第13話

文字数 3,490文字

Blood snow 巻の2



徐々に見覚えのある顔が戻ってくる
銃を肩に担ぎ戻ってくる兵士
仲間の兵士に背負われて戻ってくる兵士
談笑しながら戻ってくる兵士
榊達の姿を見つけて手を振り笑顔を見せる兵士


菅野大尉も、ゆっくりと戻ってくる


しかし、水澤の姿が見当たらない







兵士達の笑い声が微かに聞こえ、赤坂と森下は塹壕から飛び出して、水澤の姿を探す

川辺に立ち尽くす川中の姿を見つけて二人は走り寄る

「川中さん!水澤さんは?」

川中は振り返ることもせず答える

「途中で血の跡が消えてて見つけられなかった」

そう言うと、その場にしゃがみこんだ

赤坂は川中の横をすり抜け
「まりあちゃん!水澤さんを探しに行こう!」


その声が聞こえたのか、兵士のひとりが歩み寄り
川中に話かけるが、川中は首を振り、わからないというような表情をしている

その兵士は川中の側を離れ、菅野大尉のいる管理棟へ走る


赤塚はまりあの側に行くと、まりあの肩に手を置き
互い見つめあいうなずいた後
水澤に助けられた河辺の向こうへ向かおうとする


それを見咎めた西野詩音は二人呼び戻そうとする

赤坂も森下も首を横に振り、自分達が探しに行くと言って言うことを聞かない

まだ敵が山に隠れているかも知れないから危険だと説明したら

そんな危険な状況に水澤さんひとりを残せないと言って、やはり聞かない

二人のやり取りを聞いていた菅野は、赤塚と森下さんには子供たちの世話をしてほしいと頼み
自分達が必ずを見つけて連れくると約束し

赤坂も森下も、「必ずお願いします、でも見つけられなかったら自分達が探しに行く」と言うと渋々子供たちの世話をしに向かった。






菅野大尉と西野詩音達は手分けをして水澤の行方を探すが見つからない
見つけるものといったら、敵の亡骸ばかりだ


だんだんと、薄暗くなって捜索が困難と判断した
菅野大尉達は、一旦引き上げて翌朝また捜索することに決めた


キャンプ場に戻ってくる首藤達の姿の中に水澤の姿が見当たらないことに気づいた赤坂達は、菅野達の方へ駆け寄る


「水澤さんは?水澤さんは見つからなかったの?ねぇ菅野さん!西野さん!」


すまない。そう言って菅野は管理棟へ入っていく

西野詩音は、二人の方を向き深々と頭を下げ
「明日必ず見つけるから」許して欲しいと言う

二人は、山の方角へ走り出す
後ろから榊達がひき止める「必ず見つけるから、約束するから待ってて欲しい」

「きっと何処かで、怪我をして動けないに決まってる!絶対に私達が見つけるから離して!離してよ!」

「水澤さんは・・・必ず生きている・・・きっと生きて戻ってくるからさ・・・待ってやろうぜ・・」

「たくさん撃たれて、いっぱい血が出てたんです!早く見つけてあげないと死んじゃうよ・・・早くしないと・・・水澤さん、死んじゃう・・・」

その場に泣き崩れる 二人に
何と言葉かければ良いのか適切な言葉が見つからない榊達は静かに山を見つめて、必ず生きて戻って来い、必ず戻ってくるんだ水澤さん・・ ・と祈った。


だんだんと日が傾き、辺りを暗闇が包みはじめる








「もう沢山だ!こんな思いはしたくない!」

「どうせ、俺達全員死ぬんだ!」

「敵に殺されて、全員死ぬんだよ!」


誰かが叫ぶ、悲観的な声

兵隊と民間人の間でまた揉めている

遠巻きに様子を見つめる
二人には、止める気力も起きない
二人は泣き続けたまま顔をあげようともしない


怒号と罵声が空に吸い込まれる
不毛な言い争いが続く




ガウン!




一発の銃声がなり響いた。



銃声のした方角に誰かが居るが薄暗くて見えない

その人影は、少しふらつきながらも言い争いをしていた連中の方へ向かって近づいてゆく


何者だ!兵士のひとりが叫び銃を構える





ガウン!



もう一度、銃声がなる



片腕を天に向かって上げた手に拳銃を握ったシルエットが見える


2発の銃声に、何事かと
菅野大尉と稲葉軍医、三崎軍医 そして西野詩音秘書官も外に出てくる





銃を持ち上げていた腕をゆっくり下に下ろし
自身の左肩あたりを押さえながら、ゆっくりと歩いてゆく

言い争いをしていた連中の視界にはっきりと見える位置に来た時


赤坂と森下が走り出す







二人は声の限りに叫んだ「水澤さん!」

その声と同時に歓声があがる


水澤の身体を支えてあげようと
二人が近づいて行くと


「近寄るな!血で汚れる!」

そう言う、水澤の姿を見て、二人は絶句した。

力がはいらないのか、左手はダランとぶらさがり
胸部から腹部にかけて多量の出血をし、顔まで血に染まっていた。



赤坂達の無事な姿を確認した水澤は、その場に崩れるように倒れた。


「軍医さん!お願いします!早く手当てを」


三崎軍医と稲葉軍医が水澤に駆け寄り傷の状態を確かめる

微かに眉間に皺をよせ、タンカを持ってくるように指示する

「水澤さん!大丈夫?」

赤坂の問いに、水澤は微かに頷き


タンカに乗せられ、管理棟へ運ばれて行く

水澤の後を追い、二人も管理棟の中へ入って行った


管理棟の中には、多数の怪我人が横たわっている

薄いカーテンで仕切られた向こう側に水澤は運ばれて行く

二人も付いて行こうとしたが、三崎軍医に入ってくるなと言われて

管理棟の入り口にあるベンチに腰かけて水澤の傷だらけで痛々しい姿を思い涙がこぼれる

『自分を探しに来なければ
榊さんの所に着いた時、再び闘いに行かせなければあんな風に傷つくこともなかっただろう』と思うと

まりあは とりとめなく、涙が溢れて
ただ、泣くことしか出来なかった。


水澤が運ばれて、どれくらい時間がたっただろう

もう随分と長く待っているように感じられる

まりあの肩に誰かが手を置く、一瞬びくっとして振り返る

三崎軍医「終わったぞ、顔を見に来るか?」

「水澤さんは、大丈夫なのですか?」

赤坂のその問いに三崎軍医は、少し目を細めて無言のまま、うんうんと、二度小さく頷き

二人を水川が寝ている場所へ案内する

そこには、小さなランタンが幾つか吊るされていた
数人の怪我人が横たわっている

その中に
上半身を包帯で巻かれ、点滴をして、寝かされている水澤が居た

二人は、水澤の寝ている側まで行き

スーッスーッと寝息の立てている水澤の呼吸を聞いて
少し安堵の表情を見せる

「軍医さん、水澤さんを助けていただき、ありがとうございます」

三崎軍医「まだ、予断を許さない状態だ・・・一夜を越せれば良いんだが・・・」

「・・・・。」

水澤の顔に、赤坂はそっと手を伸ばして
右頬あたりに触れ、水澤の体温を手のひらに感じながら
赤坂は『この温もりが、失われないように』と祈った

まりあは「・・・きっと、一夜を越してくれると思います。」

そう言う、まりあの顔を見つめて三崎軍医は無言のままで何も言わない

ポタッポタッと涙がこぼれ
水澤が寝ている床を濡らす
少し涙声になりながら、何で何も言わないのか
大丈夫、助かると言ってくれないのかと三崎軍医に二人は詰め寄り言う

三崎軍医は、それでもなお無言のまま目線を反らし
下唇を噛み、静に震えるている
三崎軍医は涙を堪えようと必死なのかもしれない

「死なないで・・・・水澤さん、お願いだから・・・死なないで・・・」

二人は涙を流して声をかける

三崎軍医は、二人の後ろに回り、ただひとこと「すまない。」と言って強く抱きしめた

その言葉を聞いて、二人は、大きく首を横に振り
「嫌です!そんなの嫌です!」震える小さな声で言って
後ろから抱きしめている、三崎軍医の手の甲の上に手を乗せグッと強く握る

手の甲に、二人の爪が食い込む痛みを感じながら
三崎軍医は、ただただ「すまない。」と言う言葉を繰り返すだけだった。

薄暗い部屋の中に、二人の泣く声と
多数の怪我人の誰かが発する呻き声
そして、水澤の微かな寝息だけが聞こえ
光りが漏れないように、閉めているカーテンに少し隙間があるのか
外から月明かりが入って来ていた。


Blood snow 巻の3へと

ーーつづくーー


________
THE LAST STORY
>Paper Airplane<
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

いつかの言葉でも貴女が救われるのなら、それでもいい

時間はいつも残酷に過ぎ去って
戻らぬ過去も伝わらない想いも
貴女にはもう..わかりはしない

高く澄んだ蒼い空に橙色の紙飛行機を投げました

相反する色だからこそ
互いを引き立て合い 美しい


幻想に溶けて行った大切な言葉
知らないままなら知らない方が良かった

何時だって同じ結果でも

それさえ"諦めという名の言い訳"で見て見ぬふりをしてしまう


会えないことが寂しいのではなく
貴女の中から僕という存在がなくなってしまっていること

それが寂しくもあり悲しくもあるのかも知れない


高く澄んだ蒼い空に橙色の紙飛行機を投げました


きっと、この手のひらに


戻ってくる日を信じて...



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登場人物紹介

赤坂安莉

森下まりあ

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