていた。


北韓軍は京城(ソウル)を瞬く間に制圧し南進作戦を展開

在南韓邦人の救出の隙すら与えられぬまま各地各方面で敗退を続けた。


そして、北韓の宣戦布告もないまま名古屋は核の炎に包まれた

これを受けて政府は半島派遣群を再編し(この時点では国軍ではない為、便宜上"群"の字が使用される)

日韓相互協力協定に基づき
九州第四師団の中から大宰府駐屯地に指令部を置く
半島派遣群先遣隊、約5000名を佐藤参謀総長閣下を総司令として派遣を決定した
南韓の大邱(テグ)に派遣する命令が下る。

それは、私からしたら
あまりにも遅すぎた決定でもあった。


私は佐藤総長閣下の第1秘書官として閣下と共に半島へ渡った。

釜山の混乱を見て
半島派遣軍先遣隊別動隊指揮官
影平陸佐は、直接の釜山への上陸を諦め
更に北のポハンという港町に上陸先を変えたが・・・

ポハンは現在は北の支配下にあり
敵陣強襲上陸を憂慮した中央指令部(霞ヶ関)の命令により
当初予定通りに釜山上陸を開始

この先遣隊上陸が予定より遅れたことが後に禍根を残すことになる


派遣軍先遣隊は予定より遅れて釜山に上陸
南韓軍の機械化混成旅団を率いる
ユ・ソンジェ少将と共に一路
大邱を目指す途中に大邱陥落の報告を受けはしたが

奪還を目指し大邱の手前5キロ地点に進出
北韓軍、チョ・ソンミン軍
キム・ユシン軍
合わせて20000名と戦闘状態に入る

序盤は数にまさる日韓軍が戦いを優勢に進め
大邱市街地まで迫ったのだが
二重三重に張り巡らされた
トラップと航空機による支援を充分に得れず
さらには先遣隊の一翼を担う小隊長の稚拙な判断による突撃等々の不幸が重なり
また、さらには南韓軍の士気の低さから離脱者や投降兵をだし
僅か五時間で、先遣隊は壊滅的打撃を受け
遂に釜山へと撤退することになった。
生きて釜山に到着したのは
僅か200名前後
その中に佐藤総長閣下の姿はなかった。


佐藤総長閣下は私に後事の事をお託しになられ
次期参謀総長は【山口参謀次官】を指名する書簡を残されて戦死された。





大宰府師団司令部にて山口陸将は参謀総長に就任。

山口総長閣下は半島へ再びの兵員派遣は困難と判断され
私を含む生き残りを救出に尽力し私を第1秘書官として留任を下令

第1空挺師団を釜山へ
先遣隊を務め傷ついた影平大隊に代わり
森岡大隊と梶原、片桐、菅野、池内
五個中隊を合流させ大隊規模に拡張
この隊の指揮官には石動 功陸佐を指名し再派遣を決定を当時の統合幕僚長の大田原陸将に求め

幕僚長を介して防衛大臣と、一応の国軍司令官にあたる総理大臣に許可を得て
再派遣は決定された。

そして、自衛隊は超法規的特別措置法により国軍となった。


その国軍に国民を守る力があるか、戦争を戦い抜き勝つことが出来るのか?

今それが試されている。


ーーInvisible Thingsーー

半強制的に医療用バンガローから追い出され
あの子達が暮らすバンガローに移動することになった

俺は別な場所にしろと西野詩音に言ったが彼女は『良い歳した大人が我が儘を言わないの
それに、バンガロー数も限られてるのよ
貴方達、民間人の為に、この寒空の下でテント暮らしをしてる兵員も居るんだから
暖かいバンガローの中に居られるだけでも幸せだと思ってくれないと』

だからといって..同じバンガローじゃなくても..

『恥ずかしいの?』

ちげぇよ

『貴方が何者であれ、あの子達にとっては恩人でもあるのよ
貴方だって知ってるでしょ、あの子達がほぼ毎日と言って良い程
医務隊のバンガローに来てたこと』

知ってはいる、けれど俺は

『恥ずかしいから会わなかったというより、勝手に自分を決め付けて言い訳して逃げてただけ
自信を持ちなさい、貴方には、あの子達に顔向けする資格はある』

さあ、いらっしゃいと言わないばかりに俺に笑顔を向け
あの子達が暮らすバンガローへ案内して行く

『その人の辛さはその人にしか分からないし
貴方の心の奥底にあるモノが何なのか?わからないけど

人が辛い時に「そんなことで」とか云う人、態度で示すように馬鹿扱いする人は私は大嫌いよ

人はそれぞれに考え方を持つし
それを価値観の違いという言葉で片付けて自身と他者を分け隔ててしまう

例え、それに理解を示したとして私は納得まではしないわ

私は自身の信念に背いてまで他者に合わせる生き方は選らばない
だって人としての尊厳を自ら手放す真似など出来るわけないでしょ

ただ自身の境遇に甘えず
自身の境遇のせいにして目を背けずに
しっかりと真実を見なさい

逃げるのは簡単

だけど、1度でも目を反らして逃げたら

貴方は一生涯、逃げ続けて生きて行くことになる

弱くても良い、情けなくても良い

勝った方が強いんじゃない
負けなかった方が強いわけでもない
立ち向かった人が一番強いんだから忘れちゃダメよ
だから生きることを絶対に諦めちゃダメ』

あの子達の暮らすバンガローの前に立った時

俺は..入ることを躊躇した

『応援してくれる人と【応援し続けてくれる人】は違う
貴方は今でも、あの子らを応援し続けてるでしょう?
その行動の結果よ
普通に考えたら見知らぬ男を自分達の暮らすバンガローに来ること
そして、寝食を共にすることを許すと思う?
貴方には悪いとは思ったけれど
あの子達には、貴方の名を教えておいたわ』

ちょっと、あんた...

そう言おうとした

詩音は俺の反応を無視してコンコンと扉を叩いた

中から、赤坂安莉さんの声



扉が開き

赤坂安莉さんと森下まりあさんが姿を見せる
詩音は二人に
『連れて来たわよ。あとはお願いね。』


『ありがとうございます。』と二人は詩音に礼を言い


『さあ、中へ入りなさい "水澤くん"』


『水澤さん、中に入って下さい。』




たった今 この瞬間
誰かが、あなたのことを誇りに思っている
誰かが、あなたのことを考えていて
誰かが、あなたのことを気にかけてくれてる
誰かが、あなたがいなくて寂しいと思っていて
誰かが、あなたと話したいと思っている。

だから笑顔で笑っていれば奇跡が起きる。

Anri_Akasa

THE LAST STORY>Four-leaf clover<


第五話 流星 へ

つづく。

※この物語はフィクションです。登場する人物、団体は実際の人物、団体とは何ら関係ありません。


 ̄ ̄★★★★★__

After all, nothing could be told

After all, nothing was told

I pretended not to know anything

But..

When this war is over, I pray that only happy memories in Fukuoka will remain in your heart and my name and existence will be erased from your memory. Good bye.. And... Thank you very much

最期の風になる
僕らは自由になる

さようならだね もう
別れが来てしまう

僕は瞳を閉じるから
さあ背を向けて

You forget me here now
You forget me here now
You forget me here now
_____

THE LAST STORY >Moon crisis< 赤坂 安莉 Anri Akasaka Story
&
THE LAST STORY>Four-leaf clover<

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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登場人物紹介

赤坂安莉

森下まりあ

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