第41話

文字数 1,882文字


「ふざけんな! このキモ〇〇のピーでピーなピーピー〇〇〇〇のぶんざいで、僕の美しい顔に何してくれてんだー!」

 ああ、ロランが壊れてしまった。

「ロラン、大丈夫だよ。とりあえず、アイツの魅了は失敗したから。ちょっと落ちつこう?」
「ハッ! 今一瞬、意識がとんでました!」
「ははは……」

 とにかく、イジマールの魅了は不発だった。みんなの白けた視線をあびただけ。
 ということは、当然……?

 すうっと、イジマールの顔面から、ロランの美貌が消える。
 僕はロランを見なおした。おっと、ま、まぶしい! やっぱり、本家本元の麗しさは違う。仲間なのに魅了されてしまう!

「ロラン。顔、戻ったよ?」
「ほんとっ?」

 手鏡で確認して、滂沱(ぼうだ)の涙をこぼす僕らの勇者。
 うん。よかった、よかった。
 でも、まだ、僕の小説を書くは——使えない!

 どうする? あれはヘタすると、コイツ自身が魔王を超える存在になることだって可能な、ぶっちぎりチート技なんだ。ワレスさんですら、僕のこの技の前には、サラッと書きかえられてしまう。変えないけどさ。

「ぬうっ、負けん。負けんぞ。次はこの技だー! 小説を書くー!」

 キターーーーーーッ!
 僕の技! それ、僕の技だからー!

「ど、どうする気?」
「小説、書くんだろ?」と、猛。
「でも、どうやって書くんですか? かーくんはいつも、スマホっていうのを使うじゃないですか?」

 こっちはロランね。お顔が戻ったから、ご機嫌だ。急に能弁に。

「……」
 あっ、これはゴライか。ほんと、しゃべんないな。

「えっとねぇ。わかんないけど、小説が書ければスキルは使えると思うんだ。だから、紙とペンがあれば、代用できるんじゃ?」
「かーくん。なんで、敵にヒント教えてやるんだよ?」
「ああっ、ごめん! ウッカリかーくん!」

 イジマールはふところをゴソゴソして、紙とペンをとりだした。何やら書いている。どうしたことか、その文章がテロップになって浮かびあがる。
 もしかして、僕が小説を書いてるときも、こんなふうになってたのかな? または戦闘中だけの仕様なのかもしれない。
 なになに? なんて書いてるんだ?


 舞霊なしんにゆしやあり、われごれとたたかいまちた
 少説を掻くとかいう、このスキーで、現今書きつつわれ是にあり!だいそれなやつめらに天馬を与えるのだ!どわははははははははははははははははは


「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 何コレ? 小説? これが小説? ウソでしょ? 幼児か? 幼児かよ? 何が言いたいのか、さっぱりわかんないんだけど!

「てかさ! ぜんぜん、なってない! こんなの小説じゃないよ? どころか、作文以前だからね? ちゃんと学校行ったの? まちがいだらけ! ちょっと、ペン貸して!」

 僕は思わずかけよって、イジマールの手から紙とペンをぶんどった。そして、添削していく。

「まず、この舞霊って何? 舞う霊って、おまえはオバケかー! 無礼だよね? 無礼って書きたかったんでしょ? 小学生でも書けるよ? このていどの漢字。しんにゆしや? 侵入者でしょ? むしろ、無礼はひらがなでもいいから侵入者は漢字にしようよ? 読者が読みにくいよ。ひらがなだとしても『ゆ』と『や』が小文字になってない! 途中の『う』もぬけてる! 我、これと戦いましたじゃないの? まちたって、まちた! 笑っちゃうよ? 赤ちゃん語、使わない! おっさんキモイだけ! あとね。ましたのあと、句点すらないじゃん? 感嘆符のあとは一個スペース入れるの。このくらい物書きの常識ね? 小説を掻くって、そんなんだから書けないんだよ! この掻くは、かゆいとこを掻くの『かく』だからね? 同じ読みでも意味違うんだよ? わかってる?」
「あ、う、え……」
「あ、う、じゃない! だいそれなって、ここも誤字! 天馬をあたえる? それむしろ、僕たち嬉しいからね? ほんとにくれるんならちょうだいよ。天馬、ちょうだい? 天罰なんじゃないの? とにかく、書きまちがいや誤字が多すぎる。失格! あんたに小説を書く資格はない!」

 あっ、添削だらけにした文章が消えていく。
 この感じ、戻った……戻ったー!

「ああっ、小説、書けるようになったー!」
「やったな、かーくん!」
「よかったですね!」

 僕は猛やロランと肩を抱きあって喜びのスクラムを組んだ。

 よし。もう封じられるだけ封じたし、いよいよ、倒すぞ——と思ったら、うなだれていたイジマール。とうとつにクックックッと笑いだす。

「まだだ! まだ負けん! やれ。わがしもべ!」

 えっ? しもべ? お供、いたんだ?
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