第7話 アメちゃんで餌付けできるのか

文字数 1,853文字


 ダンケさんは倒れた。
 ごめん。あとで蘇生魔法かけてあげるから。ちょっと待ってて。またヘタに動かれると困るんだよね。

 おかげさまで、地獄の番犬のターンは終わった。
 そのあとは瞬殺だ。

「ぽよちゃん、やる? 僕がやる?」
「ピュ〜ピュイ」

 ご機嫌よさそうな声を出すときは、ぽよちゃんがやる気満々な証拠。

「じゃあ、ぽよちゃん、お願い!」
「キュイ!」

 タタタッと走るウサギ型モンスター。サイズはふつうのウサギよりだいぶ大きい。世界最大のフレミッシュジャイアントラビットくらいはある。
 ぽよちゃんがトンと跳躍し、かるく頭突きくらわすと、地獄の番犬は目をまわした。


 チャララララッチャチャ〜
 戦闘に勝利した。
 経験値5500を手に入れた。ダンケはレベルアップした。ダンケはレベルアップした。ダンケはレベルアップした。
 地獄の番犬の牙を手に入れた。
 地獄の番犬は物欲しそうにアメちゃんを見ている。アメちゃんをあげますか?


「えっ?」


 アメちゃんをあげますか?


 なんだろう?
 今まで、そんなテロップ見たことないんだけど?
 まあ、いいや。あげてみようか。

 僕はアメ玉を一個ひろうと、包み紙をひろげて、中身をポイッとなげてみた。クンクンと匂いをかいでた地獄の番犬がペロリとなめる。


 餌付けに成功した!
 地獄の番犬が仲間になった!


「えっ! 仲間なるんだ?」

 なんと、アメちゃんにはそんな効果まで?
 今までモンスターを仲間にできるのは、勇者である蘭さんだけだったのに。

「ガウガウ」
「うん。わかった。君は今日から、バスカーヴィル——ああっ、文字数超過で登録できない。じゃあ、バスカーだ」
「ガウ!」

 たのもしい仲間を得た。
 ダンケさんはNPCあつかいみたいだ。自動で蘇生してくれたし、とにかく、前に進む。

「おや? 私が倒したのか? さすが、私だな。失神しつつも敵を相討ちにするとは」
「いや、違いますよ?」
「ハッハッハッ! モンスターが出たら、私に任せなさい。ブヒッ!」
「いや、だから、違うって」

 なんで僕のまわりの人って、聞く耳持たないんだろう? 僕がそういうふんいきをかもしだしてるんだろうか? 謎だ。

 バスカーの案内で森のなかの小道に出た。進んでいくと、屋敷が見えた。あれがアコギー商会かな? 豪華なんだけど、なんとなく禍々しい。イヤな空気感がただよってる。

 屋敷のまわりには地獄の番犬が何頭もウロつきまわってる。変だなぁ。ただの人間がモンスターを使役できるわけないのにな。
 そこはかとなくイヤな予感がする。

 そろり、そろりと近づいていく。屋敷の近くには物置みたいな小屋があった。なんでこんなとこに? ふつう、裏庭とか目立たない場所にあるのが納屋だ。馬車を入れとくにしても、屋敷の玄関に近いとこに建てるもんかな。建てるとしたら、もっと立派なやつじゃないかな?

 はぁ、それにしても、ダンジョンなのに小銭ひろえないの、さみしいーっ! 歩けばひろえたころの感覚が体にしみついてる。くすん。僕の小銭ちゃん……。

 そのかわり、アメちゃんはひろえるんだけどさ。
 地獄の番犬に遭遇しそうになったら、すかさずアメちゃんをなげると、戦わずして仲間になる。楽だなぁ。僕もぽよちゃんもレベルはマックスの99だから、今さら経験値なんかいらないしね。

「この物置、怪しいなぁ。なか、何があるんだろ?」
「少年。無防備に近寄ってはいかん。私が偵察しよう」
「ああー! 勝手に行かないでぇー」
「ハッハッハッ。任せなさい」

 うーん。なんなの、この突撃兵? ダンケさんって、特攻隊だったのかな?

 ダンケさんが一人でなかへ入っていった。こんな怪しいとこにあるのに、なんで無防備に入るかなぁ?
 案の定、なかからわめき声が聞こえてきた。

「なっ! きさま、わが妻に何をしておるかぁー!」

 そのうち、叫び声が……。
 しょうがない。助けにいくか。オクさんが食肉に加工されてたらヤダもんね。
 それにしても、オーク肉なんて誰が食べるんだ? やっぱりモンスターかな? ま、まさか、人間? 豚肉がわりに食べるの?

 僕はゴクリとツバを飲んだ。この場合は「へえ、美味そう。ヨダレ出る〜」のツバではない。緊張のあまり出てきたツバだ。

 そろっと小屋のまわりを一周するけど、さっきダンケさんが入っていった入口以外、ドアはないな。せめて窓があれば、なかをうかがえたんだけど。

 僕は覚悟を決めて、戸口からなかをのぞいた。
 ああー! オクさんがロープで巻かれて天井からつるされてる! その前には屠殺(とさつ)用の牛刀が!
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