(3)

文字数 894文字

 走ってた。
 走ってた。
 走って……駄目だ、運動不足で、もう呼吸が荒くなって……眩暈(めまい)までしてる。
 少し寝坊してしまった。
 仕事場である漫画家の安房清二のスタジオまで、後少し。
 でも……遅刻は……確実だ。
 冗談じゃない。
 でも……。
 ああ、ここの道路、横断するか……。
 横断歩道じゃないし、向こうに見える自動車用の信号機も青だけど……まぁ、この時間帯のこの道なら、あんまり車は来ない筈……。
 って、俺と反対側から、道路を渡ろうとしてる奴も……あれ? どっかで見覚えが……。
 まぁ、いいか……。
 そして……そいつも……。
 あれ?
 何だ?
 避けるべきかな、と思って、俺が体を少し横にズラすと、そいつも、俺と同じ方に動き……。
 反対側に少し体をズラすと、同じタイミングで、そいつも体を反対側にズラし……。
 道の真ん中で、大の大人2人が見つめ合ったまま、体を、あっちにズラし、こっちにズラし……。
 おい、いい加減に……え?
 こいつの顔……俺にそっくり……なのか?
 よく見たら服まで同じだ。
 俺は、恐くなって後退(あとずさ)り……向こうも真っ青な顔色で後退(あとずさ)り……。
 その時、向こうがしゃがみ込んだ。
 何だ?
 まぁ、いいや……気味悪いが、今の内に道を渡……。
 動けない。
 動けない。
 いつの間にか、俺もしゃがんでいた。
 そして、体の自由が効かない。
 座ったまま……。
 ああ、そうだ。
 たしか……俺がアシスタントをやってる漫画「本家・祟り屋」の沖縄の米軍基地反対の活動家のエピソードも……こんな感じだった。
 ドッペルゲンガーが出現する以外は……。
 「座り込みを続けてます」と称してたのに、実は昼の間しか座り込みをしてない事を「論破の帝王」に暴かれて逆恨みしたサヨク野郎が……座り込みの場所から立ち上がれなくなり……そして、サヨク仲間が居眠り運転してた車に轢き殺され……。
 じょ……冗談じゃ……。
 おい、あの回で、俺が出したアイデアそのままの死に方を俺がするなんて……。
 あっ?
 向こうから……安房センセの車が……。
 助けて……。
 だが……安房センセの車が、もう1人の俺を跳ね飛した瞬間、俺の体にも凄まじい衝撃が……。
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