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文字数 752文字

 上野駅まで快速電車で三〇分ほどの所に住んでいるが、都内に遊びや仕事で行く事が少ないせいで、知らぬ間に行きと違う道に入っていたようだ。
 たまにニュースやネット記事などで耳にする「トーヨコ」……最初は私鉄の東横線の事だと思っていたが、新宿の有名なシネコンの横の広場だと知ったのは数ヶ月前だが……の方に行く路地に間違って入ってしまったようだ。
 どうやら、昨日、この辺りで別の事件が起きたらしく、路地の一画が「KEEP OUT」の黄色いテープで塞がれ、何人かの制服警官が立っており、路面にはチョークか何かで人の形が描かれている。
 服部裕一は、少し頭を掻きながら、通行人にJR新宿駅までの道を訊くか、スマホの地図アプリを使うかを迷っていた。
 その時、野次馬の1人が被っていた野球帽から微かな光が見えたような気がした。
 そうだ……少し前……。
 服部は、千葉の柏市に本社工場が有る製造業の設計部門の管理職だが……ある日、自分の部署の係長相当職の女性従業員から、相談を受けた。
 その女性が服部に見せたのは、小型カメラ。職場の女性用トイレに仕掛けられていたと言う。
 まだ犯人は見付かっていないが……。
 そのブカブカの野球帽を被ったスキンヘッドの中年男は、連れらしい女性にしてはがっしりした体格の人物と言い争っているようだった。
「命がいくつ有っても足りない」
 スキンヘッドの男より少し年下らしい女が、警官が居る場所で聞こえよがしに言ったようにも思えるセリフ。
 服部は、意を決して男に声をかけた。
「ひょっとしたら、私の勘違いかも知れませんが……警察の現場検証を隠し撮りされてませんか?」
「え……おっちゃん……何、言ってんだよ?」
 服部は、ゆっくりと野球帽の前面に有る小型のボタンかビーズに偽装されたカメラのレンズを指差した。
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